2023年12月23日

「科学の営み」についての対話の試み

日本科学振興協会(JAAS)年次大会2023が、10月7日から9日まで秋葉原でハイブリッド開催された後、12日までオンラインで開催された。管理人は3日間の現地会場での受付を担当した他、9日および12日に「科学について知っていてほしい5つの事」と題するポスターを発表した。このポスター発表の目的は、一般的な研究成果の発表・紹介とは異なり、ポスターの前での発表者と参加者の対話を通して、科学者の在り方、科学の在り方、科学研究の意味などについての共通理解を深めることであった。そのための材料として、拙ブログ2008年5月6日付け記事の中で提案した「科学について知っていてほしい5つの事」の改訂版を提示し、参加している科学者は自分が考える「科学について知っていてほしい5つの事」を、非科学者は自分が考える「科学(者)に望む5つの事」を互いに示し、それらについての意見を互いに交換することを試みた。以下では、このポスター発表の内容と結果を紹介する。

なお、本記事はJAASの教育対話促進プロジェクトが実施する「科学教育 Advent Calendar 2023」の23日目の投稿である。アドベントカレンダーとは、12月25日のクリスマスに向けて、12月1日から日替わりで様々な人が記事を投稿するもので、「科学教育 Advent Calendar 2023」には、科学教育や科学文化に関する様々なトピックが掲載されている。是非、ご覧ください。
 
拙ブログ関連記事:
2008年5月6日付け 科学についての知っていてほしい5つの事
関連ウェブサイト
日本科学振興協会(JAAS)年次大会2023
科学教育 Advent Calendar 2023


1.ポスター
ポスター発表で掲示したポスターは下図に示すように、縦3段で構成した。以下に各段の内容を示す。

JAAS2023Poster-c.png

1)ポスター上段
ポスターの上段の枠内に「背景」と題して、以下の文を示した。
人々の「科学についての考え方」の間に大きな隔たりがある。
 ●科 学 者:科学研究をおこなっている人々(科学についての考え方はさまざま)
 ●非科学者:科学(者)に、期待する人々、無関心な人々、不信や反感を抱く人々
科学者は自分が考える「科学について知っていてほしい5つの事」を、非科学者は自分が考える「科学(者)に望む5つの事」を互いに示し、それらについての意見を交換することで、科学者の在り方、科学の在り方、科学研究の意味などについての共通理解を深めたい。
2)ポスター中段
ポスターの中段の枠内に「例:発表者(科学者)の考える『「科学について知っていてほしい5つの事』」と題して、以下の文を示した。
1)科学は、試行錯誤の過程である
 科学は、試行錯誤を繰り返しながら、世の中の種々の事柄の仕組みについて、全人類の共通理解を深める、時空を超えた過程である
2)科学は既存の科学の知識の集合体ではない
 科学は定説を疑うことから始まる知的探究の過程である
3)科学は人を人たらしめる営みである
 科学は、全ての人が生まれながらに持っている知的好奇心・欲求に基づく、営みである
4)だれでも科学を営むことができる
 科学のあらゆる分野について詳しい知識を持っている必要はない。科学の営みの核心は、多様な価値観の存在を容認しながら、厳しい倫理観に裏打ちされた「内的欲求を追求しようとする強い心」にある
5)科学には限界があり、価値を決めることはない
 科学者は、自分が提供する判断材料・根拠に含まれる不確実性を市民と行政・立法機関に明示する責務がある

3)ポスター下段
ポスターの下段の枠内に「あなたの考える『科学について知っていてほしい5つの事』あるいは『科学(者)に望む5つの事』は何ですか?」と題して、以下の文とともに、回答フォームのQRコードを示した。
右の QRコードから回答フォームにアクセスして、あなたの考える「科学について知っていてほしい5つの事」あるいは「科学(者)に望む5つの事」を記入して、送信してください。

2.ポスター発表の実施と結果
現地発表会場で、管理人のポスターに関心を示した来場者の数は、他のポスターに比べて非常に少なかったものの、個人とグループと合わせて、10組以上の方々(非科学者は科学者に比べて少なかった)とお話しすることができた。オンライン発表会場では、管理人の大学時代の友人が訪れ、旧交を温めることができたのは良かったが、一般参加者はほとんどいなかった。
ポスター説明では、管理人が来訪者が科学者か否かをお聞きした後、今回のポスター発表の目的を説明した。その後に、管理人の考える「科学について知っていてほしい5つの事」について説明し、それについての質疑応答と意見交換をおこなった。初めてお会いした方々から、ポスターの内容を材料にして、科学教育、科学コミュニケーションの効果、その他について様々な意見をお聞きする機会を得ることができたは良かったと思う。しかし、回答フォームに回答していただいたのは、科学者1名のみであった。質問が重すぎたためと思われる。
科学者と非科学者の対話を進めるためには、また「科学の営みの根幹」について議論を深めるためには、ポスターではなくて、ワークショップの形式で、参加者が気楽に考えを提示できるような場を設定する方が良いと思った。また、回答フォームについても、より強引に管理人の考えに賛成か否か、反対する理由は何か、のように回答し易い形すれば良かったのではないかと思う。

3.おわりに
今回のポスターを作成するに際し、拙ブログ2008年5月6日付け記事で提案した「科学について知っていてほしい5つの事」について一部を見直し、以下のようにした。
修正前:科学が価値を決めることはない。
修正後:科学には限界があり、価値を決めることはない
このように修正したのは、新型コロナウィルス感染症対策や福島原発事故処理水の海洋放出などの政策が政治的に決められたにもかかわらず、科学的な結論であるかのような説明が大手を振っているためである。日本学術会議は福島原発事故処理水の海洋放出には問題がないことを発信せよ(このような発信をしない政府機関は不要である)という発言がSNSであった記憶がある。このような発言は「科学には限界があること」が国民の間に十分に浸透していないためであると思われる。
このような状況を変えるためには、義務教育期間中の科学教育において、科学のさまざまな知識を学ぶことだけに限定せず、本記事で示したような「科学の営み」を考える機会を確保する必要があると考える。個性として、理科よりも社会、美術が好きという生徒児童が居るのは当然であり、全員が理科を好きになる必要はないが、「科学の営み」を考えることによって、理科は特別な科目ではないと、多くの生徒児童が思うようにになることを願っている。また、このことが、ニセ科学や陰謀論の蔓延を防ぐことにつながると思う。

最後に、本記事の読者の皆さんに、お時間があれば、以下の回答フォームのサイトにアクセスして、「科学について知っていてほしい5つの事」あるいは「科学(者)に望む5つの事」をお知らせくださいますよう、お願いします。
posted by hiroichi at 01:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 教育 | 更新情報をチェックする
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