地球温暖化をはじめとする地球規模でのシミュレーションですが、ここで示された結果は、あくまでも「予測」であって、「真実」ではないのです。という記述に違和感を覚え、そのコメント欄でブログ主のイソガニ博士さんと意見交換をさせて頂いた。
つまり、予測の話をあたかも真実のように語るシミュレーションは、最近、話題になっている「ニセ科学」と紙一重にあるかもしれません。
本当の所は、シミュレーションは科学なのか、という本質が議論の対象になっていないのが、残念なところでもあるのです。
いろいろな意味で「シミュレーション」全盛の世の中であるが、「シミュレーション」を含む「数値計算」について、多くの誤解が広がっているようである。以下に、その解説を試みる(適切な教科書が手元にないので、自己流のまとめです)。
拙ブログ関連記事:
2008年06月30日 シミュレーションだから現実はわからないか?
1.シミュレーションは科学的研究手法の一つ
「シミュレーション」の元々の意味は「模擬実験」すなわち「対象とする自然現象のメカニズムを解明するために、実際の現象に類似した現象を条件の制御が可能な実験室などで再現させて、種々の計測を行うこと」である。すなわち、「シミュレーション」は「科学」ではなくて、「科学的研究手法の一つ」である。この意味で、イソガニ博士さんの「シミュレーションは科学なのか」という設問は、それ自体が的外れと言わざるを得ない。
海洋学におけるシミュレーションには、
1)海水の運動を支配する方程式を数値的に解いて海水の運動を支配するメカニズムを調べる数値シミュレーション、
2)陸岸地形と海底地形を現実に合わせた模型水槽内における人工潮汐流による染料の広がり方から海水交換メカニズムを調べる水理模型実験
などがある。水理模型実験は30年前頃には盛んに行われたが、電子計算機の計算能力の飛躍的な向上とともに、現在の海洋学におけるシミュレーションは数値シミュレーションとして行われている。
拙ブログ関連記事:
2009年06月06日 瀬戸内海水理模型の公開
2.数値シミュレーション
上に述べた数値シミュレーションには、その研究段階別に、
1)数値モデルシミュレーション
2)モデル検証数値シミュレーション
3a)予測モデル数値シミュレーション
3b)数値実験シミュレーション
がある。
1)の「数値モデルシミュレーション」とは、海洋学研究でいえば、海底地形、海面風応力分布や変動、渦粘性、地球自転効果などの各種パラメータへの依存性を調べることによって、対象とする現象の変動メカニズムについての仮説(モデル)を構築する際に用いられる数値計算手法である。かっては、単純化した海水循環(例えば、平坦な大洋、円形の島)についての微分方程式について得られる解析解の各種パラメータへの依存性を調べることによって、現象の主なメカニズムを理解することができた。「数値モデルシミュレーション」とは、より複雑な条件下にあって微分方程式の解析解を得られない場合に、種々の解を数値的に求めることである。
なお、以下の拙ブログ関連記事で言及している新型インフルエンザの拡大伝播モデルシミュレーションや生物進化過程や宇宙の発展などにかかわる数値モデル計算も、ここでいう「数値モデルシミュレーション」の1種といえよう。
拙ブログ関連記事:
2008年06月30日 シミュレーションだから現実はわからないか?
2)の「モデル検証数値シミュレーション」とは、種々の観測結果や理論から構築された仮説(モデル)を検証する際に用いられる数値計算手法である。例えば、種々の観測結果や理論から構築された大気海洋相互作用・気候変動モデルについて、過去に観測された気温変化が再現されているか否かを検証するために行う数値計算である。なお、この作業により、観測結果を主に規定しているパラメータへの依存性は検証されるが、潜在的なパラメータ(例えば、気候変動機構における生物過程の役割)が検証されるのは難しいことに留意する必要があろう。
3a)の「予測モデル数値シミュレーション」とは、過去の観測結果を再現していることが検証されている数値モデルを用いて、未来の種々の条件の変化に対する応答を予測する計算手法である。例えば、気候変動予測モデルについていえば、種々の炭酸ガス負荷シナリオに対する気温上昇を推定するために行う数値計算である。状況が変化することによって、それまでに予想されれていなかった過程が卓越することがある。このため、「予測モデル数値シミュレーション」の結果は、継続される観測によって検証されなければならない。
3b)の「数値実験シミュレーション」とは、実験室などでの現象の測定結果を再現していることが検証されている数値モデルを用いて、実際には実行できない条件下での現象を調べる計算手法である。沿岸埋め立て工事に伴う流れの変化の推定、原子爆弾や原子炉内での反応、ほかについての数値計算がこれに対応している。だたし、この数値モデル計算結果への過度の信用は禁物である。モデル作成にあたり考慮する必要がないと判断していた過程が新たな条件下では重要な役割果たす場合があることに留意する必要がある。
3.データ同化数値モデル計算
大気や海洋の循環では予測不能なカオス的振る舞いをする渦が大きな役割を果たしている。このため、大気や海洋の循環についての数値モデルが現実の大気や海洋の短周期変動を高い精度で再現するのは極めて難しい。このため、観測データを、逐次、モデルに取り込んで計算結果を補正しながら、大気や海洋の運動の力学条件を満たしながら、観測にできるだけ近い計算結果を求めるデータ同化数値モデル計算技術が開発されている。このようにして作成されたデータは再解析データと呼ばれている。種々の関係機関で異なった方法で求めているため、世界の複数の機関から提供されている大気循環再解析データの各々は互いに微妙に異なっているのが現状である。
4.おわりに
数値モデルは、所詮、数値モデルである。モデル結果は現実ではないという
非線形の領域について、一般の人は天気予報という形で日々接しているのであり、その予測がいかに難しい面を持つのかを体感的に理解しています。地球温暖化だけシミュレーションの結果を信じろ、と言っても、むしろ健全な懐疑の精神を持っている人なら、信じないでしょう(誤解されないように付け加えますが、温暖化そのものを信じない、という意味ではありません)。
スポーツの世界を考えれば、シミュレーションの重要さがわかります。
何も計画を建てずに、その時の気分で行動するのは危険です。
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現実は複雑だから、複雑なモデルをつかわなければいけないということもないと思います。
株の予測などの経済予測では、シンプルなモデルが有効です。
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シミュレーションについて興味深いのは、山形浩生さんの『訳者解説 新教養主義宣言リターンズ』でした。
山形さんの翻訳したダニエル・デネットの『自由は進化する』の解説に、シミュレーションについての発言があります。
また気象については、廣田勇さんの『グローバル気象学』(東京大学出版会)の「あとがき」にモデルについて興味深い解説がありました。
@数値シミュレーション
衝突実験のように多大な事前準備期間を要するにもかかわらず、実験・調査がほぼ一瞬で行われるため、データを取れる時間が短く、かつ実際どうなっているかが外からは見えないという三重苦を常に抱えている分野では、初期条件、分かる範囲の途中条件及び最終条件に基づくリバースエンジニアリング、つまりは現象の可視化からスタートしています。海洋学でのシミュレーションもランドの考え方に含まれると思います。
これがマリン(エア)になるともう全然違います。システム(構造・流体屋)の数値シミュレーションというのは、紙面上(=仕様書)の設計値が正しい事を検証するためのものであり、究極的には設定された最大荷重に仕様書通りに耐えるかどうかを検証できればそれで万事OKな感じです。問題が出てからおざなりなシミュレーションして、実はこうでしたという事後に報告書を出すことが至極普通に行われています。
構造計算で、弾性解析をしていると、荷重を大きくすれば、際限なく応力が高くなります。しかし、実際には、弾性の限界がありますので、応力は頭打ちになり、それを補償する形で周辺部の応力が計算結果以上に高くなります。ここまできたら「エイヤ」になります。
船舶や航空機全体ともなれば部品点数も膨大ですし、発生要素も膨大で、ランド並みにデータマイニングするとコストと時間が掛かりまくるのでラフなデータマイニングしかできないのです。ま、ラフなパラメトリックスタディぐらいはしますけど。
初めから、全部お願いしますというお客、指示したとおりに計算して、報告書を出してというお客。この両極端のタイプの方は、すんなり作業が進みます。仕事を出す側と仕事をする側のコミュニケーションを適宜行い、方向修正をかける必要がないですから。
で、「大気海洋相互作用・気候変動モデル」についての「お客様」は誰で、方向修正はどのようにかけているのでしょうか?工学ですと実際の計算を行う前に、解析仕様書により、客先の了解を得ることにしています(何しろ製造者責任を問われるので)。
小生にはそれが無いから「信頼性云々」の話になるのだと思いますが。
>一番大きな問題は「モデル精度の認知の異なり」であるように思います。
貴重なご指摘をありがとうございました。アニメや図で示されるシミュレーション結果は一見して分かりやすい工夫が施されているだけに、その説明において「専門家の常識は非専門家の非常識」ということを常に意識しなくてはならないと思います。
>地球温暖化だけシミュレーションの結果を信じろ、と言っても、むしろ健全な懐疑の精神を持っている人なら、信じないでしょう
同意します。なんの限定条件も付けずに「シミュレーション結果を信じろ」という専門家はいないと思いますが、往々にして、専門外の人々の間では、その限定条件が無視されて、結果のみが独り歩きしてしまっている場合が多いように思います。このことを理由に限定条件を説明せずに「シミュレーション結果を信じろ」という専門家は、専門外の人への説明という専門家の責任を放棄している似非専門家ということになります(ちょっと厳しい言い方ですが)。
おおくぼ 様
>「シミュレーションは悪か?」みたいな議論はナンセンスだと思います。
そうは思いますが、ややこしい前提条件や誤差の話を無視して結果だけを知りたがったり、「シミュレーションの結果はxxである」というだけで説得されてしまう人もいます。こういう風潮に乗じて、あやしい前提条件に触れずに「シミュレーションの結果」のみをもっともらしく偉そうに押しつける似非専門家もいます。このような似非専門家に反感を持って、「シミュレーションは悪」と考える人が現れるのは仕方がないようにも思います。多くの人が「結果だけではなく、その過程・根拠を知りたがる」という「科学的な、あるいは懐疑的な態度」を持つようになれば、「シミュレーションは悪」と考える人もいなくなると思います。
>現実は複雑だから、複雑なモデルをつかわなければいけないということもないと思います。
「複雑な現実を理解する」ことは「複雑な現実を単純なモデルで表現する」ことに通じます。というか、「複雑な現実を単純なモデルで表現する」ことが多くの研究者の目指している所ではないかと思います。そこで、数値計算で「種々の単純なモデルで現実を再現」できるか否かを確かめるモデル検証数値計算研究が発展しました。しかし、現実には、このことは、なかなか難しいことです。最近では、「計算してみないと結果が分からない」ほどに複雑になってしまったモデルも多々あります。この複雑なモデルの数値計算結果を用いて、もう一度、本質的な理解を、単純なモデルに立ち返って進める必要があると考えている人も多いと思います。
>シミュレーションについて興味深いのは、・・・
貴重な情報をありがとうございました。
ご紹介いただいた本でのシミュレーションについて記述を、貴ブログでご紹介していただき、拙ブログにTBして頂きたく、お願いします。
HMS様
>工学の解析ではそんな手間はかけられません。
工学系の数値計算についての情報をありがとうございました。理学・工学の違いというよりは、十分に手間暇をかけることができる研究開発活動と時間が制限された状況での違いと思いますが・・・。
それにしても「問題が出てからおざなりなシミュレーションして、実はこうでしたという事後に報告書を出すことが至極普通に行われています」というようなことをHMSさんがされているということでしょうか? 他の人の行為について、不特定多数を意味する「至極普通に」という表現は不適切な表現だと思います。
単純な思いつきによる自問自答の中にあった「シミュレーションは科学か?」というのが、思いもかけずいろいろ議論の対象になって、感謝しております。
結局の所、「科学」「シミュレーション」など言葉の定義をどのような範囲まで解釈するのかで、答えが違ってきているように感じました。
私自身の勝手な見解になりますが、いろいろな現象を解明するための道具としてのシミュレーションは科学だと思っています。しかし、それは真理を追究するためのシミュレートをするアルゴリズムが創り出されるまでが「科学」の範囲であって、シミュレーションした結果以降のことは、科学的考察に基づいた「お話」「ゲーム」「ビジネス」などになってしまうと思うのです。
だからといって、シミュレーションを科学分野の中で否定しているわけではなく、道具の1つとしてもっと発展するべきだと考えています。
ところで、「計算してみないと結果が分からない」からこそ、コンピュータの価値があるのだと思います。
コンピュータの恩恵によって、科学研究は大きく前進したと思うのです。
拙TBへのご返答をありがとうございます。
貴ブログのコメント欄での対話では言い尽くせなかったことを記事にさせていただきましたが、多くの方の注目を集め、シミュレーション(の信頼性?)に対する関心の高さに驚いています。
>それは真理を追究するためのシミュレートをするアルゴリズムが創り出されるまでが「科学」の範囲であって、シミュレーションした結果以降のことは、科学的考察に基づいた「お話」「ゲーム」「ビジネス」などになってしまうと思うのです。
たぶんイソガニ博士さんと私で「科学」あるいは「科学的考察」という言葉の意味が大きく異なっているためだと思いますが、シミュレーションのアルゴリズム開発・改良も、その結果の考察も、同じ科学的営みの一つと思っている私には、イソガニ博士さんが何を言われているのか理解できません。特に、「科学的考察に基づいた「お話」「ゲーム」「ビジネス」」とは何なのでしょうか?
>だからといって、シミュレーションを科学分野の中で否定しているわけではなく、道具の1つとしてもっと発展するべきだと考えています。
同意します。
おおくぼ 様
>近い内に、紹介した本を自分のブログに引用して、TBします。
宜しくお願いします。
>ところで、「計算してみないと結果が分からない」からこそ、コンピュータの価値があるのだと思います。
言い方が微妙ですが、従来は、定性的に(例えばAが増えればBは減ると)予想していることを定量的に(例えば、Aが2倍になればBは0.3倍になることを)確認するために数値計算をしていました。その結果が予想外(例えば、Aが2倍になればBは3倍になる結果)であった場合には、プログラムに誤り(よくあるのは係数の桁間違いとか、+と-の間違い)がないか、徹底的に調べます。プログラムに誤りがなければ、次に何故、予想と異なる結果になったのかを考えます。このような手順で研究対象の理解を深めます。この観点からすると、全く結果が分からないことを計算しても、その計算結果の信頼性を検証するすべがないので、その結果を無批判に受け入れることは、誤った結論を導き出す危険性を含んでいると言えます。
このことを防ぐために、気候変動予測については、複数の機関が開発した全く異なるプログラムを同じ条件で動かして、その結果を比較することが行われています。これは、「計算してみないと結果が分からない」ことを他の種々の計算方法でやっても同じような結果となることを確認することによって、それらの計算結果に誤りのないことを検証していることになります。このような検証作業が「計算してみないと結果が分からない」計算結果の考察には不可欠です。
>コンピュータの恩恵によって、科学研究は大きく前進したと思うのです。
これについては、強く同意します。シミュレーションのみならず、大量データの高速処理での貢献も大きいと思います。
山形さんの本だけ、簡単な紹介を書いたのですが、中途半端になったので、別の記事を書いている途中です。
★
「計算してみないと結果が分からない」・・・は複数の解釈がありますね。
1 プログラムが意図した通りかどうかという問題
hiroichiさんの例だと、プログラムのミスですね。
2 シミュレーションの結果の精度。
天気予報の結果などですね。
まず、私が想定したのは、大きく複雑な建築物の設計です。
橋とか、高層ビルとかです、また遺伝子解析などです。
これらは精密さを求めると、人間にとって膨大で複雑な計算になります。
コンピュータなしでは、古代ギリシャの天才数学者や江戸時代の和算の達人でも、計算が不可能かもしれません。
3 地球温暖化のシミュレーションなど、不確定要素が多い未来予測
未来のシミュレーションでも、惑星の運行は精確ですが、地震や津波や台風などのシミュレーションの精度は、そこまで行っていません。
地球温暖化のシミュレーションは、予防原則が重視されているので、現実がシミュレーション通りに行かなくても仕方ないと思います。
でも予防原則を重視した、精度の高くないシミュレーションだということは、もっと意識されてもいいと思います。
「シミュレーションは非科学」という主張が出て来る原因は、予防原則をどう考えるかという点にあると思います。
それからシミュレーションを地球温暖化に適応する時の問題は、設定したパラメタの精度を確認する為の「反復実験」が不可能な事と、限定的にしかわかっていない温暖化の原因をもとにパラメタを設定している事ではないかと思います。
それらによって過去の気温変化に辻褄があうようにいくらパラメタ値をいじっても、それで未来を数十年、数百年の長期的な未来を予測できるとは思えないのですが。
>複数の解釈がありますね。
そうですね。ご指摘のように、「計算してみないと結果が分からない」の意味はシミュレーションが使われる状況に応じて異なると考えると、分かりやすいですね。
>地球温暖化のシミュレーションは、予防原則が重視されているので
ちょっと違うと思います。温暖化予測シミュレーションの結果に基づいて温暖化対策で炭酸ガス放出を規制するのは予防原則の考え方によるといえますが、シミュレーションによる温暖化予測作業においては予防原則の考えを考慮しているわけではないと思います。
>精度の高くないシミュレーションだということは、もっと意識されてもいいと思います。
同意します。何事も正直に話すことが最善の方法とは思います。ただし、種々の思惑から声高に温暖化懐疑論(陰謀説)を唱える人がおり、温暖化予測が科学的研究課題ではなくて政治問題になってしまっている現状では、科学的に精度が高くないことを強調するよりは、誤解・無理解を増長させる結果を招くことを危惧して、政治的に結果の信頼性を強調する傾向が強いのも仕方がないのかなとも思います。
>シミュレーションは科学というよりは、目的を達成する為の手段(技術)ではないでしょうか。
私は「科学的研究手法の一つ」と説明しました。手段(技術)とほぼ同じだと思います。ただし、手段(技術)という語句には、「だれがどう使っても同じ結果を得る」というようなニュアンスがあるように感じる点が気にかかります。
>それからシミュレーションを地球温暖化に適応する時の問題は、設定したパラメタの精度を確認する為の「反復実験」が不可能な事と、限定的にしかわかっていない温暖化の原因をもとにパラメタを設定している事ではないかと思います。
はい、その通りです。このため、温暖化の状況の監視観測を継続し、観測結果により判明した新たな事実を考慮したモデルの改良を続けることが必要になります。
>それらによって過去の気温変化に辻褄があうようにいくらパラメタ値をいじっても、それで未来を数十年、数百年の長期的な未来を予測できるとは思えないのですが。
高い精度の完全な予測は不可能ですが、迫りくる危機を回避するためには、精度が高くはないことを正しく認識したうえで、現時点で最善と考えられる予測を行う努力を続けるしかないと思います。
だから、予防原則を重視している予測もあると思うのです。
もちろん、予防原則と無縁の地球温暖化予測もあると思います。
また私は懐疑派ですが、地球温暖化予測は重要だと思っているし、これからも世界中の優秀な研究者が真剣に向かって欲しい課題だと思っています。
政治的な懐疑派は置いときまして、科学者は懐疑派であっても問題はないと思います。
素直に偉い先生の言うことを鵜呑みする研究者は、科学者としてどうなんだろう?と思います。
間違った説が広まっているなら、科学の方法にのっとて、間違いを正せばいいだけだと思います。
科学は、そうやって進歩してきたのだと思います。
プラトンやアリストテレスにも間違いがありました。
だからと言って、彼らの価値が下がることはありません。
>科学者は懐疑派であっても問題はないと思います。
素直に偉い先生の言うことを鵜呑みする研究者は、科学者としてどうなんだろう?と思います。
完全に同意します。というか、科学的営みは定説を疑うことから出発するのですから、科学的議論は本質的に懐疑派の立場で進められます。先の私のコメントでは、政治絡みの話を加えたために混乱を招いてしまいました。
>予防原則を重視している予測もあると思うのです。
「予防原則」とは「化学物質や遺伝子組換えなどの新技術などに対して、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと(Wikipedia)」です。ここで重要なのは「科学的に因果関係が十分証明されない状況でも規制措置を可能にする」ということです。
「予防原則を重視している予測」とはどういう予測なのでしょうか? 炭酸ガスと温暖化との因果関係は科学的に十分に証明されていないが、予防原則の考え方を取り入れて、IPCCの6つのシナリオに対する予測モデル計算を行うことを「予防原則を重視している予測」とお考えなのでしょうか?
私は、炭酸ガスの温室効果を考慮した温暖化予測モデルが不完全であっても、またその計算結果の精度が高くなくても、炭酸ガスの排出により温暖化が進行する結果が得られているのだから、炭酸ガスの排出規制を行うというのが予防原則の考え方を適用した選択であると思います。予防原則の考え方を採用しない場合には、温暖化予測モデル計算の精度が不十分で本当に温暖化が進むか否か不明であり、確定するまで炭酸ガスの排出規制を行わないという選択になります。これらの2つの場合とも、予防原則の考え方と関係はなくIPCCの6つのシナリオに対する温暖化予測計算作業を進めますので、「予防原則を重視している予測」というものは無いと思います。
だからこれからも驚くべき発見が出て来る可能性が高いと思います。
★
予防原則を重視している地球温暖化予測について、私の考えを、もう少し詳しく説明します。
それがhiroichiさんの疑問に対する答えになると思いますので。
まず二酸化炭素と温暖化の因果関係に注目します。
例えば、仮定として、二酸化炭素が温暖化に関係しているか不明とします。
でも強く関係していると仮定して、シミュレーションのためのプログラムを組みます。
その時に、どの程度関係しているかを決めないと、プラグラムは組めません。
大気中の平均濃度1ppm増えれば、何度平均温度上昇するのか?を決めなければいけません。
そして例えば・・0.1℃~1℃まで主張が別かれれば、どれかの主張を選ばなければいけません。
そして、この場合、どれを選ぶかが重要です。
この選択の意思決定に予防原則が使われていると思うのです。
もちろん使われない場合もありますが・・・。
上の話は、かなり単純化したプログラムで、非現実です。
実際は、大気中の平均濃度1ppm増えれば温暖化のベクトルはどのぐらいか?だと思いますが・・・。
でも、二酸化炭素の平均濃度1ppm増加のベクトルが不明な場合は、推測になり、同じように予防原則が使われると思うのです。
だから因果関係が不確定な場合は、人間による意思決定が必要になり、この場合は意思決定に予防原則が採用されることがあると思います。
★
過去100年間の平均気温のグラフを見れば、地域差が発見できます。
例えば、南極の内陸側は温暖化していません。
北極圏は温暖化していますが、20世紀前半の方が後半よりも平均気温が高いです。
また日本とオーストラリアを比較すれば、20世紀後半は同じように大きく温暖化していますが、10年ぐらいズレがあります。
この結果からも、二酸化炭素と平均気温の因果関係は不確定だと思うのです。
また金星と二酸化炭素の因果関係も不確定だと思います。
金星は自転スピードが遅いにもかかわらず、夜の側の温度は昼の側と温度差が小さいです。
そうすると二酸化炭素の温室効果はどのぐらいか?は、現時点では、よくわからないという結論になると思うのです。
でもよくわからないからと言って、無視してもいい訳ではありません。
実際に、過去200年間で二酸化炭素は100ppmも増えているし、その増加スピードは年々上がっています。
そこで、予防原則を重視した数値にするのか、軽視した数値にするかという選択肢が出て来ると思うのです。
>十分に手間暇をかけることができる研究開発活動と時間が制限された状況での違いと思いますが・・・。
であれば、海技研や防衛技研ではそれ以上のモノが出来るはずですが、現状は下記のとおりです。
http://premium.nikkeibp.co.jp/em/ecolabo/29/
>他の人の行為について、不特定多数を意味する「至極普通に」という表現は不適切な表現だと思います。
ならば、エアかマリンでランド並みに、初期条件をもっと精密化(数値モデルと共通化した検証用実験モデル及びそれを用いた実験等の開発も含まれる)→初期条件のパラメトリックスタディ(現象感度分析)→現実と合わない部分の定量化→初期条件の更なる精密化→(以下初期条件のパラメトリックスタディへループ)という感じでシミュレーションがきちんと行われている実例を挙げていただけないでしょうか?
不適切な表現云々以前に「そんなものを見たことがない」と申し上げています。
>大気中の平均濃度1ppm増えれば、何度平均温度上昇するのか?を決めなければいけません。
温度上昇の度合いは計算の結果として定まるのであって、計算前に直接、人為的に選択・決定することはできません。政治的あるいは意図的に計算前に温度上昇の度合いを決める計算は、ニセ予測計算です。
>でも、二酸化炭素の平均濃度1ppm増加のベクトルが不明な場合は、推測になり、同じように予防原則が使われると思うのです。
推測値を事前に選択せずに、数値モデル計算で求めています。
>だから因果関係が不確定な場合は、人間による意思決定が必要になり、この場合は意思決定に予防原則が採用されることがあると思います。
以下のように修正した場合には、予防原則の定義と矛盾しておらず、同意します。
だから因果関係が不確定な場合は、
対応策の実施については
人間による意思決定が必要になり、
この場合は意思決定に予防原則が採用されることがある。
>不適切な表現云々以前に「そんなものを見たことがない」と申し上げています。
私の読解力の無さなのか、どこでこのようなことを言われているのでしょうか?
1)「きちんと行われている実例を見たことがない」
2)「おざなりなシミュレーションが至極普通に行われている」
とでは、意味するところは全く異なると思います。1)であれば、HMSさんの個人的経験を述べているだけですので、不適切な表現ではないと思います。
だから「予防原則」という言葉を使わずに私の主張を言い直します。
1 二酸化炭素と平均気温の因果関係は不明
2 にもかかわらず、二酸化炭素増加による平均気温上昇のシミュレーションが必要
3 専門家によって、シミュレーションの結果に差が出る
4 でも、それは仕方がない。
5 マスコミはシミュレーションの前提について丁寧に説明すべき。
・・・ということです。
政治的な懐疑派や、「シミュレーションは科学じゃない」派が出て来る原因は、マスコミの説明が悪いからだと思うのです。
仮に二酸化炭素がこのまま増え続けたとして、100年後に温暖化しているか、寒冷化しているか、どちらかわからないと思います。
二酸化炭素に温暖化する力があっても、それを上回る寒冷化する力が働ければ、結果として寒冷化します。
例えばマウンダー極小期が、何が原因で寒冷化したかは、よくわかっていません。
太陽原因説が有力ですが、具体的な因果関係は不明です。
★
けれど、二酸化炭素に温暖化する力があるというのは、科学的な根拠があります。
だから、二酸化炭素が増える → 地球が温暖化する・・というのも間違いとは言えません、もちろん正しいとも言えません、でも科学的な根拠はあるのです。
世間のよくある勘違いは、科学的な方法にのっとている=現実と合致する・・と思っていることです。
科学的な方法にのっとて予測しても、現実とズレることは多いですし、だからこそ、研究のし甲斐があるのです。
科学は間違いを素直に認め、間違いを明確にするという態度が、科学の信頼性とつながっているのですから。
>私の「予防原則」という言葉の使い方が悪かったみたいです。
だから「予防原則」という言葉を使わずに私の主張を言い直します。
私が引っ掛かっていた「予防原則」を使わずにご説明いただき、ありがとうございました。
>政治的な懐疑派や、「シミュレーションは科学じゃない」派が出て来る原因は、マスコミの説明が悪いからだと思うのです。
マスコミの影響もありますが、根本として、マスコミ関係者も含めて一般の人々に科学の営みについて理解が普及していないのが原因と思っています。
>科学は間違いを素直に認め、間違いを明確にするという態度が、科学の信頼性とつながっているのですから。
同意します。多くの人々が「科学とは、その対象をより良く理解するための試行錯誤の過程である」ということを理解し、社会の在り方を含めた科学技術研究開発の重要性が認識されれば、科学技術の発展を通したより良き社会実現の可能性も高まるのではないかと私は思っています。