本年の年賀状に記載しました文章を以下に再掲し、ご挨拶と致します。
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謹賀新年
本年の皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
相変わらず、海洋学の研究・教育の普及活動や科学コミュニケーション活動をしたり、理科教育・科学技術研究開発に関連する集会・イベントなどに参加したりして、充実した毎日を過ごしております。
日本海洋学会会員有志による「軍事研究と海洋科学を考える談話会」などの活動を通して、「社会における科学者の役割」について、いろいろと考えることの多い1年でした。雑誌「RikaTan(理科の探求)」2018年4月号から、他の編集委員2名と交代で、連載「海と私たちの生活」を始めます。
「豊かな想像力」と「広い心」を持つ人が一人でも増えることを願って、自分に出来ることを、焦らずに、仲間とともに、楽しく続けていきたいと思っています。
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イラスト:錦彩招福寿々戌(土鈴・中))
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以下は、上の文面の補足。
1.社会における科学者の役割
賀状に
日本海洋学会会員有志による「軍事研究と海洋科学を考える談話会」などの活動を通して、「社会における科学者の役割」について、いろいろと考えることの多い1年でした。と書いた。大学教員、研究所などで研究活動を続けていた旧友たちの退職後の時の過ごし方は、人、さまざまである。2015年3月に海洋研究開発機構を退職して、もうすぐ、3年が経過する管理人が、何をいまさら、科学者のあり方を考えるのか? と疑問を抱く人が居るかもしれない。
管理人は、約40年の間、海洋学分野の科学研究に携わることができた。これは、途中で研究者の道を断念した同窓生や、今の若手研究者の置かれた状況と比較して、幸運以外の何物でもないと思っている。この幸運を享受した者として、現在は研究職に就いていなくても、科学者の一員であることに、終生、変わりはなく、科学者として発言・行動する責務があると考えている。
「社会における科学者の役割」について考えを巡らすことになったのは、「軍事研究と海洋科学を考える談話会」などの活動を通して、学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」は、
科学者コミュニティが追求すべきは、何よりも学術の健全な発展であり、それを通じて社会からの負託に応えることである。と述べているが、「学術の健全な発展」および「社会からの負託」について、科学者の間で、特に若手とシニアの間で、考えが大きく乖離していることを痛感したことによる。この乖離を生んだ源は、
1)社会に対する認識
2)科学研究についての認識
が異なることにあると考えられる。その溝を埋めるためには会話を進めるしかないとは思うが、何をどのようにしたら良いのか、管理人の中で、方針が定まっていないのが現状である。
拙ブログ関連記事:
2017年12月31日 2017年を振り返る
そんな中、12月31日付けの日刊工業新聞ニュースイッチ、どうなる日本の科学(10)ノーベル賞受賞の白川氏「好奇心と教養が社会を支え、研究者は社会に支えられている」、と題する記事の中で紹介されている、見出しでも示されている、白川英樹さんの以下の言葉が、目についた。
自然科学に限らず、知的好奇心が学びの動力源になる。一人ひとりの好奇心と教養が社会を支えている。そして研究者はこの社会に支えられている多分、この認識を共有することが出発点なのかもしれない。
社会を支える「好奇心」とは何か?
社会を支える「教養」とは何か?
を議論し、理解を深めることが、社会に対する認識についての溝を埋めるためには重要と思われる。
2.「豊かな想像力」と「広い心」
昨年の年頭のエントリーで
沖縄米軍基地、地震・津波対策、対中国・韓国関係、国際テロ対策、原発再稼働、経済格差解消、科学技術政策、学校教育、ニセ科学、その他の様々な問題で、何かと主義・主張の対立が先鋭化している昨今です。と述べました。
種々の事象が複雑に関係している現代社会では、だれもが納得する最終解決策を得るのは非常に難しい状況だと思います。このような状況で、種々の陰謀論・極論が横行しているように見えます。その理由として、整合的な全体像を求める欲求を強く抱きながら、解が容易に得られないことに強い不安を感じ、安心を求めて、実証されていないが、単純明快な説を受け入れてしまう人が増えていることが指摘されています。
次善の策を見出すためには、「豊かな想像力」と「広い心」を持って、とことん議論し、試行錯誤を繰り返すしかないように思っています。要約すると、「豊かな想像力」とは「相手に寄り添って、根拠に基づいて懐疑的に考えることができる」力、「広い心」とは「自分の考え・立場に囚われない、拘らない」心、といえると思います。成果主義が蔓延している現在以前の科学は、この「豊かな想像力」と「広い心」を礎とした「科学の営み」によって発展してきたと思います。
2017年にも、トランプ大統領の言説、北朝鮮のミサイル開発、森友・加計疑惑、セクハラなどの種々のハラスメント問題、日馬富士関の暴力問題など、さまざまな問題が噴出し、それに対するマスコミの報道内容についての批判やSNSでの非難・炎上も発生していました。このような問題が生ずるたびに、多くの人が、「豊かな想像力」と「広い心」を持つ社会となることへの願いを強くしています。
「科学の営み」についての知識の普及活動が、その推進に有効だという確信が、時折、揺らぎますが、自分に出来ることを、焦らずに、仲間とともに、楽しく続けていきたいと思っています。
ご支援、ご助力を宜しくお願い申し上げます。
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2017年01月04日 新年のご挨拶2017