1.平成23 年度科学・技術関係予算の優先度
「その結果が予算編成において活用される優先度判定の参考とするための、優先度判定対象予算について、国民の皆様からご意見を広く募集」ということなので、9月17日の締切直前に、管理人の所属部署が関係する、施策番号:24109、施策名:(独)海洋研究開発機構運営費交付金「地球環境変動研究」について、利害関係者であることを明記した上で、「優先的な予算配分」を依頼した。ついで、他の「女性研究者研究活動支援事業」、「科学研究費補助金」など優先度判定対象施策のヒアリング資料を見て思ったことを述べた。ヒアリング資料は、「施策の目的及び概要」以下の約10項目について、もっともらしい記述と数値が並んでいる。その記述の一部の言葉尻を捉えたコメントとなってしまった。
この意見募集について、日本地球惑星科学連合メールニュース臨時号No.84 2010/09/14では、以下のように、その重要性を述べている。
“事業仕分け”でおわかりのとおり,パブコメの件数が,政策決定にきわめて大きな影響を持っています.寄せられたコメントの件数が順位を決めるというのが冗談ではないとの情報もあります.つきまして,ぜひ一覧をご覧の上,大学,基礎研究,地球環境関連など地球惑星科学分野にとって重要と思われる項目すべてにコメントを寄せていただけるようお願いいたします.リストには個別のプロジェクトも,GCOEのような総括的なプロジェクトも羅列的に含まれております.内容よりも件数が重要といわれており,学会等でのまとまった意見とともに,是非,個人レベルで一人でも多くの方がコメントをよせていただけるようお願いいたします.「寄せられたコメントの件数が順位を決めるというのが冗談ではない」とか、「内容よりも件数が重要」という、ちょっと信じられない情報である。このような情報はあったものの、それなりに管理人の言いたいことをウェブ・フォームに記入した。記入した意見が担当者に伝わり、予算作成の参考となることを願っている。
意見の記入に際しては、各施策毎に氏名、他を記入しなければならなかった。後で気付いたが、記述式のウェブ・フォームに記入した自分の意見は、自分で記録・保存しなければ、何も残らないシステムであった。返信メールで投稿した意見が確認の意味も含めて返送されると勝手に予想したが、そうではなかった。4月に文部科学省へ提出した「科学技術政策に関する意見」の集約は、後日、公表されたが、今回はどうなのだろう? 個別の意見を公表してほしいのだが、「日本地球惑星科学連合メールニュース」の情報が正しければ、「皆様の意見を参考にして作成した優先度判定結果」のみが公表されるのかもしれない。
拙ブログ関連記事:
2010年4月29日 文部科学省へ「科学技術政策に関する意見」を送った
2.学術研究の大型プロジェクト
意見提出は定められた様式のMS Word FileをE-mailに添付する方法であった。以下に、管理人が文部科学省に送付した意見を示す。
質問事項1 大型プロジェクトの推進の意義や性格等の基本的な考え方、それらを踏まえた具体的な推進方策についてどのように考えますか。
意見:
国の財政が厳しい状況において、「大型プロジェクトに一定の資源を継続的・安定的に投入していくことを、国の学術政策の基本として明確に位置づけることが必要である」ことに強く同意する。
これまでの「大型プロジェクト」の進め方の問題点とその対応(改良点)を明記する必要がある。
質問事項2 大型プロジェクトを戦略的・計画的に推進する観点から「ロードマップ」を策定しましたが、その策定方法や内容等についてどのように考えますか。
意見:
資料(審議のまとめ)の8ページ記載している「欧米におけるロードマップ策定の問題点」への配慮・対応策を明確に述べる必要がある。
大型設備を必要とする個々の研究者コミュニティの要求を個別に選択しているだけの印象を受ける。個々の大型プロジェクトではなくて、国全体の戦略における位置付けが必要。将来は、大学関係のみならず他省庁を含めた国全体の視点からのロードマップの策定であるべきことを明記すべき。
エネルギー・環境・地球科学を1分野で一括しているが、国民生活の将来にわたる安心・安全の確保ためには3分野に分離し、中でも環境に関わる気象・海洋・陸水・地震・火山分野をもっと重視すべきと考える。
質問事項3 大型プロジェクトの着実な推進に向けた社会や国民とのコミュニケーションの強化方策や財政措置の在り方等についてどのように考えますか。
意見:
大型プロジェクトへ高額な予算を配分することについての納税者の理解と容認を得るために、「大型プロジェクトの着実な推進に向けた社会や国民とのコミュニケーションの強化」を進める必要があるということには同意する。ただし、各プロジェクトが「研究者の知的好奇心・探究心に基づく主体的な検討」と「研究者コミュニティの合意」の結果であることや、得られた研究成果を一方的に示すのみの「コミュニケーション」では、国民からの支持・信頼を得るのは難しいと思う。研究者コミュニティ内のみならず、研究者と市民との「対話」を通して大型プロジェクトの提案・選択を行う仕組みを作り上げる必要があろう。
質問事項4 上記の他、お気付きの点がありましたらご意見をお寄せください。
意見:
今回のパブリック・コメント募集が単なる「儀式」ではないことを願う。わが国の多くの人々は、個人的欲求の実現に熱心で声の大きな一部の専門家達に牛耳られていている研究分野があると思っている。このような国民からの信頼を得るためには、「知的好奇心・探究心に基づく主体的な検討」、「研究者コミュニティの合意」や「専門家による客観的かつ透明性の高い評価」を具体的かつ詳細に説明する必要がある。
以下は、提出した意見の補足
質問事項2への意見で、「気象・海洋・陸水・地震・火山分野をもっと重視すべき」と海洋分野の重視を訴えたのは、海洋学会MLでの依頼メールの以下の一節に応じたものである。
「大型計画」マスタープランについて、学術会議が策定した計画を基に、文部科学省がロードマップへのパブリック・コメントを募集しています。質問事項3と4への意見は、文部科学省が「事業仕分け」を乗り切るために作成した「学術研究の大型プロジェクトの推進について(審議のまとめ)(案)」が、未だに、国民よりも研究者の都合を優先していることへの注文である。
全体で43の項目を優先されるもの(18項目)とその他に分けています。海洋科学が含まれる項目はすべて優先度の低い「その他」に分類されています。その上に海洋科学の要素は十分に取り込まれていません。
当初の目的がどうであれ、一度作成されるとそれを予算申請に利用する動きがあり、現在の案に大きな改訂を求めて行くべきです。その活動の一環として今回のパブリック・コメントに意見を送ることも大事です。関心の高さを意見の総数で計る傾向も見えますので、ぜひ多くの皆様にご意見を送っていただくようお願いする次第です。
なお、学術会議も各分野で多くの時間を費やして原案を策定したのは確かであろうが、議論が十分に行われていなかったことが、資料にも記されており(実際、海洋科学分野はほとんど議論できなかった)、「研究者コミュニティの合意」は不十分である。また、科学技術・学術審議会の作業部会は、昨年6月の発足以来、10回の会合を開催して、精力的に議論したようである。しかし、その議事録は公表されていない。関係者各位の尽力に深く謝意を表するものの、透明性も確保されていないと言わざるを得ない。
学術会議は各分野からの代表者的な人物の集まりであり、「専門家による客観的かつ透明性の高い評価」も十分ではないように思う。結局、高い見識を持って、自分の出身分野の利害を離れて、我が国の科学政策を考え、提言する人材が少ないのが致命的であるように思う。
関連資料:
学術研究の大型プロジェクトの推進について(審議のまとめ)(案) 【概要】 (PDF:138KB)
学術研究の大型プロジェクトの推進について(審議のまとめ)(案) 【本文・別表:ロードマップ】 (PDF:726KB)
学術研究の大型プロジェクトの推進について(審議のまとめ)(案) 【附属資料(要旨)・基礎資料・参考資料】 (PDF:1301KB)
3.政策コンテスト
総事業数189件の内、MLで意見投稿の依頼があった2事業の他に、主として「人材育成・新しい公共」分野と「新成長戦略(デフレ脱却・経済成長)」分野の中の種々の事業について、自分の専門を離れ、一国民として意見を投稿した。各事業の資料を読むと、中には不勉強と評価せざるを得ないものもあったが、担当者の苦労が忍ばれるものが多かった。また、国の施策が統一性のない中で進められていることが容易に察せられた。このようなことを知っただけでも、この「政策コンテスト」の催しは成功したと言えるのかもしれない。
求められていた意見は、選択した各事業について、「必要性」、「事業効果」、「手法」に関わる7つの質問に対し、5つの選択肢(そう思う、・・・そうは思わない)の中から1つを選んだ後、良い点と悪い点およびその他についてウェブ・フォームに記述するものであり、意見表明は比較的容易であった。最初に登録した投稿者情報が自動的に投稿意見の冒頭に表示され、意見の投稿作業が容易にできた。また、「送信後の内容確認はできませんので、投稿された内容を事後的にご確認されたい場合は、あらかじめこのページを印刷・保存し、それをご覧ください。」と投稿した意見の記録・保管についての注意事項も明記してあった(メルアドを登録させているのだから、投稿者に内容を返信しても良いと思うのだが・・・)。
4.おわりに
パブコメ募集は、「国民の声を直接受け取る手続き」ということで、施策立案における必要な過程であると思う。しかし、「集まった意見がどのように利用されるのか」を考えると、不安な気持ちに襲われる。パブコメ募集という形式は導入されたものの、現場の国民の声を、直接、きめ細かく聴くということより、多数意見の確認という位置付けに終わる危惧を抱いてしまう。
「科学技術政策に関する意見」や「大型プロジェクト」はまだしも、「平成23年度科学・技術関係予算の優先度」や「政策コンテスト」のパブコメ募集では、結局、多数決原理が優先され、その事業で利益を得る大規模な学会や業界の組織的な動員により、多くの支持意見があった事業ばかりが選ばれることになることを恐れる。そうならないためには、意見の収集方法や結果の集計方法などに細心の注意と十分な配慮が必要だと思うが、漏れ聞こえてくる情報からは、そういう態勢ではないように感じる。
そうは言っても、沈黙していては、事態は変わらない。これからも、機会があれば、パブコメを送り続けようと思う。