2010年04月05日

環境教育コンサルタント

2010年04月07日02時50分 一部訂正
このところ、いくつかの旧記事にいただいたコメントへの応答で手一杯で、ブログを更新できずにいる。Twitterでの発信に触発され、詳細に紹介、論考したい項目が次々と現れるのだが、Tweetするのみで時間が過ぎてしまい、Tweet、Retweetのまとめ記事も2月16日の前報以来、滞っている。記事にしなければと気になっている話題は、海のサイエンスカフェを含めた日本海洋学会2010年度春季大会の報告、津波予測の精度と警報への人々の対応、「新しい公共と科学技術」研究集会とその後、海洋エネルギー政策、低周波騒音公害、米国におけるサイエンスコミュニケーション、地球温暖化にかかわる新たな科学的知見、などである。

そうこうしているうちに、4日午後に、3月末に定年退職された北海道大学前教授池田元美さんから海洋学会期間中の3月29日夜の退職祝賀会出席と、翌日に学会会場で池田さんもコンビーナーの一人として開催されたワークショップ「ブレーク・スルー研究をめざして」での発言へのお礼のメールを受取った。その中で、池田さんは「これからは自称「環境教育コンサルタント」として第三の人生へ踏み出すつもりです」と述べられているのを拝見し、さらにメールで紹介されていた池田さんのホームページのいくつかの記事を拝見して、池田さんが科学と社会の繋がりを深める運動の同志のお一人であることを知り、嬉しくなった。以下は、その詳細。


1.最終講義資料
池田さんはご自分のホームページで、ご経歴その他を公開されている。このサイトで公開されている「エールをおくる」と題する最終講義の資料では、他の多くの方と異なり、これまでの研究成果についての総説・紹介ではなくて、題名の通り、「これからの研究に期待」することを4項目挙げている他、「これからの取り組みに期待」することと「これからの教育に期待」することが示されている。特に、「これからの教育に期待」することとして、
社会貢献と先端研究の相互啓発:
 市民である学生が専門家に育ち、
 市民と専門家をつなぐ役割を果たす
ことを示して挙げている。これほど明確に大学院教育を社会と結びつける提案を管理人は知らない。大学院教育の目指すところとして、管理人はこの目標設定に強く同意する。それにしても、池田さんの次世代への期待の強さには驚かされる。御自分は第一線を離れるにしても、まだまだ海洋学研究発展への情熱を失っていないということなのだろう。優れたメンターであることを如実に示していると思う。

2.環境教育コンサルタント
池田さんのホームページの環境教育コンサルタントのサイトで、池田さんは
小学生から大学院学生、そしてシニアに至るまで、環境教育の意義は普遍です。その目的も、自然に親しむ、地球規模の環境保全、さらに環境起業をめざすなど、まことに幅が広いものです。一言に環境と言っても、種の保存、衛生的な水資源、地球温暖化の間に関連があるとすぐにわかるでしょうか。このように多様な環境問題とそれを的確に学ぶことに対して、助言を必要としている方は多いと思います。私が提供できるものは、さまざまな世代への講演と個別指導、環境教育体系のデザイン、環境保全の考え方を提示すること、環境政策と事業の立案です。そのどれも、私がこれまで培ってきた大学における教育、市民講座などの講演、教科書の著作、各政府レベルの審議会委員、環境科学研究者のネットワーク、世界最先端の研究に基づくものです。具体的な項目をリストアップすると以下のようになりますが、これらに留まらず、御相談に応じることが可能です。
として、「小中高大への出前授業」その他の具体的な相談内容を示している。まさに、退職した大学人の生き方として、尊敬に値する発言・選択であると思う。関心を持たれた読者は、遠慮なく、このサイトに示されているメールアドレスにメールしてご相談されるを強く推奨します。なお、上の文章を読んで、相談に応じるとか、助言する、という表現に「上から目線」を感じる読者が居るかもしれない。そのような読者には、池田さんは管理人へのメールで「大学院の教育は最近16年のもっとも重要な課題であり、そこで知り合った教育者、学生、市民の方たちから多くのことを学びました。私の活動がいくらかでもお役に立てたのなら、この上ない幸せです。」と述べておられることをお伝えしておきます。

3.ワークショップ「ブレーク・スルー研究をめざして」
本ワークショップは、広い意味でUNESCOに設置されているIOC(政府間海洋学委員会)の設立50周年記念行事の一環として、ICSU(国際科学会議、我が国の対応体は日本学術会議)の SCOR(海洋科学研究委員会)分科会と計画し、広く日本海洋学会春季大会の一環として、学会員とこれからの海洋学を考えるためのシンポジウム開催の準備活動として企画されたものである。最初に若さんから、本ワークショップの簡単な趣旨説明があり、その後、山形さんの「大気海洋シミュレーション研究の歴史に学ぶ」と題する講演があった。山形さんの講演は、安部公房の「第4間氷期」を引用して科学を論じるなどしていて非常に興味深い内容であった。その後、遅れてきた池田さんにより本ワークショップでの検討項目の提案があり、それに応えて、事前に池田さんから指名されていた人たちから提案、意見表明などがあり、った。「これからの海洋学」研究において如何にしてブレーク・スルーを創出するか、あるいは若手研究者の研究を如何に伸ばすか、というようなことについて種々の意見交換が行われた。管理人は、MSさんが今後にブレーク・スルーが期待される課題例の紹介されたのに対し、それはブレーク・スルーではないのではないか、ブレーク・スルーは皆が思いもしないところに出現する新たな発想であり、それを助けるのは若手が業績のための論文作成に追われずに思索を24時間集中できるような体制環境作りが必要だと述べた。その他、10年後を見据えた課題設定や新たな大学3・4年生向け教科書作りなどが提案された。

第1回の会合であり、漠然とした会合であったが、参加者は60名程度あり、盛会であった。大学院学生やポスドク研究員からの発言が少なかったのは残念であった。9月初めに網走で開催される海洋学会秋季大会でシンポジウムを開催することが決まった。

<参考>
市川惇信 著「ブレークスルーのために(オーム社出版局,1996年)」の複数の書評(名和小太郎、住 明正、瀬戸洋一)によると、本書では、「ブレークスルー研究」という概念は、「新しい現象を発見し、または新しい問題を設定し解決するため、あるいは、既知の現象を新しい方法で解決するための研究」と定義されている。また、ブレーク・スルー的な研究成果を生み出す「優れた研究組織に共通すること」は
1)広い領域での優秀な研究者を採用する,
2)異なる背景の研究者を集める,
3)研究者に明確なピジョンを与える,
4)研究者に自由に発想させる,
5)相互に刺激し合う良い雰囲気を作る,
という5つの要件を満たしていることとのことである.確かに、このような組織だけが生き延びるのだろうことは容易に察せられる。
posted by hiroichi at 04:06| Comment(0) | TrackBack(2) | 教育 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック

ブレークスルー研究
Excerpt: 現在、「国立研究開発法人(仮称)制度の在り方」や「第4期科学技術基本計画」の検討が進行している。また、4月5日付けで日本学術会議は「日本の展望-学術からの提言2010」を公表している。これらと密接に関..
Weblog: 海洋学研究者の日常
Tracked: 2010-04-15 03:36

風力発電の闇
Excerpt: 2010年6月8日00時20分 一部訂正、追記 昨年11月末頃からいくつかの新聞で「 風力発電施設の風車の回転などで出る「低周波音」と呼ばれる音波が、人間の健康に及ぼす影響を検証するため、環境省は来..
Weblog: 海洋学研究者の日常
Tracked: 2010-06-08 00:41