2009年07月15日

表層海洋循環の成因

MONEYzine(マネージン)で7月5日に「国際情勢分析の第一人者浜田和幸ヘッジファンドの全貌を明かす!第22回温暖化が進めば氷河期突入の恐れも 今、地球に何が起こっているのか」と題する記事が掲載されているのを見つけた。突っ込み所が満載であるが、2ページの
現在の地球は赤道付近の低緯度の地域で温められた海水が地球の自転によって発生する巨大な潮流に乗って高緯度地帯に熱を運んでいる。
という記述を読んで、笑い話では済まないと思い、以下に表層海洋循環の成因を述べることとする。



1.海洋表層の循環


海面から1000m深程度までの海洋の流れを、長期間にわたって平均すると、海洋にはいくつかの大規模な水平方向の流れがあります。全球規模でみると、南極大陸周囲に流量の大きい東向きの海流(南極環流)があり、各大洋(太平洋・大西洋・インド洋)の亜熱帯域などに大規模な循環が存在し、例えば、北半球亜熱帯域では時計回りの循環、南半球亜熱帯域では反時計回りの循環となっています。このような海洋表層の循環は、主に海上を吹く風が海面に及ぼす力(風応力)によって駆動されており、地球の自転による効果によって“西岸強化“と呼ばれる現象が見られます。北半球の亜熱帯循環を例にすると、西岸付近に幅の狭い強い北向きの流れ (西岸境界流と呼ばれ、北太平洋では黒潮、北大西洋では湾流にあたる)があり、その東側はゆっくりとした南向きの流れがある領域となっています。

 北太平洋海域をより詳細に見ると、熱帯域には反時計回りの熱帯循環、亜熱帯域には時計回りの亜熱帯循環、亜寒帯域には反時計回りの亜寒帯循環があることがわかります。このような循環は、いくつかの海流により構成され、亜熱帯循環では、北赤道海流、黒潮および黒潮続流、カリフォルニア海流などの海流により、亜寒帯循環であれば親潮や亜寒帯海流などの海流により構成されています。

と記載されている。


なお、海流と潮流は違う。海流は「長期間にわたって平均すると海洋中に現れる(検知される)いくつかの大規模な水平方向の流れ」であり、潮流は潮汐(月と太陽の影響による海面変位)によって生じる主な周期が12.5時間と25時間で変動する流れである。


2.表層循環の駆動力

上の気象庁のサイトでの説明でも述べられているように、海流は「地球の自転によって発生する」のではなくて、「主に海上を吹く風が海面に及ぼす力(風応力)によって駆動されて」いる。とはいえ、何故、「北半球亜熱帯域では時計回りの循環、南半球亜熱帯域では反時計回りの循環となって」いるのかの説明にはなっていない。


赤道域では太陽で加熱された高温の表層海水に加熱されて、大気は上昇する(この結果、赤道域では低気圧が発達し、降水量が多い)。赤道域で上昇した大気は上空で冷やされながら中緯度へ向かった後、中緯度で下降する(この結果、中緯度では高気圧が発達し、降水量が少なくなり、陸上では砂漠が多く、海面塩分は高い)。下降した大気は下層で赤道と極へ向かう。赤道へ向かう大気にコリオリ力が働いて、風向きは西向きとなる。また、極へ向かう大気にもコリオリ力が働いて、風向きは東向きとなる。この結果、北太平洋の赤道域洋上では南西向きの北東貿易風が、中緯度洋上では東向きの偏西風が吹く。同じく、南太平洋の赤道域洋上では北西向きの南東貿易風が、中緯度洋上では東向きの偏西風が吹く。海上に吹いている風によって海水は風下側に運ばれるのだから、この貿易風と偏西風の向きにしたがって、亜熱帯循環は北半球では時計回り、南半球では反時計回りとなると思うかもしれないが、そうではない。


実は、海上に吹いている風によって風下側に運ばれる海水にもコリオリ力が働く。その結果、上層の海水は風下に向かって、北半球では右直角方向に、南半球では左直角方向に運ばれる(これをエクマン輸送という)。北半球では、南東貿易風により北へ、偏西風により南へ、表層海水は運ばれる。この結果、南東貿易風と偏西風に挟まれた海域には表層水が溜まり、海面が赤道域や中緯度よりも高くなる。同じく、南半球では、北東貿易風により南へ、偏西風により北へ、表層海水は運ばれる。この結果、北東貿易風と偏西風に挟まれた海域には表層水が溜まり、海面が赤道域や中緯度よりも高くなる。海面高度の違いによる圧力差と流れに伴うコリオリ力が釣り合うように、北半球では高圧部を右直角方向に見る向きに、南半球では高圧部を左直角方向に見る向きに、海水は流れる(これを地衡流という)。この結果、亜熱帯循環は北半球では時計回り、南半球では反時計回りとなる。


3.おわりに

ちょっと混乱すると思いますが、図を描きながら考えてみてください。話の巧妙さに面白さを感じて頂ければ、幸いです。


浜田和幸さんの記事は、最後近くの「冷静な判断とともに、地球環境に対する長期的な理解を深める必要があるだろう」という言葉には同意するが、引用文献を明示していないこと、論理展開に飛躍があること、上に述べた海流の成因の記述が誤っていること、などから、緻密さに欠けていると言わざるを得ない。「科学的探究の努力をせずに、単に未来に対する不安を煽っているだけ」というのは言い過ぎだろうか?
posted by hiroichi at 03:49| Comment(0) | TrackBack(5) | 海のこと | 更新情報をチェックする
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