噴火に伴う空気中の圧力変化によって空気の振動が波のように伝わる現象が空振。パスカルは圧力を表す国際統一単位。秒速1メートルで動く1キログラムの物体を秒速2メートルにするのに必要な力(1ニュートン)が、1平方メートルに加わる圧力が1パスカル。その100倍が1ヘクトパスカル。気象庁火山課によると、人が音による空振を感じるのは10パスカルからとされ、数百パスカルになるとガラスが割れることもあるという。以下は、この不思議な解説記事の補足と訂正。
1.「空振」とは
火山学会ウェブサイトのQ&A「火山学者に聞いてみよう -トピック編-」の「噴火現象と噴出物・岩石・鉱物 空振・衝撃波」http://wwwsoc.nii.ac.jp/kazan/J/QA/topic/topic39.htmlに詳しい説明がある。その一部で
桜島や浅間山などのように火山活動が爆発的な場合、火口から衝撃波が発生し、周囲の空気中を伝わって行きます。火口から離れるに従い衝撃波は減衰 し、音波に変化します。火山学では、これら空気中を伝わる圧力波のことを空 振(空気振動)とよんでいます。あるいは
火山の噴火は,地下の物質を空気中に放出する現象ですから,結果として周囲の空気を乱すことになります.爆発的な噴火が起きれば,衝撃的な空気振動が生じます(ボンという音を想像してく ださい).と述べられている。
これらと比べると、毎日新聞の解説で述べている「噴火に伴う空気中の圧力変化によって空気の振動が波のように伝わる現象が空振」という説明は、間違いではないが、何かおかしい。「噴火に伴って生じた空気中の急激な圧力変化が音波となって空気中に伝わる」という表現とすれば、分かりやすかったかもしれない。
2.「パスカル」とは
毎日新聞の解説では「パスカルは圧力を表す国際統一単位。秒速1メートルで動く1キログラムの物体を秒速2メートルにするのに必要な力(1ニュートン)が、1平方メートルに加わる圧力が1パスカル。」
と述べている。ここで、「パスカルは圧力を表す国際統一単位」というのは間違いではない。しかし、次の、「1ニュートン」の説明は間違っている。
国際単位系では力の単位はニュートンである。力は質量×加速度(速度の単位時間当たりの変化量)で定義される。すなわち、
1ニュートン=(1キログラム)×(1メートル毎秒・毎秒)
である。
したがって、1ニュートンは単位質量(1キログラム)の質量の物体の速度を、1秒間に、毎秒1メートル増やすのに必要な力である。このため、説明記事では、「質量1キログラムの物体の速度を1秒間に秒速1メートル増やすのに必要な力(1ニュートン)が、1平方メートルに加わる圧力が1パスカル。」とするのが正しい。
3.空振の強さの単位
音の強さの説明はネット検索でいろいろなところで得ることができるが、以下のサイトの説明が分かりやすい。
http://cat-japan.jp/ms-net/yougo/saiseki/N23Y0035.htm
音源から毎秒放射される音波のエネルギーを音響出力といいPで表す。音波が単位面 1 m2 を毎秒通過するエネルギーを音の強さといい、記号は ( J )、単位は W/m2 を使う。音波の圧力を音圧といいPで表し、単位はN/m2 で表す。という説明の後、音の強さ、音圧、音圧レベルとの関係が表で示されている。
このウェブサイトは旧新キャタピラー三菱株式会社のサーバー内にあるが、新会社であるキャタピラージャパン社のメインページからのリンクは張られていないのは、残念である。
4.ヘクトパスカル
毎日新聞の解説記事に「その100倍が1ヘクトパスカル」という記述が唐突にある。
「気圧の単位であるヘクトパスカルは、1パスカルの100倍」という記述であってほしかった。
5.おわりに
本記事を書くにあたって、火山学会の優れたQ&Aサイトに出会った。このような小学生から一般向けの海洋についての解説コーナーを海洋学会のウェブサイトにも設けたいと思っている。