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2010年4月29日 文部科学省へ「科学技術政策に関する意見」を送った
2010年10月03日 内閣府と文科省のパブコメ募集
1.募集内容
標記意見募集についてのプレスリリースでは、
政府は、科学技術基本法に基づき、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、科学技術の振興に関する基本的な計画(科学技術基本計画)を策定しています。と述べられている。意見募集の対象となった文書は、募集が締め切られた今も、以下から入手可能である。
平成23年度から開始される第4期科学技術基本計画に関しては、この度の東北地方太平洋沖地震を受けて再検討を行うこととなりました。総合科学技術会議において検討を進め、その案が作成されましたので、この度、国民の皆様から広くご意見を募集します。
・答申「科学技術に関する基本政策について」見直し案(見え消し版)(PDF:445KB)
・答申「科学技術に関する基本政策について」見直し案(溶け込み版)(PDF:485KB)
なお、本意見募集についてのTweetsが、Togetterで題目「第4期科学技術基本計画意見募集文書をhtml化しました。 #f_o_s #cstp」としてまとめられている。27日02時現在で閲覧者数は624名に達している。海洋学会震災対応WGメンバーの指摘があり、6月20日に海洋学会MLでも意見募集が周知された。
2.意見
25日未明に管理人が提出した意見の全文は以下の通り。
対象:全体
意見:
「東北地方太平洋沖地震を受けて再検討すべき事項」として「震災からの復興、再生の実現」について重点的に述べられているが、「復興、再生」の前に、東北地方太平洋沖地震災害・原発事故への対応の中で明らかになった「今後、緊急に重点的に推進すべき研究項目」について述べる必要があると考える。それは、「放射性物質の人体への影響」についての医学的研究であり、大災害発生時の「大衆の行動」と「組織の対応」に関する社会科学的研究である。原発事故後の国民に不安と不信を招いた放射線量の安全基準、避難勧告基準などを「放射性物質の人体への影響」についての医学的研究により明確にすることが、科学技術への国民の信頼を取り戻すためには必要不可欠であろう。また、大規模な災害を経験した国として、災害についての新たな総合科学を確立することを目指すべきであると考える。今後も再発する可能性のある大規模災害と原発事故についての科学研究によって世界に貢献することができるのは我が国のみであり、このことが多くの被災者の辛苦に報いる科学技術政策であると考える。
また、東北地方太平洋沖地震災害・原発事故後に推進すべき科学技術政策として、「震災からの復興、再生」の前に「震災・原発事故の影響評価」を挙げる必要があると考える。そのためには、放射線を被ばくした住民の健康状況、原発から漏出した放射性物質が蓄積した土壌・地下水の放射線量、海中の放射性物質濃度分布の数十年以上の長期監視体制の整備が必要である。膨大な数の試料の分析を高精度で迅速に行うためには、バックグラウンド汚染が低い海外に分析拠点を開設することも必要となろう。
原案では海洋汚染に全く言及されていないのは極めて不十分である。津波で沖合に流出した有害物質や原発からの高濃度放射性汚染水は数十年以上の長期にわたって海洋中を拡散し、世界の海へ広がり、海底に堆積したり、生物に取り込まれると考えられている。しかし、その詳細な生物化学物理過程のほとんどが十分に解明されているとは言えない。我が国は、国際協力の下に観測と分析を行うための、恒久的な組織・施設を開設・運用する責務を負っていると考える。特に、我が国近海における海水および魚類の放射性物質濃度を監視することは、沿岸漁業の復興に不可欠である。
3.補足説明
25・26日に私用があり、26日24時の締め切りにま見合わせるため、大慌てで書いたため、読み返すと、一部表現があいまいになってしまているように思う。各項目別に詳細に語句の修正・追加を指摘した方がよかったと思うが、時間的な余裕がなく、全体への意見のみの表明になってしまった。
ともかく、管理人としては、23年度からの5カ年では、「震災からの復興、再生の実現」の前に「震災への対応」を優先すること、「多くの被災者の辛苦に報いる科学技術政策」が必要であることを指摘したかった。長期計画の立案に際して、目先の問題に囚われるには避けるべきであるとは思うが、震災の影響、特に海洋汚染の拡がりは5年後でも進行中であると予想される。この対応を平成23年度から開始される第4期科学技術基本計画の中心に据えるべきと考えた。このことを最初の2項目で述べ、最後に、海洋学研究者として、海洋汚染の問題への注意を喚起した。
毎度のことながら、「沈黙していては、事態は何も変わらない」と考え、パブコメを送ることにした。拙意見が少しでも担当者の心に響くことを願っている。