何かと慌ただしい毎日で、科学や科学コミュニケーションについて考える時間がない中、4月21日にツイッターで開催を知り、その題名に引かれ、サイトを確認したら、STSネットワークジャパン主催のイベントだった。2014年9月に名古屋で行われた「夏の学校」に参加した時の活発な議論を思い出し、参加することにした。ただし、いろいろな締め切りが迫っていたため、「行けたら行く」で参加登録をした。
それまで抱えていた「RikaTan(理科の探検)」8月号の原稿「海と私たちの生活」連載第3回「海のコンベアベルト」を何とか完成させ、4月8日に依頼されたJGR-Ocean投稿論文の査読報告も完了できたので、他に締切を抱えていたが、思い切って参加することにした。
以下は、この科学技術社会論カフェに参加して、思ったことなど。
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2014年09月23日 8月17日-9月22日の参加イベントとツイート
1.参加者
開始の10分前に会場に着くと、真っ先に、これまでに様々な科学コミュニケーションや理科教育に関係するイベントでお会いしてきたOTさんから声がかかった。OTさんが、大学院を終了されたことはFacebookで知っていたが、その後、1カ月近くが経過していた事を忘れて、頓珍漢な受け答えをしてしまった。
会場のスクリーンの前の大きなテーブルに席を確保すると、隣の席にはサイエンスコミュニケーションネットワーク横串会のメンバーで、種々のことでお世話になっているTKさんが座っておられた。昨年の故横山雅俊さんのお通夜以来の久々の再会であった。近況報告を兼ね、名刺を交換した。
トイレから戻ると、自席の向かいには、管理人がお手伝いしている「海のサイエンスカフェ」に欠かさず参加して頂いているYYさんが居られた。その後、続々と若い人の来場があり、20名以上の参加者で、会場は満席となった。
参加者の所属は、大学院学生、学校教員、企業など様々であったが、20代、30代の人が圧倒的に多い印象で、STSに対する若者たちの間での関心の高さを実感した。
2.内容
宮本さんの趣旨説明は、今回は第0回であって、今後、STSカフェでSTSを世間に広めていくためには、どうしたら良いのかを皆で考えたいというような内容であった。それに続く松原さんのお話は、英国で初めて(?)STSを論じた本(たぶん、「科学と社会を結ぶ教育とは」ジョン ザイマン (著), 竹内 敬人 (翻訳), 中島 秀人 (翻訳)、1988、産業図書)を材料とした、STSの紹介であった。
松原さんが、科学に関するお話の中で、「優秀な科学者とは、どのような科学者か」に対する、ご自分の恩師の言葉を示して説明をされた内容が、あまりにも管理人のこれまでの認識と異なっていたため、声を挙げてしまった。その他、管理人は、いろいろな場面で積極的に発言したが、いつものことながら、発言しすぎたかもしれない。
話題は、日英の大学事情、多分野融合、理学部と工学部の違い、学会の意味、ポスドク問題、その他、多岐にわたった。管理人を含め、奥の大机を囲んだ人たちの発言が多く、このためか、若い人たちの発言が少なかった。休憩の後は、全員の自己紹介であった。多くの理系の大学院学生がSTSに関心を持って参加していることを知り、最近、社会とのつながりについて深く考えていない研究者が多いように感じている管理人は、元気をもらった。
管理人にとっては、楽しいイベントだったが、あまり発言する機会のなかった人にとっては、不満が残る会だったかもしれない。
3.STSについて
以下に管理人の私見を述べる。不勉強で、的外れであれば、ご指摘いただきたい。
管理人は、科学の営みについての知識の普及によって、多くの人にとって住みやすい社会となることを願いながらも、試行錯誤を繰り返しながら、自分なりの科学コミュニケーション活動をしている。このような管理者にとって、日夜、科学技術と社会の関係のあり方に取り組んでいるSTS研究者の方々は、希望の星である。それは、自分の科学コミュニケーション活動の方向・手法などの正否の判定材料として、様々な指針あるいは進むべき方向が、STS研究者から提案、提示されることを期待しているからである。
しかし、STSの中の人たちは、科学技術と社会の関係というよりは、科学技術総体の営みそのものを社会学や哲学の対象としている人がかなり居るように思う。それはそれで、重要だとは思うものの、傍から見て、STSの本来の目的ではないように思う。
今回、松原さんが、STSの解説を、1980年年代に英国で刊行された本の紹介から始められたことに、ある意味でショックを受けた。結局、STSが英国発祥の齢30年程度の新しい学問分野であるらしい。このような新しい研究分野は、時代の要請を受けたものであり、今後、大きく発展する可能性がある。しかし、不発に終わる可能性も少なからずある(約40年前、当時、発足間もない生物物理学分野の新講座に進んだ友人は、暗中模索の後、研究の継続を断念した)。
STSを社会に広め、発展させるためには、STSの中の人たちで、STS研究と社会の関係について議論を深め、外の人が理解できる程度にSTS研究の内容を定める必要があるように感じる。STSの中の人たちが統一的に目指すところが不明瞭に見える現状では、大勢の科学技術研究者が積極的にSTS分野に協力するのは難しいように思う。
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2015年07月11日 科学コミュニケーションの全体像
2010年12月17日 「なぜ科学を語ってすれ違うのか ソーカル事件を超えて」
2009年02月02日 「希望」を生み出す装置としての科学リテラシー