2022年08月02日

「査読偽装」報道について

7月26日付け毎日新聞東京版朝刊で「査読偽装、米誌も撤回 ワイリー社、不正認定 福井大教授、受け入れ」という記事が掲載された。この記事は、6月10日に毎日新聞がスクープとして報じた「福井大教授が「査読偽装」の疑い 論文審査に自ら関与か」と題する記事の最新情報である。毎日新聞の記事で紹介されている事件のあらましは、

福井大子どものこころの発達研究センター長の友田明美教授が、査読を担った千葉大社会精神保健教育研究センター副センター長の橋本謙二教授と協力し、投稿した学術論文の査読に自ら関与して「査読偽装」をした疑いがある

というものであった。この報道に対し、管理人は、違和感を感じた。それは、上の報道内容から判断すると、今回の「査読偽装」事件の元凶は、責任著者の友田教授ではなくて、査読を担当した橋本教授であるという視点が全く示されていない点であった。
査読システムは学術論文の質を確保するために考え出されたもので、科学の健全な発展の根幹を成すものであると管理人は考えている。しかし、このシステムの現状は、査読を通して科学の発展に寄与しようとする査読者の善意に大きく依存している点で、多くの問題を抱えている。今求められているのは、公明正大な査読システムの維持あるいはその代替システムの構築である。以下では、海洋学分野の国内外の学術誌の査読と国内学会誌の編集に係わってきた者として、学術誌の編集・査読の現状とそのあり方についての考えを述べる。


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posted by hiroichi at 16:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 報道 | 更新情報をチェックする

2022年04月08日

地球環境問題と海洋教育

前回のエントリーから3ヵ月が過ぎてしまった。この間、ロシアのウクライナ軍事侵攻に対する世間の反応に違和感を感じながらも、目前のさまざまな締切に追われ、予定をバタバタとこなしてきた。
こうした中、先日、管理人が昨年12月初めに依頼を受けて2月22日に寄稿した「提言 地球環境問題と海洋教育」が掲載されている(一財)教育調査研究所機関誌「教育展望」2022年4月号が、自宅に届いた。管理人がこの寄稿依頼を受諾した理由は、管理人が昨年から参加している日本海洋教育学会設立準備会の活動の中でおこなわれている「海洋教育の理念」についての議論で感じていることを文章化する良い機会と考えたためである。なお、提言の題目を「地球環境問題と海洋教育」としたのは、「海洋教育・地球環境の課題などについての提言を」との依頼に応えるためであった。
 管理人は、ロシアのウクライナ軍事侵攻が招いた悲惨な事態に直面し、これまで1人でも多くの人が「豊かな想像力」と「広い心」を持つことを目指して、管理人がおこなってきた科学コミュニケーション活動の重要性を再認識した。その一環として、以下に、「豊かな想像力」を育むことが期待される海洋教育について述べた「教育展望」4月号所収拙寄稿原稿のWeb版を示す。


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posted by hiroichi at 16:59| Comment(0) | 教育 | 更新情報をチェックする

2022年01月06日

新年のご挨拶2022

新年 明けましておめでとうございます。本年の年賀状に記載しました文章を以下に再掲し、新年のご挨拶と致します。

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謹賀新年

本年の皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。

Nengajou2022tora.jpg

 これまでおこなってきた海洋科学コミュニケーションや地学教育関連の活動の他に、日本版AAAS設立準備委員会(日本科学振興協会、NPO法人認定申請中)と海洋教育学会設立準備会の活動が加わり、いろいろなオンライン会議・イベントに以前にも増して参加しています。

 近年、さまざま問題に積極的に取り組んでいる人々の間で、主義・主張・立場・経験の違いを超えた対話が成立していない場合が多くなっています。さまざまな議論を実りあるものにするためには、その場に参加する多くの人が、「豊かな想像力」と「広い心」を持っている必要があります。このような人が一人でも増えることを願って、自分に出来ることを、多くの仲間とともに、楽しく続けていこうと思っています。

令和4年 元旦

年賀状全体イメージ画像
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イラスト:
年賀状わんパグ2022無料イラストとテンプレート
年賀状イラスト 寅の土鈴3
http://www.wanpagu.com/nenga17.html

以下に、上の文面の補足として、旧年中の主な活動を振り返りながら思ったことなどを簡単に述べます。


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posted by hiroichi at 15:30| Comment(1) | 日記 | 更新情報をチェックする

2021年05月01日

原発汚染処理水の海洋放出について考えた

2021年5月1日17時48分 一部修正

政府は、東京電力福島第一原発で発生し続けている汚染水を多核種除去設備(ALPS等)で処理したALPS処理水を海に放出する方針を4月13日に正式に決めた。管理人は、人為的放射性物質を海洋に放出することは、その濃度が十分に低くても望ましいことではないと考えている。それは、海中の生物物理化学過程には十分に解明されていないことが数多くあって、生物濃縮、再懸濁(海底に堆積した後に再び海中に巻き上がる現象)などによって魚介類が汚染される懸念を完全に払しょくすることができないからである。また、一旦、海中に広がった物質を回収することは不可能だからである。さらに、海洋は有限であって、有害物質の海洋放出による被害を防ぐためには、濃度規制ではなくて、総量規制をおこなう必要があると考えているためである。

海洋への放出に断固反対し、陸上で保管・処分することを強く主張することも一つの選択肢ではあるが、福島の復興を進めるためには、東京電力福島第一原発敷地内に大量に蓄積された原発汚染処理水を何らかの形で、廃炉と合わせて処分する必要があることには同意する。そこで、自分が、ALPS処理水の海洋放出止むを得ない処分方法であるとして同意するためには、どのように処分するのが良いのかを考えてみた。以下にその詳細を述べる。

なお、東京大学大気海洋研究所と米国のウッズホール海洋研究所がオンラインで3月4日に開催した、東京電力福島第一原発事故で何が起き、海洋と社会にどのような影響を与えたのか、そしてそこから学ぶべきことに関する国際シンポジウム「福島と海:海洋研究10年の軌跡」の内容が以下の寄稿でまとめられている。海洋に放出される放射性物質についての最新の研究の概要を伝える資料として、参照されたい。

米国ウッズホール海洋研究所広報誌「Oceanus」記事(2021年4月1日オンライン発表)
Fukushima Dai-ichi and the Ocean:A decade of disaster response
By Laura Castañon
日本語訳:福島第一と海:災害対応の10年間を語る

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posted by hiroichi at 02:24| Comment(0) | 海のこと | 更新情報をチェックする

2021年03月26日

故平啓介さんの思い出

3月17日午後に海洋学会MLを通して、元東京大学海洋研究所所長の平啓介さん(初めてお会いした時からずっと「さん」付けでお呼びしていましたので、ここでも、そうさせて頂きます)が3月10日にお亡くなりになったことを知った。全く、思いもかけない訃報に接し、個人とのご一緒した数多くの航海、国内外における様々な会議、その他での在りし日のお姿が脳裏に浮かび、深い悲しみに襲われた。以下に、故人との思い出を綴る。



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posted by hiroichi at 02:42| Comment(0) | 想い出 | 更新情報をチェックする