2010年05月22日

2010年5月のシアトル

いつの間にか、前回の更新から3週間以上が過ぎてしまった。18日からシアトルに滞在している。ワシントン大学の応用物理研究所(Applied Physics Laboratory、APL)で19日・20日に開催された黒潮続流システム研究ワークショップ(Kuroshio Extension System Study Workshop)に出席するためである。21日は、久々の休養日だったが、食事時の散歩を除き、結局、ほとんど何もせず、ホテルでゴロゴロしていた。これから、24日・25日にAGU本部で開催されるAGU広報委員会に出席するため、ワシントンDCに移動する。以下は、今回のシアトル訪問で想ったことなど。




1.黒潮続流システム研究(KESS)
KESSは米国のNSFによる、主として黒潮続流域の渦の挙動についての観測と数値モデル計算による研究計画である(詳細はここ)。今回の集会は、2004年から2007年に行われた集中観測で得た観測資料の解析結果の報告と今後の研究計画立案を目的として開催された。管理人はKESSのメンバーではないが、KESSの研究代表者の一人でもあり、ともに黒潮続流域での海面係留ブイ観測を行った米国国家海洋気象庁(National Oceanic and Atmospheric Administration, NOAA)太平洋海洋環境研究所(Pacific Marine Evironment Laboratory, PMEL)のMCさんからの誘いを受けて参加し、黒潮通過流量とアリューシャン低気圧の各々の季節変動の間の関係性が季節によって異なること、またJKEOでの3年間の観測で冬季表層混合層の厚さが年によって異なるという観測結果を紹介した。この発表に対し、KESSのモデル計算グループから、黒潮通過流量の観測値と計算結果を比較したいとの希望が出された。会合では、準慣性周期波の発達・伝播過程、冬季表層混合層の発達過程、その他についての観測資料解析結果や黒潮・黒潮続流の変動についてのモデル計算結果などが報告された。

KESSの集中観測には、日本からも現在北大に所属されているMHさん、MGさん、TYさんが参加されていたが、今回の集会には参加されておらず、日本からは管理人のみであった。約20名の参加者には、このところ頻繁にお会いしているPMELのMCさんとハワイ大のBQさんの他、ロードアイランド大学のJPさん(JMASTECで2001年12月まで私と同じグループ)、RWさん(PIESの開発者)、ウッズホール海洋研究所での係留流速計観測で中心的役割を果たしていたNHさん(現コーネル大学)、他と久々に再会できた。また、20日夜のMCさんのご自宅でのパーティーでは、PMELの職員で昨年秋の「かいよう」で航海を共にしたRKさん、KRさんと再会した。KRさんは4月に「みらい」に乗船して、PMELが黒潮続流域の南側に設置しているKEOブイの修理を行ったばかりであった。JPさんは、韓国での休暇の後、管理人の前職場の鹿児島大学のNHさんとの共同研究航海に参加されるとのことであった。

KESSと黒潮続流域での海面係留ブイ観測との間には、長い歴史がある。黒潮続流域における大気海洋相互作用研究に関連して、現在、我が国では「気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動」と題する大規模な研究が計画されている。KESS参加者の多くから、この計画の採択を強く期待しているという声を聞いた。

2.シアトル ユニバーシティー地区
管理人がAPLを訪れたのは、1987年6月に世界海洋循環実験計画の下打合せに訪れてから、23年振りであった。その時と同じ会議室での2日間の会議であった。APLを訪問するのが初めてのKESSのメンバーが、23年前の管理人と同じように、4m×8mのエレベータに驚いていたのが面白かった。APLは、応用物理学を標榜しているが、海洋科学研究、特に水中音響工学の分野で大きな貢献をしている(APL-UWのHPはここ)。

拙ブログ関連記事:
2008年09月24日 追悼 故杉森康宏さん

KESS会議の世話役が手配したホテルは、APLに徒歩で行けるホテルで、23年前に利用したホテルの近くでもあったのも懐かしかった。23年前と同じく、Unversity Way(大学通り)では、学生向きに安価な料理店が数多く並んでいるのは変わりはなかった。しかし、23年前にもあったギリシャ、タイ料理店の他に、日本、韓国、ベトナム、インド、中近東料理の店の数が多いのには驚いた。結局、4日間の食事は、ベトナム、インド、中近東の料理になってしまった。大学通りの一角を占める「University Book Store」で、以下の海洋学入門書を見つけた。The Ultimate Illustrated Guide for Nonscientistというタイトルに惹かれて今後のために購入した。
SCIECE 101: OCEAN SCIENCE, by Jennifer Hoffman, ISBN 978-0-06-089139-8

3.おわりに
朝5時ホテル発で空港に向かうため、ここで終わります。旅はもうちょっと続く・・・
posted by hiroichi at 20:01| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつもブログを拝見させていただいております。気象庁の観測船が廃船になる件は、貴殿のブログで初めて知り、驚いたものです。船舶による海洋観測が削減されるのは、いくらArgoシステムがあるとはいえ、定期的な定線観測を補完できるものではありません。

KESSについては、以前より論文などを読んでおりますが、非常に興味深い研究プログラムだと思っています。なぜ、日本の近海(EEZ外の公海上とはいえ)で行われたのに、日本がイニシアチブを握れないのか甚だしく疑問に感じ、怒りを覚えます。

日本の場合、観測のコンセプトが力学構造や変動構造の解明というよりも、むしろ、モニタリング主体に行われてきたというように思っています。90年代のWOCEのASUKA観測でも変動構造の解明というよりはモニタリングをどうするかに主眼を置いて実行されたのではないかと思います。

ASUKAのときも、予算の都合上はあるにせよ、KESSのように変動構造の解明まで目的を据えていれば、もうちょっと黒潮についての知識も高められたのではないかと思っています。

あと、KESSの背景、言うなれば、なぜあの海域で大々的な観測が行われるのかということをもうちょっと書いた方がいいと思います。グローバルな熱輸送に大きな影響を及ぼす海域であり、それらをメモリする亜熱帯モード水の生成域であること、海面での熱交換が大気に影響を及ぼし、ストームトラックを通じて、アメリカ大陸の気候に影響を及ぼすため(これがアメリカ主体で研究が行われた大きなファクターでしょう)というように・・・。ブログは一般の人や検索エンジンから来る人が多いので、一般の人にも分かりやすいようにした方がいいような気がします。

長々と失礼いたしました。
Posted by マナティ at 2010年06月01日 12:57
マナティ 様

貴重なコメントをありがとうございました。

>ブログは一般の人や検索エンジンから来る人が多いので、一般の人にも分かりやすいようにした方がいいような気がします。

強く同意します。関連する記事へのトラックバックを含め、常に心がけてはいるのですが、今回は、旅先からの会合報告という意識が先に立ってしまい、KESSについての説明が不十分でした。KESSについてのご丁寧な追加説明をありがとうございました。

>日本の近海で行われたのに、日本がイニシアチブを握れないのか甚だしく疑問に感じ、怒りを覚えます。

KESSの計画立案当初は日米共同で行うことになっていました。しかし、米国側の研究経費確保が遅れたため、日本側(JAMSTEC)が先行して、単独で音響トモグラフィーと中高緯度海面係留ブイ観測を1990年代末に開始しました。日本側の観測研究が種々の都合により頓挫した後になって、ようやく米国側の観測が開始されることになったため、見掛け上は米国中心の計画となってしまったいう事情があります。

>日本の場合、観測のコンセプトが力学構造や変動構造の解明というよりも、むしろ、モニタリング主体に行われてきたというように思っています。90年代のWOCEのASUKA観測でも変動構造の解明というよりはモニタリングをどうするかに主眼を置いて実行されたのではないかと思います。

「モニタリング主体に行われてきた」ことに同意します。1980年代終わりに、それまでのモニタリング主体の黒潮横断定期観測を予測を目指した黒潮観測に発展・深化させることを提唱したことがあります。

ASUKA観測については、WOCEの一環として、結果としてモニタリングに主眼を置いていたのは確かです。一時は、「力学構造や変動構造の解明」のため平行する複数の観測線上に流速計を展開することも考えましたが、経費を確保できず断念しました。というか、次々と配分予定額が減額され、ASUKA線上での係留流速計観測全体を断念せざるを得ないと思うほどの苦しい状況でした。

今回のワークショップで報告されたKESSの成果の中間結果を見て、黒潮の「力学構造や変動構造の解明」は一筋縄では行かないと、新たな闘志を燃やしています。

今後とも宜しくお願いします。
Posted by hiroichi at 2010年06月03日 01:00
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