2010年04月29日

文部科学省へ「科学技術政策に関する意見」を送った

平成22年3月10日付けで「社会・国民とともに推進する科学技術政策の実現に向けて、皆様からのご意見を募集します。本意見募集の結果は、今後、文部科学省として、より良い科学技術政策を推進していくために参考とさせていただきたいと考えております。」という説明と共に、「科学技術政策に関する意見募集」が文部科学省のウェブサイトに掲載されている。当初の締切が3月31日であり、多忙なため、提出を諦めていた。その後、締め切りまでに意見を提出された榎木英介さんからのメール他で、締切が4月30日に延期されたのを知り、時間的な余裕ができたので、あれこれ考え続けた。明日の締切を前に、何とかまとまったので、先ほど、以下の意見を送信した。結局、3月末の段階では書けなかった内容となったことに、我ながら驚いている。

拙ブログ関連記事:
2010年04月15日 ブレークスルー研究
2010年04月26日 WorldShift Forumの中継を視聴した


意見項目番号4
問:
科学技術を推進していくうえでは、大学における基礎的な研究活動の充実、小・中学校における理数教育の充実、研究者や政策担当者と社会との間の相互理解など、必要なことがらはたくさんありますが、特に重点を置いて取り組む必要があるものは何だとお考えになりますか?

意見:
特に重点を置いて取り組む必要があるのは、学校教育の改革・充実である。それは、地球温暖化、資源・食料・エネルギー問題、経済危機、医療・福祉問題などの人類の近未来に関わる深刻な課題は、短期的に、その場しのぎ的に、大学等における研究開発活動の充実その他による現在の科学・技術の延長線上の開発によって解決されることはあっても、抜本的な解決には至らないと考えるためである。抜本的な解決は、現在の科学・技術のレベルでは想像もつかないブレークスルーなアイディアが発見・提案され、それが確実に発展・実行されることによって行われる。その担い手は、各レベルの学校教育を、知識偏重型や課題解決型ではない、探求型の科学教育理念に基く全人教育に改革することでしか生まれないと考える。その実現のためには以下の方策が必要と思う。
1) 大学における教員養成課程では、探求型科学教育理念に基く全人教育手法を体得させること
2) 教員1人当たりの生徒数を減らし、教員が多様な生徒の各々の成長段階に対応して、特異な能力を有する生徒の抽出や生徒全体のレベル向上が可能となる体制を整えること
3) 学校における事務支援員を増やし、教員が教育に専念できる環境を整備すること
4) 現教員および学校教育管理者には、探求型科学教育理念に基く全人教育手法を習得する研修機会を十分に与えること

<探求型科学教育についての参考資料>
欧州委員会研究総局・科学経済社会局(2007):「今日の科学教育:欧州の将来に向けた新
  しい授業法」,科学技術振興機構理科教育支援センター 訳(2008).
  http://rikashien.jst.go.jp/news/20081017.pdf
川崎一彦・新谷舞子(2010):「フィンランドの教育に学び、超えよう!」、2010年4月24日
  開催WorldShift Forum 講演.http://www.ustream.tv/recorded/6398475

意見項目番号5
問:
科学技術に関する国の予算や投資のあり方、目標・計画の立て方や評価のあり方、各省庁間の連携のあり方など、科学技術政策の進め方について、改善すべきと考えられる点はどのようなことだとお考えになりますか?

意見:
科学技術政策の進める方について改善すべき点は、透明性と合理性をより高めることである。パブリックコメントの収集や議事録・資料の公開などにより、現在の科学政策立案は、従来に比べて、格段に透明性と合理性の確保が進められている。しかし、まだ十分とは言えない状況であると考える。例えば、目標の選択に際しては、どこからどのような目標の提案があったのか、それらがどのような経緯を経て取捨選択・統合されて、最終的な結論に至ったのかが、その合理的理由とともに公表されるべきであると考える。合理的理由に替えて決定責任者の個人的意思を根拠とすることも、決定責任者が選任された経緯を含めて十分な説明があれば許容されると考える。
 取捨選択した政策の当否は後年に定まる。その取捨選択の判断の誤りが判明した時点で、速やかに修正して、対策を講じる態勢が整っている必要がある。

意見項目番号6
問:
その他、科学技術・学術審議会基本計画特別委員会がとりまとめた提言(我が国の中長期を展望した科学技術の総合戦略に向けて-ポスト第3期科学技術基本計画における重要政策-中間報告)や科学技術政策に関することなど、ご意見・ご感想がありましたらお寄せください。

意見:
科学技術イノベーション推進の方策について以下に述べる。
 科学技術研究開発の成果は、人員、費用、装置、の充実のみで得られるものではない。特に、「科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて新たな経済的価値や社会的・公共的価値の創造に結びつける」科学技術イノベーションの根幹である「新たな知識」を導くブレークスルー研究は、トップダウンの目標設定や研究推進のマネージメント強化では実現しない。ブレークスルーな研究開発は、基盤となる人の能力が最大限に発揮される、以下のような研究環境の組織で大きく進展する。
1) 研究組織が適正に設定したビジョンを研究者に明確に与える
2) 研究者の異端な発想(ブレークスルーの芽)に寛容な慣習・制度および施設・設備が整っている
3) 研究者の発想、仕事の進め方、に介入する微細管理を行わない
4) 研究者に研究以外の雑事を課さない。
ここに述べた研究環境を各大学および研究機関が整備することを推奨する政策を実施することこそが科学技術イノベーションの達成には必要である。

<参考>
市川惇信 (1996):「ブレークスルーのために」、テクノライフ選書、オーム社出版局.

posted by hiroichi at 14:10| Comment(0) | TrackBack(2) | 日記 | 更新情報をチェックする
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