明けましておめでとうございます。
本年の年賀状に記載しました文章を以下に再掲し、ご挨拶と致します。
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謹賀新年
本年の皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
古希を過ぎましたが、さまざまなイベントで新たな「出会い」と「学び」を得ることに喜びを感じながら、日々を大過なく過ごしています。これまでの海洋科学コミュニケーションや地学教育関連の活動に加えて、旧年10月から、各地の住民が各々の地区の特性に応じた津波防災対策計画を策定する際に助けとなる指針について検討する活動を新しい仲間と始めました。3月には公開検討会を開催する予定です。
先が見えない今の日本社会には、「金だけ、今だけ、自分だけ」という風潮が蔓延しているように見えます。このような社会に抵抗して、「豊かな想像力」と「広い心」を持つ人が一人でも増えることを願って、今後も、焦らずに、自分に出来ることを、多くの仲間とともに、楽しく続けていきたいと思っています。
令和2年 元旦
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イラスト:
年賀状2020デザイン無料テンプレート
干支(子)の土鈴のイラスト
以下は、上の文面の補足。
1.参加イベント
3月末で4年間の日本海洋学会幹事・和文誌「海の研究」編集委員会委員長役と、6年間の日本海洋学会教育問題研究会世話役を終えたものの、2018年からの地球惑星科学連合理事・教育検討委員会委員長およびそれに関連する委員会ウェブサイトの管理・更新、その他の作業に追われて多忙な日々であった。その間にさまざまなイベントに参加した。その中で、3月の「海のサイエンスカフェ」に参加されたYKさんのお誘いで、6月に参加した22世紀学会第121回研究会で、主として民間企業技術系の方々とお話が出来て、新鮮な体験であった。
2.海洋科学コミュニケーション・地学教育関連活動
昨年の海洋科学コミュニケーション・地学教育関連活動の中で最も嬉しかったのは、8月下旬の国際地学オリンピック韓国大会に向けて、4月早々から大会直前まで過去の国際大会の問題を素材に通信指導をしていた日本代表選手全員が金メダルを獲得したことだった。大気と関連した事項以外に海洋に関する事項がほとんど含まれていない我が国の高校地学しか学んでいない生徒たちが、これを機に、海洋学への関心を高め、理解を深めることを願って、海洋学分野の過去問の解説をし続けた管理人への思いもかけなかった贈り物であった。彼らの努力に心から感謝したい。
また、理科教育にかかわる者がニセ科学問題を論じることの必要性・重要性を長年、強く感じていた管理人にとって、12月に理数系学会教育問題連絡会2019年度シンポジウム「疑似科学やデマに正しく向き合うために -科学教育で何をどう伝えるか-」を開催することができ、その趣旨説明で管理人の思いを伝える場を与えて頂いたのも、昨年の嬉しい出来事の一つであった。
7月下旬に科学技術館で開催された「青少年のための科学の祭典2019全国大会」で、2日間にブースを訪れた約200人の子どもたちに親しく接しながら実験演示をできたのも良い経験であった。この企画は、当初は管理人一人で対応する予定で応募した。採択され、一人で対応するのが非常に難しいことが分かって発したSOSに応えて、教育問題研究会のINさん、YSさん、KMさんに助けていただいた。この方々の当日のご支援と、管理人の独りよがりな演示計画について実施中や実施後に頂いた様々な助言に深く感謝している。
<参照資料>
真水と海水に浮かぶ氷のとけかたは同じ?
青少年のための科学の祭典2019全国大会 実験解説集、「青少年のための科学の祭典」全国大会実行委員会編、公益財団法人 日本科学技術振興財団、東京、10頁.http://www.kagakunosaiten.jp/convention/pdf/2019/010.pdf
7月末には、東京大学海洋教育センターと公益財団法人日本財団が共同主催した2019年度海洋教育研究会に参加した。また、8月初めには、地球惑星科学連合教育検討委員会の活動の一環として、2月に実施した国際海洋リテラシー調査他を題材にして、幼稚園、小中高校の教諭を対象として教員免許状更新講習「海と私たちの生活」の講師を担当した(この実践報告を含む口頭発表「海洋科学に関する教員免許状更新講習担当講師への誘い」を9月に富山で開催された日本海洋学会2019年度秋季大会でおこなった)。11月下旬には、地球惑星科学連合教育検討委員会主催で全国高校地学教育関係者情報交換会に参加した。これらのイベントで、多くの現場教員の方々と出会い、様々な意見を交換することできた。この間、2018年10月から加わった日本学術会議地球惑星科学委員会地球惑星科学人材育成分科会地学・地理学初等中等教育検討小委員会で他の委員の方々とともに提言の素案「初等中等教育および生涯教育における地球教育の重要性:変動する地球に生きるための素養として」の作成に取り組み、年末に地球惑星科学人材育成分科会に提出した。
3.津波防災対策計画策定ガイドライン
東日本大震災発生直後の巨大防潮堤建設についての混乱に疑念を感じ、海洋学研究者として何が出来るのかを考えながら種々の会合に参加していた。何かの機会に国際津波防災学会設立準備会の存在を知り、2017年8月の国際津波防災学会第3回設立準備会で「津波防災対策のグランド・デザイン構築に向けて」と題する公募講演をおこなった。2017年11月に国際津波防災学会が発足した後の2019年1月には新設分科会提案募集の案内があり、先に公募提案した手前、3月に「津波防災計画立案ガイドライン分科会」設立提案書を提出した。
この設立提案書の思いのエッセンスは、11月に開催されたサイエンスアゴラ2019の良縁創出企画「お台場100人論文」(匿名で自分の関心事や研究テーマを掲示し、質問、コメント、アドバイスなどを付箋紙に記入しあう企画)への応募提案書に示した以下の文章である。
・自分の関心事(300字以内)私は、海に係わる研究者として、東日本大震災直後の巨大防潮堤建設計画が画一的に推進されていた状況について、巨大防潮堤でも津波の被害は防げないのに、生態系破壊などの懸念があるのに、なぜ、巨大防潮堤以外の選択肢が考えられなかったのか? という疑問を抱きました。関連する情報を収集する中で「行政のお絵かき、学者のたわごと、マスコミのおめでたさ、NPOのおせっかい。これがなければ、とっくに復興していた、と語った住民もいた」という記事が心に刺さりました。そこで、各地の住民がその地域に応じた津波防災対策計画についての合意を形成することを支援するためのガイドラインを作ることを思い立ちました。・こんなコラボできたら嬉しい(120文字以内)津波予測、土木建設、都市設計、社会心理、行政法などの諸分野の研究者が、行政担当者、各種産業従事者・教員・地域住民と協働して、各地の住民がその地域に応じた津波防災対策計画を立案する際に必要な情報を提供するガイドラインを作成できたら嬉しい。
別の設立提案と合わせた「津波防災対策計画検討分科会」を9月に提出し、10月に承認された。その後、11月の国際津波防災学会総会での講演、分科会HPの作成、分科会会員の勧誘、3月1617日の第1回公開検討会の準備で慌ただしい日々である。ガイドラインの完成まで道のりは遠いが、多くの人の支援を得て、道を切り開いていきたいと考えている。
この活動を本格的に始めて数か月を経過したが、工学、都市計画他、これまであまり交流のなかった分野の方々との新しい出会いに喜びを感じている。本ブログの読者の中で、この活動に関心のある方は、分科会入会案内サイトからお申し込みください。
4.「金だけ、今だけ、自分だけ」
賀状に記したフレーズ「金だけ、今だけ、自分だけ」は、槌田劭さんが提唱したフレーズである。類似したフレーズに、槌田さんとは別に独立して、鈴木宣弘さんが使い始めた「今だけ、金だけ、自分だけ」というフレーズもある。
<詳細>
拙ブログ記事
2014年10月11日付け 「金だけ、今だけ、自分だけ」の風潮への対処法
最近、このフレーズが広く使われているようである。例えば、賀状を印刷した後で、毎日新聞2019年12月22日東京朝刊のコラム「時代の風」で藻谷浩介さんが「一線を越えた政権トップ 今だけ・金だけ・自分だけ」と題する記事を投稿していたのに気付いた。藻谷さんは、「目的のためには平気で一線を越える」という態度が、政権トップから世間の末端にまでまん延しているではないか、と冒頭で述べた後、
一線を越える理由が、公のためでも未来世代のためでもなく、「今だけ」「金だけ」「自分だけ」のいずれか、もしくは全部なのだ。
「株価が高値を続けている限り辞めなくてよい」と、これまた「今だけ・金だけ・自分だけ」の発想で支持層になっている人は、結構な数がいるように思える。
という形で、安倍政権とその支持者について言及している。
また、1月3日公開の日刊ゲンダイDIGITAL掲載記事 新春特別インタビュー「斎藤幸平氏が警鐘 カリスマ政治とヒーロー待望論の危険性」の中で、斎藤幸平さんの
日本で安倍政権を強く支持しているのも、高度経済成長期やバブル時代を覚えている中高年の男性です。日本が輝いていた時代への郷愁と、今の生活を失うかもしれないという「恐れ」が、反中・嫌韓の排外主義を生んでいる。自分だけがよければいいというエゴが長期政権を支えています。
という言葉を、聞き手=峰田理津子さんは、
「今だけ」「自分だけ」よければいいという刹那的な発想は、目先の利潤を追求する資本主義と非常に相性がいいですよね。
と受けている。
「金だけ、今だけ、自分だけ」という風潮が蔓延している背景には、新自由主義とグローバル経済の行き過ぎとそれに伴う格差拡大などがあるように思う。
2014年10月11日付け拙ブログ記事の最後に、
管理人は、一人でも多くの人が「金だけ、今だけ、自分だけ」の風潮を乗り越える道に歩を進める一助となることを願って、「多様な価値観を容認する社会の実現」と「豊かな想像力を涵養する教育の実施」のための科学コミュニケーション活動を出来る範囲で続けていきたいと思っている。
と述べている。この思いは今も変わらない。