前回のエントリーから3ヵ月が過ぎてしまった。この間、ロシアのウクライナ軍事侵攻に対する世間の反応に違和感を感じながらも、目前のさまざまな締切に追われ、予定をバタバタとこなしてきた。
こうした中、先日、管理人が昨年12月初めに依頼を受けて2月22日に寄稿した「提言 地球環境問題と海洋教育」が掲載されている(一財)教育調査研究所機関誌「教育展望」2022年4月号が、自宅に届いた。管理人がこの寄稿依頼を受諾した理由は、管理人が昨年から参加している日本海洋教育学会設立準備会の活動の中でおこなわれている「海洋教育の理念」についての議論で感じていることを文章化する良い機会と考えたためである。なお、提言の題目を「地球環境問題と海洋教育」としたのは、「海洋教育・地球環境の課題などについての提言を」との依頼に応えるためであった。
管理人は、ロシアのウクライナ軍事侵攻が招いた悲惨な事態に直面し、これまで1人でも多くの人が「豊かな想像力」と「広い心」を持つことを目指して、管理人がおこなってきた科学コミュニケーション活動の重要性を再認識した。その一環として、以下に、「豊かな想像力」を育むことが期待される海洋教育について述べた「教育展望」4月号所収拙寄稿原稿のWeb版を示す。
こうした中、先日、管理人が昨年12月初めに依頼を受けて2月22日に寄稿した「提言 地球環境問題と海洋教育」が掲載されている(一財)教育調査研究所機関誌「教育展望」2022年4月号が、自宅に届いた。管理人がこの寄稿依頼を受諾した理由は、管理人が昨年から参加している日本海洋教育学会設立準備会の活動の中でおこなわれている「海洋教育の理念」についての議論で感じていることを文章化する良い機会と考えたためである。なお、提言の題目を「地球環境問題と海洋教育」としたのは、「海洋教育・地球環境の課題などについての提言を」との依頼に応えるためであった。
管理人は、ロシアのウクライナ軍事侵攻が招いた悲惨な事態に直面し、これまで1人でも多くの人が「豊かな想像力」と「広い心」を持つことを目指して、管理人がおこなってきた科学コミュニケーション活動の重要性を再認識した。その一環として、以下に、「豊かな想像力」を育むことが期待される海洋教育について述べた「教育展望」4月号所収拙寄稿原稿のWeb版を示す。
提言 地球環境問題と海洋教育
1.はじめに
地球環境問題には、海が大きく関係している。例えば、海の炭酸ガス吸収が、空気中の炭酸ガス濃度の急激な上昇にともなう地球温暖化の進行を抑制している。一方、地球温暖化による海水温の上昇が、海に生息する生き物たちに深刻な影響を及ぼしている。また、世界の海は1つにつながっており、海に流入したプラスチックごみが人の住まない南極や北極の海の海底にまで広がっている。したがって、地球環境問題に対する解決策を多数の合意を得て実施するためには、海についての基礎知識が社会で広く共有されていることが不可欠である。
海洋教育とは、学校および社会教育施設などにおける、「海に関する教育」の総称である。ただし、現行の学習指導要領には、対象を海に特定した記述はほとんどない。また、海洋教育を実践し、その普及・推進を進めている人々の間にも、その立場によって、海洋教育の理念・目的や、環境教育、防災・減災教育などとの関係についての考え方に大きな開きがある。以下では、地球環境問題の解決につながる海洋教育の現状を紹介した後、海洋教育の重要性を5つの視点から整理し、今後の海洋教育のあり方および普及の方策について提言する。
地球環境問題には、海が大きく関係している。例えば、海の炭酸ガス吸収が、空気中の炭酸ガス濃度の急激な上昇にともなう地球温暖化の進行を抑制している。一方、地球温暖化による海水温の上昇が、海に生息する生き物たちに深刻な影響を及ぼしている。また、世界の海は1つにつながっており、海に流入したプラスチックごみが人の住まない南極や北極の海の海底にまで広がっている。したがって、地球環境問題に対する解決策を多数の合意を得て実施するためには、海についての基礎知識が社会で広く共有されていることが不可欠である。
海洋教育とは、学校および社会教育施設などにおける、「海に関する教育」の総称である。ただし、現行の学習指導要領には、対象を海に特定した記述はほとんどない。また、海洋教育を実践し、その普及・推進を進めている人々の間にも、その立場によって、海洋教育の理念・目的や、環境教育、防災・減災教育などとの関係についての考え方に大きな開きがある。以下では、地球環境問題の解決につながる海洋教育の現状を紹介した後、海洋教育の重要性を5つの視点から整理し、今後の海洋教育のあり方および普及の方策について提言する。
2.海洋教育の現状
海は、岸辺に繰り返し打ち寄せる波、浜辺の漂着物、磯の小動物などを通して、私たちの想像力を育むとともに、自然への畏敬の念を抱かせる源として、古くから数々の文学、詩歌、絵画の対象になってきた。また、海は、水産漁業、海運、海洋スポーツなどの社会経済余暇活動ばかりでなく、気象・気候への大きな影響などを通して、私たちの生活と密接につながっている。
2007年に「海洋立国」を目指す海洋基本法が施行された後、約5年毎に閣議決定されてきた第1期から第3期の海洋基本計画の各々には、「海洋人材の育成と国民の理解の増進」のための海洋教育の推進が盛り込まれている。また、2015年には、目標14に「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」を掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連総会で採択され、2016年には日本財団と東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター(現東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター)は共同助成事業として、海洋教育パイオニアスクールプログラムを開始した。さらに、2021年には、日本海洋教育学会設立準備会が結成された。
ユネスコ・政府間海洋学委員会は、2017年に公開したOcean Literacy for All: A toolkit(Part 1の和訳)の中で、多くの人が備えるべき「海についての基礎知識(海洋リテラシー)」を提案し、「人々の生活は海の影響を強く受け、人々の活動は海に大きな影響を与えている」という地球環境問題に直結する根本概念の下に、以下の「海についての7つの原則」を提示している。
海は、岸辺に繰り返し打ち寄せる波、浜辺の漂着物、磯の小動物などを通して、私たちの想像力を育むとともに、自然への畏敬の念を抱かせる源として、古くから数々の文学、詩歌、絵画の対象になってきた。また、海は、水産漁業、海運、海洋スポーツなどの社会経済余暇活動ばかりでなく、気象・気候への大きな影響などを通して、私たちの生活と密接につながっている。
2007年に「海洋立国」を目指す海洋基本法が施行された後、約5年毎に閣議決定されてきた第1期から第3期の海洋基本計画の各々には、「海洋人材の育成と国民の理解の増進」のための海洋教育の推進が盛り込まれている。また、2015年には、目標14に「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」を掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連総会で採択され、2016年には日本財団と東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター(現東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター)は共同助成事業として、海洋教育パイオニアスクールプログラムを開始した。さらに、2021年には、日本海洋教育学会設立準備会が結成された。
ユネスコ・政府間海洋学委員会は、2017年に公開したOcean Literacy for All: A toolkit(Part 1の和訳)の中で、多くの人が備えるべき「海についての基礎知識(海洋リテラシー)」を提案し、「人々の生活は海の影響を強く受け、人々の活動は海に大きな影響を与えている」という地球環境問題に直結する根本概念の下に、以下の「海についての7つの原則」を提示している。
原則1.地球には、多様な特徴を備えた巨大な1つの
海洋がある
原則2.海洋と海洋生物が地球の特徴を形成する
原則3.海洋は気象と気候に大きな影響を与える
原則4.海洋が地球を生命生存可能な惑星にしている
原則5.海洋が豊かな生物多様性と生態系を支えている
原則6.海洋と人間は密接に結びついている
原則7.海洋の大部分は未知である
海洋がある
原則2.海洋と海洋生物が地球の特徴を形成する
原則3.海洋は気象と気候に大きな影響を与える
原則4.海洋が地球を生命生存可能な惑星にしている
原則5.海洋が豊かな生物多様性と生態系を支えている
原則6.海洋と人間は密接に結びついている
原則7.海洋の大部分は未知である
これらの7つの原則の全体を人々が学び、身に付けることを支援するのが国際標準の海洋教育である。なお、上の「海についての7つの原則」には、我が国の多くの国民が海に対して抱く「海への畏敬の念」が露わには含まれていない。教育における土着性の保持・尊重の観点から、我が国独自に「海への畏敬の念」を原則8として加えることがあっても良いと考える。
3.海洋教育の重要性
「海についての7つの原則」は、国際標準の海洋教育の内容であって、海洋教育の我が国における重要性を示してはいない。海洋教育に携わる人々の間で、海洋教育の理念・目的や、環境教育、防災・減災教育などとの関係についての考え方に大きな開きがあるのは、海洋教育に期待する役割として何を重視するのかが、その立場・視点によって大きく異なっているためであると思われる。
2020年6月に日本学術会議地球惑星科学委員会地球惑星科学人材育成分科会から「初等中等教育及び生涯教育における地球教育の重要性:変動する地球に生きるための素養として」と題する提言が公表された。その第1章で、地球に係わる教育の重要性を、実用的価値、経済的・国家的価値、市民社会的価値、文化的・教養的価値、教育的価値、の5つの視点から述べている。以下に、この提言に倣って、海洋教育の重要性を、上に挙げた5つの視点から考える。
「海についての7つの原則」は、国際標準の海洋教育の内容であって、海洋教育の我が国における重要性を示してはいない。海洋教育に携わる人々の間で、海洋教育の理念・目的や、環境教育、防災・減災教育などとの関係についての考え方に大きな開きがあるのは、海洋教育に期待する役割として何を重視するのかが、その立場・視点によって大きく異なっているためであると思われる。
2020年6月に日本学術会議地球惑星科学委員会地球惑星科学人材育成分科会から「初等中等教育及び生涯教育における地球教育の重要性:変動する地球に生きるための素養として」と題する提言が公表された。その第1章で、地球に係わる教育の重要性を、実用的価値、経済的・国家的価値、市民社会的価値、文化的・教養的価値、教育的価値、の5つの視点から述べている。以下に、この提言に倣って、海洋教育の重要性を、上に挙げた5つの視点から考える。
(1) 実用的価値
人々は、海からさまざまな恵みを受けている。海に面した地域では、眼前にひろがる海の自然の営みや恵みに深く係わる文化が形成されている。海のさまざまな環境に適応して生息する多種多様なプランクトンが、漁業資源生物を支えることで、水産業は持続的に発展する。海洋は、波力・潮流・海流発電、温度差発電などの再生エネルギー源、あるいは石油、マンガン団塊、メタンハイドレートなどの海底資源として、その利用開発に大きな期待が寄せられている。一方、人々は、津波、高潮、異常潮位、離岸流などの脅威にさらされている。このような海に係わる環境保全、食糧確保、資源・エネルギー利用開発、防災・減災事業を担う人材の育成には、海についての基礎知識を修得し、社会と海の自然との間の複雑な関係について配慮する際に必要な豊かな想像力を育む機会を確保する必要がある。
(2) 経済的・国家的価値
日本の国土は平野が少ない結果、容易に活用できる土地が少ないのに対し、日本の排他的経済水域の面積は世界第6位と広大であり、黒潮と親潮が接する日本東方海域は世界有数の好漁場となっている。一方、我が国は、その産業と国民生活を支える地下資源と農作物の大部分を海外に依存しており、その輸入を海上輸送が担っている。また、日本の国土は、南方の海で発生する台風の常襲地域であり、海を源とする大量の水蒸気が豪雨・豪雪をもたらしている。このような国土に暮らす人々の生活を維持するために、国は港湾と海運の円滑な管理運用をおこなうとともに、漁業資源変動や災害を引き起こす可能性がある自然の変化を予測し、適切に対処する施策を実施する必要がある。そのための事業、施策立案・実施、研究開発をおこなう人材の育成には、海についての基礎知識を有し、ある事業・施策が望まぬ効果を引き起こす可能性についても十分に配慮できる豊かな想像力を育む機会を確保する必要がある。
(3) 市民社会的価値
海底地形や深海に生息する生き物たちの生態については、その調査が困難であるために、ほとんど知られていない。また、プラスチックごみや地球温暖化による海水温の上昇が海の生き物へおよぼす影響についても、その過程が複雑であるために、十分に解明されていない。このため、海についての重要な知見の更新の頻度は、他の分野に比べて格段に高い。海洋教育で、海についての科学的知見が更新される過程を具体的に学ぶことによって、対象についての共通理解を様々な証拠に基づいた意見交換によって深めるという「科学の営み」と、観測・調査が不十分な状況では十分に確かな答えを求めることは難しいという「科学的な知見の限界」についての理解が深まるとともに、定説に拘らないで、新たに提案された説にも柔軟に対応することができる豊かな想像力が育まれる。
海洋教育を通して、「科学の営み」や「科学的な知見の限界」を具体的に学び、豊かな想像力を持つ人が増えることによって、利害が対立する問題への対応を協議するさまざまな集まりでの合意が、個人の信念・信条や専門家の権威ではなくて、証拠に基づくフラットな意見交換によって形成されるようになることが期待される。
海洋教育を通して、「科学の営み」や「科学的な知見の限界」を具体的に学び、豊かな想像力を持つ人が増えることによって、利害が対立する問題への対応を協議するさまざまな集まりでの合意が、個人の信念・信条や専門家の権威ではなくて、証拠に基づくフラットな意見交換によって形成されるようになることが期待される。
(4) 文化的・教養的価値
海に係わる伝承・伝説・科学的知見は、海辺で観察されるさまざまな事柄とその変化を整合的に理解したいという人間が持つ根源的な欲求への知的探究と試行錯誤の歴史の帰結といえる。この歴史を通して蓄積された海についての基礎知識を海洋教育で総合的に学ぶことによって、人々は、海に対して畏敬の念を抱きながらも、身近に感じるとともに、海が人間生活に影響を及ぼしているだけではなく、人間活動が海に影響を及ぼしていることを理解できるようになる。その結果、海洋生物資源の適正利用、生物多様性の確保、生態系の保全、海洋プラスチックごみ汚染防止などについて、資源が有限な地球上に共に暮らす市民として適切な行動を選択できるようになる。また、さまざまな過程が海の目に見えないところで進行していること、あるいは先人たちが繰り返してきた試行錯誤の歴史を学ぶことによって、豊かな想像力が育まれ、それに基づいて想定外な事態への対応を予め準備できるようになることが期待される。
(5) 教育的価値
世界の海は1つにつながっており、海の環境の変化には、世界各地におけるさまざまな社会経済活動と世界の海における物理・化学・生物・地学の各々の分野の素過程が互いに複雑に関係している。また、海は人々の芸術的感性を触発する存在でもある。このため、海洋教育は、社会科、理科、他の全科目を横断した複合分野の教育であるといえる。このことは、社会科、理科および他科目の教育の各々をいかに完璧におこなっても、そこには各教科科目で学ぶ項目が互いに関係している海については、海洋教育でなければ学ぶことはできないことがあることを意味している。海洋教育によって、海の自然と人間の営みとの関係を総合的に理解し、多面的に自然や社会を考えることができる想像力あるいは教養のある人間が形成されることが期待される。
小学校において、海が目に見えないところで日常生活と密接につながっていることを知ることで、海が身近な存在であることを学ぶとともに、目に見えない事柄に思いを巡らす想像力が育まれる。また、海に係わるさまざまな事柄についての好奇心が刺激され、その後の中学校での社会科および理科教育において個別の事象の各々を学ぶ意欲を高めることが期待される。高等学校において、それまでの学校教育の全教科で海について学んだことを体系的に理解することが期待される。さらに、大学教育や社会人教育で海を学ぶことで、社会が直面する環境保全、防災・減災などの諸問題の解決に必要な基礎知識の再確認と想像力の喚起が期待される。
小学校において、海が目に見えないところで日常生活と密接につながっていることを知ることで、海が身近な存在であることを学ぶとともに、目に見えない事柄に思いを巡らす想像力が育まれる。また、海に係わるさまざまな事柄についての好奇心が刺激され、その後の中学校での社会科および理科教育において個別の事象の各々を学ぶ意欲を高めることが期待される。高等学校において、それまでの学校教育の全教科で海について学んだことを体系的に理解することが期待される。さらに、大学教育や社会人教育で海を学ぶことで、社会が直面する環境保全、防災・減災などの諸問題の解決に必要な基礎知識の再確認と想像力の喚起が期待される。
以上に述べたように、海洋教育には多様な価値がある。さまざまな海洋教育の現場においては、このことを十分に認識した上で、教育目標を明確に定め、教育計画を組み立てる必要がある。
4.学校における海洋教育のあり方
学校における海洋教育は、社会科、理科、他の全科目を横断した複合分野の教育であり、「総合的な学習の時間」でおこなわれるのが最もふさわしい。この場合に重要なのは、課題を設定する、あるいは結果を考察する際に、その課題が「海についての7つの原則」の中のどの原則と最も深く関係しているのか? 他の原則とはどのように関係しているのか? を調べ、考える機会を設けることである。
例えば、海洋プラスチックごみ問題で「生活の中でのプラスチックごみ排出削減」を課題とした場合、最も関連するのは原則6であるが、原則1とは世界の海への広がり方で、原則3と4とは陸から海への流入で、原則5とは海の生き物への影響で関連している。このように、海洋プラスチックごみ問題に関して選定した課題が7つの原則のどれとどのように関係するのかを考えることが、「海についての7つの原則」全体を理解して、海についての基礎知識を総合的に修得することにつながる。なお、我が国で実践されている小学校における海洋教育の多くは、「海を知る」ための入り口として、「海と親しむ」ことを重視し、結果として、原則6のみに係わる学習に止まっているように見える。
学校における海洋教育は、社会科、理科、他の全科目を横断した複合分野の教育であり、「総合的な学習の時間」でおこなわれるのが最もふさわしい。この場合に重要なのは、課題を設定する、あるいは結果を考察する際に、その課題が「海についての7つの原則」の中のどの原則と最も深く関係しているのか? 他の原則とはどのように関係しているのか? を調べ、考える機会を設けることである。
例えば、海洋プラスチックごみ問題で「生活の中でのプラスチックごみ排出削減」を課題とした場合、最も関連するのは原則6であるが、原則1とは世界の海への広がり方で、原則3と4とは陸から海への流入で、原則5とは海の生き物への影響で関連している。このように、海洋プラスチックごみ問題に関して選定した課題が7つの原則のどれとどのように関係するのかを考えることが、「海についての7つの原則」全体を理解して、海についての基礎知識を総合的に修得することにつながる。なお、我が国で実践されている小学校における海洋教育の多くは、「海を知る」ための入り口として、「海と親しむ」ことを重視し、結果として、原則6のみに係わる学習に止まっているように見える。
5.おわりに
「総合的な学習の時間」に海洋教育を実施するとした場合に問題となるのは、「総合的な学習の時間」に振り分けることが可能な授業時間数には限りがあり、全ての児童生徒が海にかかわる課題に取り組むことができるとは限らない点である。児童生徒が各教科で海についての基礎知識を学ぶ機会がほとんど無いことも問題であるが、理科、社会科他で海に関連する項目を個別に学ぶだけでは、「海についての基礎知識」を総合的に考え、理解しようとする態度を涵養することは難しい。「海についての7つの原理」を総合的に学ぶ機会を小学校教育期間中に確保する必要がある。
2016年に日本海洋学会を含む35の海に係わる学会・委員会は共同して、学校教育における海洋教育を推進する方策の1つとして、「小学校理科第4学年単元『海のやくわり』新設の提案」)を文部科学省に提出した。この提案に倣って、今後、関係者が協力して、以下のような提案を文部科学省に提出し、その実現に向けて、さまざまな形の活動を実施する必要がある。
「総合的な学習の時間」に海洋教育を実施するとした場合に問題となるのは、「総合的な学習の時間」に振り分けることが可能な授業時間数には限りがあり、全ての児童生徒が海にかかわる課題に取り組むことができるとは限らない点である。児童生徒が各教科で海についての基礎知識を学ぶ機会がほとんど無いことも問題であるが、理科、社会科他で海に関連する項目を個別に学ぶだけでは、「海についての基礎知識」を総合的に考え、理解しようとする態度を涵養することは難しい。「海についての7つの原理」を総合的に学ぶ機会を小学校教育期間中に確保する必要がある。
2016年に日本海洋学会を含む35の海に係わる学会・委員会は共同して、学校教育における海洋教育を推進する方策の1つとして、「小学校理科第4学年単元『海のやくわり』新設の提案」)を文部科学省に提出した。この提案に倣って、今後、関係者が協力して、以下のような提案を文部科学省に提出し、その実現に向けて、さまざまな形の活動を実施する必要がある。
海では物理・生物・化学・地学分野の種々の現象・事項が互いに関係している。また、人々の生活は海の影響を強く受け、人々の活動は海に大きな影響を与えている。このような海の自然現象の一端を学び、そのことを通して、理科を総合的に学ぼうとする意欲を高めることを目標とする総時間数3時間の単元『海のやくわり』を小学校理科第4学年初頭に新設する。