魚の耳石(じせき)とは、マサバ、イワシ、サンマなどの硬骨魚類の内耳にある炭酸カルシウムの結晶からなる組織です(伊藤ほか、2018)。耳石の大きさや形は、魚の種類によって、大きく異ります。普通に食卓を飾る焼き魚や煮魚からも取り出すことができます。このため、収集したり、夏休みの自由研究の対象になっています。
福井水産試験場ホームページの「いろいろな魚の耳石」のページでは、見るだけでも楽しい、福井県の海でとれた201種類の魚の耳石の写真が公開されています。耳石の取り出し方は、
福井水産試験場ホームページの「耳石を取り出してみよう」のページの他にも、
「WILD MIND Go!Go!」サイトの「魚の耳石を見つけよう!」で紹介されています。
この魚の耳石は、結晶化した後は代謝されないため、個体が経験した環境履歴が経時的に保存されているという特徴を持っています。多くの魚類では、耳石に日周輪を形成することが飼育実験によって確かめられています。したがって、耳石日周輪をすべて読むことができれば、採取日から逆算することで、孵化日を推定することができます(伊藤ほか、2018)。なお、日周輪は、日輪とも呼ばれています。また、飼育実験から、多くの魚類で、日周輪の数+2が孵化後の日数であることが知られています。
管理人は、約20年前に、農林水産技術会議プロジェクト研究成果報告会で耳石の日周輪を利用したアジ仔稚魚の産卵場推定の話を始めて聞いて以来、魚の耳石を用いた研究の成果に強い期待を抱いてきました。遊泳能力の乏しい仔稚魚は水の動きによって移動するので、耳石の日輪数の空間分布の変化から仔稚魚の日々の移動を捉えることが可能になれば、数日の時間間隔で海水の移動を知ることができるのではないかと、考えたからです。
海水の動きを追跡することは、前エントリーで述べたタンカー沈没事故の影響の推定などで重要な課題です。漂流ブイは海水移動を追跡する有力な方法ですが、漂流ブイを大量に放流するのは、多大な経費を要し、困難です。海水の成分(塩分、栄養塩濃度組成、溶存酸素量、同位体元素比など)を分析し、その違いから海水を区別し、海水の移動を推察する方法が考案され、多くの成果が得られています。しかし、この方法によって海水の移動を短い時間間隔で捉えるのは、容易ではありません。仔稚魚の耳石分析は、生物情報を使って物理情報を得るという面白い課題になると思っていました。
このこともあって、3月25日午前に品川で開催された
第21回海のサイエンスカフェ「耳石でわかる!魚の暮らした環境」に参加しました。マサバの耳石の酸素同位体分析で得られた最新の研究成果の紹介を話題提供者の樋口富彦さんからお聞きし、この約20年間で耳石の分析方法に格段の進展があったことを知りました。その後、3月29日にネットをチェックしていて、平成20年3月25日付けで独立行政法人水産総合研究センターから
「耳石を用いた太平洋産のクロマグロの年齢査定と成長解析の成果」がプレスリリースされていたのに遭遇しました。耳石の年輪の分析から、クロマグロの成長は10歳程度までが速く、それ以降では遅くなること、クロマグロの寿命が20年近いことが示唆されたという、大変、興味深い内容でした。
耳石の話題が重なったのを機に、専門外ですが、以下に、魚の耳石の解説を試みます。
<参考>
新井崇臣 (2007): 耳石が解き明かす魚類の生活史と回遊.
日本水産学会誌、第73巻第4号、652-655.
https://doi.org/10.2331/suisan.73.652塚本勝巳 (2006): ウナギ回遊生態の解明
日本水産学会誌、第72巻第3号、350-356.
https://doi.org/10.2331/suisan.72.350伊藤進一ほか (2018): 気候変動が水産資源の変動に与える影響を理解する上での問題点と今後の展望.
海の研究、第27巻第1号、59-73.
https://doi.org/10.5928/kaiyou.27.1_59続きを読む
posted by hiroichi at 20:06|
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