2010年3月19日01時20分 ビデオのリンク先を更新
2010年3月19日02時05分 関連記事(カガクのじかん)の紹介を追加
コリオリ力(転向力)とは、地球自転の効果のために、地上で運動している物体に働いている「みかけの力」であり、大気や海水の運動のように流速の鉛直成分が水平成分に比べて十分に小さい時には、コリオリ力の大きさは、移動速度に比例し(比例係数をコリオリ係数と呼びます)、北半球では、物体の運動する方向に向かって直角右手側(南半球では直角左手側)の向きに働きます。このコリオリ力について、「回転する盤上をころがる球の「盤とともに回転している人から見た見かけの運動」と「回転する円盤の外から見た実際の運動」の違いを示す以下のビデオがありましたので、お知らせします。
以下はその補足
本ブログ関連記事:
2008年08月11日 「「コリオリ力」は「現実の力」ではないのか?」
関連記事:
ちょっと厳密性に欠けてはいますが、一読されることをお勧めします。
記事「「コリオリ力」は「現実の力」ではないのか?」では、
回転する円盤の中心(北極)から(赤道に向けて)投げた物体の「円盤とともに回転している人から見た見かけの運動」と「回転する円盤の外から見た実際の運動」の違い
を例にしてコリオリ力の説明をしています。他方、ビデオでは
回転する盤の中心ではなくて端から盤上をころがる球の「盤とともに回転している人から見た見かけの運動」と「回転する盤から離れて、上から見た実際の運動」の違い
を示しています。これらの実験状況は微妙に違います。この違いについて以下に説明します。
<運動中の物体に働く力>
回転する円盤の中心から投げられた物体に実際に力が加わるのは、手から離れるまでであって、円盤の端に向かっている物体には、無視できるほど小さい空気の抵抗力以外には実際の力が働いていません。他方、回転する盤上に転がり出る球に加わる実際の力は回転する盤の端に固定された斜面を球が離れるところまでで、盤上をころがっている球には盤と球との間の転がり摩擦力と空気の抵抗力以外の力は働いていません。転がり摩擦力のため、球はころがりながら徐々に遅くなりますが、このことを無視すると、実際の力が働いていないと近似できます。すなわち、運動中の物体にも、ころがっている球にも実際の力は働いていないと見なせます。
<回転盤の中心から赤道に向かう物体に働く力>
反時計回りに回転する円盤の中心である北極から赤道へ向けて南または北向きに進む物体に働く見かけ力(コリオリ力)が進行方向に向かって右直角方向であることは以下のように説明できます。
自転(角速度Ω=2π/24時間)している地上の緯度Φの地点で移動速度の東向き成分がu、北向き成分がv、鉛直上向きにwである物体に働くコリオリ力について考えます。
北極(Φ=90度)から時刻t=0に水平速度Vで南向きに投げられた(t=0でu=0、v=-V、w=0)物体の、ある時刻Tにおける物体の北極から距離LはL=-VT(マイナスは南への移動であることを示す)です。反時計回りの回転によって半径がLの円周上を24時間の間に1周する距離は2πLですから、時間Tの後に移動した点からt=0の時の点までの距離DはD=-2πL・(T/24時間)=-L・T・Ω(マイナスは西側であることを示す)となります。時間Tの間に一定なコリオリ力(-C、マイナスは西向きを示す)によって起こされるズレRは、t=0からTまでの時間についてのコリオリ力の積分を2回繰り返すことによりR=-C・T・T/2で表されます。DとRが等しいことから、Cは、
C=-R/(T・T/2)
=-D/(T・T/2)
=(L・T・Ω)/(T・T/2)
=[(-V・T)・T・Ω]/(T・T/2)
=-2・Ω・V、(マイナスは西向きであることを示す)
となります。
ここまでは、移動速度の北向き成分vをv=-Vとしていましたから、vを用いると、一般的には、コリオリ力Cの東向き成分Cxは
Cx=2・Ω・v
と表されます。すなわち、コリオリ力の東向き成分は物体の速度の北向き成分vに比例(比例係数は2Ω)し、vが正(北向き)のときには正(東向き)、vが負(南向き)のときには負(西向き)になります。
<地上の任意の場所でのコリオリ力>
以上の説明は、コリオリ力の「大きさは移動速度に比例し、北半球では、物体の運動する方向に向かって直角右手側(南半球では直角左手側)の向きに働く」という一般的性質の中で、北極から投げられた物体に限定してものです。
実は、回転する円盤の中心から投げられた物体の運動を使ったコリオリ力の説明では、北(南)半球で等緯度線に沿って移動する物体にも、その進行方向に向かって右(左)直角方向にコリオリ力が働くことを直感的に説明することは容易ではありません。また、北半球と南半球で向きが逆であることは容易に推定できますから、その境界である赤道でゼロと推定するのは簡単でしょうが、極と赤道の間でコリオリ係数がどのように変化するのかを説明することはできません。
天下り的に言うと、回転の影響は、回転軸ベクトル(軸の向きは右ねじが進む方向、大きさはΩ)の鉛直上向き成分のみに働きます。
一般に、北極の緯度を90度、南極の緯度をー90度として種々の問題を取り扱います。このとき、地球自転の回転軸と鉛直上向きの軸との間の角度は(90度-Φ)で表され、回転軸ベクトルの鉛直上向き成分はΩcos(90度-Φ)=Ωsin(Φ)で表されます。また、北半球では東向きに移動する物体には南向きにコリオリ力が働きます。したがって、地球上の任意の緯度のコリオリ力の東向き成分Cxと北向き成分Cyは、各々
Cx= 2・Ω・sin(Φ)・v
Cy=-2・Ω・sin(Φ)・u
で表されます。ビデオは、この一般的な場合に対応しています。回転台とともに回転するカメラからの映像では、斜面から転がり出た球が右にまがっていきますが、回転台から離れて設置されているカメラからの映像では、斜面から転がり出た球は直進しています。
なお、このようにコリオリ係数が緯度の関数であることが、海洋大循環で大きな意味を持っています。このことについては、別の記事でお話しします。
付記:
このビデオは海洋学会教育問題研究部会が監修した「海の教室(Web教材)」の一部でした。管理人もその制作の一部に関わっていたにもかかわらず、お知らせが遅くなりましたことをお詫びします。
本ブログ関連記事:
2007年03月05日 分かりやすさ
2009年6月8日02時15分 一部修正
ラベル:地学教育
コメントをありがとうございました。
ご返事が遅くなってしまいましたことをお詫び申し上げます。
ご自分の持っている知識から物事の仕組みを何とか理解しようとするcatbirdさんの態度は素晴らしいとは思います。しかし、コリオリ力は日常生活に基づく直感では理解するのが難しい概念です。コメントでお示しいただいた地球上の運動についてのコリオリ力の概念を用いない独自のお考えは私には受け入れかねます。
>地上の気体や液体も自転と共に回転しており、コリオリ力なるものは働きません。
この文は回転する地球の外における慣性座標系での見方としては正しいのですが、地球とともに回転している回転座標系での見方としては全くの誤りです。その後に続く展開では、慣性座標系での見方と回転座標系での見方が混在しているように思います。
日常生活の範囲では慣性系で物体に働く力には、圧力傾度力、遠心力、摩擦力があります(catbirdさんのご説明では、これらの力についての考慮が不十分のように見えます)。ご説明のご再考をお願いします。
熱心に自説をお話しされていますが、私には理解しかねる部分が多く、どこをどのようにお話ししたら良いのか途方に暮れていますが、一つだけ指摘させていただきます。
>渦とは、気体や液体が中心に流れ込む際、真直ぐに流れ込まずに、左回りか右回りに回転しながら、中心に流れ込むことを言います。
この渦の定義は誤りです。渦の運動を考える場合には必ずしも、気体や液体が中心に流れ込むことを考える必要はありません(粘性を考えるときには、渦の半径方向の運動も考える必要はありますが)。
時間変化がなく、粘性が無視できて、遠心力が無視できるほど速度が小さいと近似した大気の高気圧の周りの運動は、北半球では時計回りの渦となり、低気圧の周りでは、北半球では反時計回りの渦となります。
高気圧の場合、中心が周囲より高圧ですから、圧力傾度力は中心から周辺に向かっています。大気の運動に時間変化がないためには、この圧力傾度力と向きが逆で大きさが同じコリオリ力が働く必要があります。コリオリ力は北半球では運動の向き(風下)に向かって右直角方向に働きます。このため、北半球の高気圧の周辺では、風下に向かって右手側が高気圧の中心となるように、渦は時計回りになります。