本年の年賀状に記載しました文章を以下に再掲し、ご挨拶と致します。
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謹賀新年
本年の皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
これまでの海洋科学コミュニケーション活動に加え、旧年9月から日本地球惑星科学連合教育検討委員会委員長として、地学教育全般にも深く係わるようになりました。
先の見えない時代ですが、科学コミュニケーション活動を通して、「豊かな想像力」と「広い心」を持つ人が一人でも増えることを願って、今後も、焦らずに、自分に出来ることを、多くの仲間とともに、楽しく続けていきたいと思っています。
最近、いろいろな所で、「無意識のバイアス(誰もが潜在的に持っている偏見)」が話題になっています。自分が持つ「無意識のバイアス」に気付くことで、新たな道が開けるではないかと思っています。
平成31年 元旦
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イラスト:
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以下は、上の文面の補足。
1.日本地球惑星科学連合教育検討委員会
管理人は海洋教育の普及・推進にかかわる様々な活動の一環として、国際地学オリンピック参加選手のための研修会での講師を担当したり、地学教育および理科教育にかかわる情報収集のために地学教育フォーラムML、理科カリキュラムを考える会および理数系学会教育問題連絡会シンポジウムに参加してきた。これらの活動を通して、日本地球惑星科学連合教育検討委員会の方々との交流を深めてきた。
日本地球惑星科学連合(Japan Geoscience Union; 以下JpGU)とは、地球惑星科学に係わる研究者・技術者・教育関係者・科学コミュニケータ,学生や当該分野に関心を持つ一般市民からなる個人会員,地球惑星科学関連学協会などの団体会員,事業を援助する賛助会員から構成される学術団体である(2018年11月末現在.個人会員数は約1万人,団体会員数は50)。ここで、地球惑星科学とは、宇宙惑星科学、大気水圏科学、地球人間圏科学、固体地球科学、地球生命科学、および関連の学際分野で構成される学術分野であり、初等中等学校教育の地学・地理分野に相当している。管理人が1972年から会員となっている日本海洋学会は、2005年のJpGU設立時から参加しており、その春季大会は、2017年度からJpGU大会と合流して開催している。
JpGUの組織の中で、教育関係についての活動を担っているのが教育検討委員会である。この委員会は、これまでに、理科及び社会、地学地理分野の学習指導要領改訂に伴う教育課程を検討し、様々な提言や要望を文部科学省へ提出するなどの活発な活動を行ってきている。この委員会の主要メンバーの多くは初等中等学校の現場教員であり、その方々が非常に多忙な本務の傍ら、様々な活動を活発にされていることを、内心、高く評価していた。
このような方々から、2018-2019年度JpGU役員選挙に際し推薦を受けて、5月に理事に選出され、その後、会長の指名により、教育検討委員会を担当することとなった。JpGUニュースレター第14巻第3号に寄稿した理事就任挨拶では、JpGU理事としての管理人の活動の基本的考えとして、JpGUの会員の多くを占める研究者に初等中等学校教育への関与の重要性を訴える意味を込めて、
地球惑星科学研究を継続的に発展させることの重要性を国民に理解してもらうためには,長い目で見て,初等中等教育における理数系教育および地理教育との連携の強化と,地学教育を担当する教員の支援の拡充が必要だと思っています.皆様のご支援、ご助力を宜しくお願い申し上げます。と述べた。その後、教育検討委員会の主要メンバーの推薦を受けて、9月に委員長に就任した。これまでは、海洋学研究者として、海洋教育の推進、海洋リテラシーの普及、それの大元の科学リテラシー普及をメインに活動してきたが、問題が山積している地学教育全般についても深く係わることになった。委員長に就任して、その責務の重要性を身に染みて感じている。荷は重いが、我が国の初等中等学校教育における理科教育の望ましい姿について議論を深め、その実現に向けて、微力を尽くしていきたいと考えている。
その手始めとして、JpGUウェブサーバー内に、教育に係わる情報の共有を目的とする教育検討委員会ウェブサイトを12月下旬に開設した。理科教育、地学・地理教育について関心を持っておられる方は、是非、このウェブサイトを時折チェックしていただき、ご意見などを頂ければ幸いである。
2.科学コミュニケーション活動の目的
昨年8月に刊行された日本サイエンスコミュニケーション協会誌第8巻第1号(通巻第11号)の16頁に、特集「本とのサイエンス」の一部として行われた原稿募集に応じて寄稿した以下の文が掲載された。
科学の不定性と社会 現代科学のリテラシー科学コミュニケーション活動の目的は、人によって異なるが、管理人は、上の寄稿でも述べているように、「科学の営み」についての知識の普及によって、社会が多くの人にとって住みやすくなることを目的としている。ここで、「多くの人にとって住みやすい社会」とは、「豊かな想像力(相手に寄り添って、根拠に基づいて懐疑的に考えることができる力)」と「広い心(自分の考え・立場に囚われない、拘らない)」を持つ人が多数を占める社会であると考えている。この意味で、管理人は、JpGU教育検討委員会の地学・地理教育に係わる活動も科学コミュニケーション活動に含まれていると考えている。
本堂毅・平田光司・尾内隆之・中島貴子 著
信山社 2017年12月10日発行 1960円
私は、「科学の営み」についての知識の普及によって、社会が多くの人にとって住みやすくなることを願い、試行錯誤を繰り返しながら、自分なりの科学コミュニケーション活動をしている。このような私にとって、科学技術社会論(STS)分野で、日夜、科学技術と社会の関係のあり方についての研究に取り組んでいる方々は、希望の星である。それは、自分の科学コミュニケーション活動の方向・手法などの妥当性の判定材料として、STS研究者から提案、提示される様々な考え方や指針に期待しているからである。本書は、この期待に十分に応えている。本書は、「科学の不定性」をキーワードに、防災、医学的診断、犯罪捜査、裁判、家族概念、理科教育、教養教育、法教育、市民参加、不定性の評価など、科学技術の役割および限界と、それらへの対処例の紹介・解説を通して、「科学」と「社会」をつなぐ様々な活動に携わる人に、斬新な視点を提供していると思う。
拙ブログ関連記事:
2017年01月04日 新年のご挨2017
2018年01月03日 新年のご挨2018
3.無意識のバイアス
11月11日にサイエンスアゴラ2018のセッション「本音で語るハラスメント ~ 今のままでいいんですか? ~」で、男女共同参画学協会連絡会は2017年に作成した「無意識のバイアス - Unconscious Bias - を知っていますか?」と題するリーフレットが配布された。なお、このリーフレットは以下のサイトで公開されている。
https://www.djrenrakukai.org/doc_pdf/2017/UnconsciousBias_leaflet.pdf
このリーフレットでは、「無意識のバイアス」について、「誰もが潜在的に持っている偏見」と説明している。この「無意識のバイアス」については、男女共同参画学協会連絡会が積極的に取り上げたことからも明らかなように、セクハラ、性・ジェンダー差別と関連して話題となることが多い。一方、経営コンサルタントが、組織の活性化のために多様性の利点を機能させる手段として、「無意識のバイアス」を構成員に意識させるべきあるという文脈で取り上げられている。
管理人は「無意識のバイアス」を意識することが、科学研究にも必要であると考えている。更に言えば、各人の価値観は「無意識のバイアス」と密接につながっており、価値観が異なる人々の間で合意形成のための議論をする際には、各人が自分の価値観の源に「無意識のバイアス」があることを意識することが必要だと思っている。
自分の「無意識のバイアス」を否定するのは、非常に難しい問題だと思う。その表面的な否定は、自分のそれまでの信条、感情を操られたもの、偽りのものという非常に辛い認識をすることにつながると考えてしまうからであろう。管理人は、人は「無意識のバイアス」から逃れることはできないが、自分の信条、感情には「無意識のバイアス」に起因している場合があることを意識することが重要だと思う。自分のそれまでの「思い込み」に気付き、他人の「思い込み」への理解が深まることから、お互いに住み易い社会になると思う。
拙ブログ関連記事:
2010年12月17日 「なぜ科学を語ってすれ違うのか ソーカル事件を超えて」