2009年10月04日

ベニス2009年9月

19日夜にワシントンDCを発って、フランクフルト空港で4時間の接続便待ちの後、20日夕方にベニス(リド島)のホテルに到着した。21日から25日までOceanObs'09と呼ぶ国際会議に参加するためである。この会議は世界各国の海洋研究者が集って、1999年の前回の会合後の世界における海洋観測の成果と進展を踏まえて、今後10年間の海洋観測計画についての提言をとりまとめるために開催された。気候変動や漁業資源変動と密接にかかわる海洋の観測研究にかかわる大規模な国際会議の実際を、以下にその概要などを含めて報告します。


1.概要
9月30日付けで東北大学の須賀利雄さんによって海洋学会MLにその速報が投稿されている。以下は、その抜粋。
2009年9月21日~25日に、イタリア・ベニス(リド島)のPalazzo del Casinoにおいて”OceanObs'09 - Ocean information for society: sustaining the benefits, realizing the potential”が開催されました。10年前に開催されたOceanObs'99における議論に基づいて構築されてきた衛星観測と現場観測による海洋物理環境の全球観測システムは、われわれの海洋に対する理解を深めるとともに、海洋環境や気象・気候の現況把握・予報などを通じて社会に有用な情報を提供してきました。OceanObs'09の目的は、この10年の成果を踏まえ、海洋の理解と社会への貢献をさらに推し進めるために、持続的な全球海洋観測と情報供給システムを、生物地球化学や生態系の分野にまで広げて発展させていくための国際的な合意を形成することでした。

会議には36カ国から600名以上(日本からは25名)が参加しました。1年ほどかけて作成されてきた100件近いCommunity White Paper、それらに基づく47件の全体会議講演とその後の討議、ポスターセッション、関連国際プログラム(GEO、CEOS、POGO、SCOR、GCOS、GOOS、JCOMM、PICES、ICES、CoML、IGBP、WCRP)からの意見などを踏まえ、最終日に、総合的な海洋観測・情報供給システムの構築を目指した声明最終案(Final Draft Conference Statement)を発表しました。
この会議は、政府間海洋学委員会(IOC、ユネスコ傘下)、世界気象機構(WMO)、欧州宇宙機関(ESA)、米国航空宇宙局(NASA)、米国大気海洋庁(NOAA)他の機関がスポンサーとなって開催されている。この記述で述べられている関連国際プログラム(GEO、CEOS、POGO、SCOR、GCOS、GOOS、JCOMM、PICES、ICES、CoML、IGBP、WCRP)とは、世界各国が共同して海洋を含む地球環境の観測を推進するために、IOCやWMO他の機関が連携して運用している組織(プログラム)である。各々の詳細は「国際研究計画・機関情報データベース」を参照されたい。

2.詳細
会議は、5日間にわたって、毎日、1つの会場で種々のテーマに沿った全体会議講演(Prenary Talks and Papers, PTP、合計44件)が逐次行われ、それについて会場からの質問・コメントに講演者が回答するという形式で進められた。毎日のテーマは以下の通りである。詳細は各々のリンク先を参照されたい。
9月21日 Celebrating a decade of progress and preparing for the future
9月22日 Scientific results and potential based on global observations
9月23日 Delivering services to society
9月24日 Developing technology and infrastructure
9月25日 The Way Forward
22日夕方には太平洋西岸境界流域について各国で立案・実施中の観測計画を紹介する関連集会があった。また、全体会議場では生物過程におよぼす大規模海洋循環の変動について円卓会議が開催され6人のコメンテーターの中で日本からFMさんとSTさんが参加して発言した。その後、日本でも公開予定の映画「Oceans」のプレビューがあった。美しい海洋生物生態の映像が印象的であった。ともかく、関連集会を含めて、毎日、ほぼ9時から20時まで盛りだくさんの日程であった。

各々のPTPは、PTP担当者がそれまでに投稿・公開されていたCommunity White Paper(CWP、関係グループの各々が取りまとめた提言、合計99件)およびその追加情報(Additional Contribution Poster, ACP、合計280件)の中から独自の観点から選んで取りまとめた内容である。

管理人は、9月22日のSession 2B: Large-scale ocean circulation and fluxesに関連する、現在、黒潮続流域で行っている海面係留ブイ海面フラックス観測を含めた、西岸境界流続流域の大気海洋相互作用モニタリングに関するCWP「Monitoring Ocean-Atmosphere Interaction in Western Boundary Current Extensions」の共著者の一人として、またこのCWPに関連するACPの著者として参加した。我々のCWPはおおむね好評で、いくつかのPTPで取り上げられていた。

全体の印象としては、現行の海洋観測の継続と新たな観測計画や観測技術開発計画を紹介する講演が目立ったが、長期的展望からの斬新な提案は少なかったように思う。このことに関して、24日のCurl WunchさんのPTPが示唆に富んだ内容であった。海洋観測は、我々、現世代のためではなく次世代のためにあること、すなわち海洋観測には多大な経費が必要だが、海洋観測資料を用いて得られる予測研究の成果によって将来の被害を防ぐことを通して未来社会に還元されること、そしてこのことを如何に現在の社会に納得してもらうかが大きな課題となっていることが強調されている。

拙ブログ関連記事:
2008年07月26日 Carl Wunschさんのこと

最終日の25日のSession 5C:High-level perspectives: sustaining ocean observationsでは、Moutarlier氏(Head of the GMES Bureau, DG Enterprise and Industry, European Commission)とKilleen氏(Assistant Director for the Geosciences, U.S. National Science Foundation)がおのおのECと米国における海洋観測への積極的な取り組みを表明した。米国は海洋観測構想(Ocean Observatories Initiative)を今後長期にわたって推進するとして、その概要が紹介された。これに対し、我が国における海洋観測船の代船建造の遅延、縮小傾向や気象衛星の運用に四苦八苦している現状を考えると我が国の海洋観測分野における国際貢献の将来について暗澹たる思いに襲われる。

全体会議講演の中では、21日のOceans of Change: decadal basin scale monitoring using the Continuous Plankton Recorder Surveyで北大西洋における1950年代からのプランクトン組成の変化について観測結果を示していたのに特に個人的興味を持った。50年間のプランクトンデータ蓄積の重要性を明示する講演であった。このような地道な観測活動を継続するのが困難な我が国の状況を何とか打破する必要がある。

3.会議の外で
11月初めに東京で開催する北太平洋高中緯度大気海洋相互作用国際研究集会についてアメリカ大気海洋庁太平洋海洋環境研究所のMCさんやハワイ大のBQさんと打合せを行うとともに、他の関係者へ参加の依頼・確認を行った。スクリプス海洋研究所のJSさんとはWOCE会合以来、久々に再会した。22日の昼食時には、偶然にもCurl WunchさんとWalter Munkさんと同席した。ウッズホール海洋研究所のRWさんとも久々にお会いして、JKEO海面係留ブイデータの公開の細部についての情報を得る約束を取り付けた。韓国海洋開発研究所のJHLさんとは25日に夕食を共にして旧交を温めた。

国際会議では、海外の研究者との意見交換のほかに参加した国内研究者との交流も進む。今回の会議には日本から25名が参加していた。このうちの日本でもゆっくりと話す機会がない何人かとは、会議期間中に種々の話題(例えば、各大学の海洋学研究・教育体制の現状、ブログ発信を通した海洋学普及活動、国際学界での発言力の増強のための方策など)で会話が弾んだ。

4.おわりに
結局、米国からイタリアへの移動の疲れや会場の強い冷房のために体調を崩してしまった。このため、24日夜には自重して懇親会に参加せず、26日に京都で開催される「海のサイエンスカフェ」の直前の調整を教育問題研究部会員や井戸端サイエンス工房の担当者の方とメールで行った。25日夜もこの作業は続いた。

会議の翌日の26日早朝7時にホテルを発って、マルコポーロ空港を11時過ぎに飛び立ち、フランクフルト空港で5時間の接続便待ちの後、21時にワシントンDCのホテルにチェックインした。1週間ぶりに湯船につかって疲労回復に努めた後、13時間の飛行を経て28日午後に何とか帰国した。なお、今回の海外出張では、空港での待ち時間やホテルでのインターネット利用ではWiFiが普及しているのには驚いた。ダレス空港では電源供給ブース(サムソン提供)が至る所にあり、パソコンを抱えた人々(管理人もその一人だが)がその周辺に群がっていたのが、面白い風景と思った。また、マルコポーロ空港の出発ゲート付近にはさすがにイタリアらしく、フェラーリのF1カーが展示されており、多くの観光客が足を止めて見入っていた。F1が世界ブランドであることを実感した(数年前までは良く深夜遅くまでTV中継を観戦していたが、最近は面白くなくなったというのが管理人の印象だが・・・)。

今回の大西洋と太平洋を2回横断する長旅では、さすがに還暦を過ぎたせいもあって、体はガタガタになった。帰国後、数日はひたすら疲労回復に努める毎日であった。もうエコノミークラスでの長旅には耐えられないのかもしれない。
posted by hiroichi at 16:18| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ハードな海外出張、お疲れ様でした。
Posted by bobby at 2009年10月06日 10:59
bobby 様

ご慰労のお言葉をありがとうございました。
体は疲れましたが、それなりに楽しみ、気分は良好です。

京都での「海のサイエンスカフェ」は担当者、参加者の皆様のご協力によって盛況だったとの報告をお聞きしています。近日中にウェブサイトに開催報告を掲載の予定です。
Posted by hiroichi at 2009年10月07日 23:59
>ウェブサイトに開催報告を掲載の予定です

参加できなくて残念です。掲載を楽しみにしています。
Posted by bobby at 2009年10月12日 16:21
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