2009年06月08日

コリオリ力を説明するビデオ

2010年3月19日01時20分 ビデオのリンク先を更新

2010年3月19日02時05分 関連記事(カガクのじかん)の紹介を追加



コリオリ力(転向力)とは、地球自転の効果のために、地上で運動している物体に働いている「みかけの力」であり、大気や海水の運動のように流速の鉛直成分が水平成分に比べて十分に小さい時には、コリオリ力の大きさは、移動速度に比例し(比例係数をコリオリ係数と呼びます)、北半球では、物体の運動する方向に向かって直角右手側(南半球では直角左手側)の向きに働きます。このコリオリ力について、「回転する盤上をころがる球の「盤とともに回転している人から見た見かけの運動」と「回転する円盤の外から見た実際の運動」の違いを示す以下のビデオがありましたので、お知らせします。





以下はその補足


本ブログ関連記事:



関連記事:


ちょっと厳密性に欠けてはいますが、一読されることをお勧めします。





記事「「コリオリ力」は「現実の力」ではないのか?」では、

回転する円盤の中心(北極)から(赤道に向けて)投げた物体の「円盤とともに回転している人から見た見かけの運動」と「回転する円盤の外から見た実際の運動」の違い

を例にしてコリオリ力の説明をしています。他方、ビデオでは

回転する盤の中心ではなくて端から盤上をころがる球の「盤とともに回転している人から見た見かけの運動」と「回転する盤から離れて、上から見た実際の運動」の違い

を示しています。これらの実験状況は微妙に違います。この違いについて以下に説明します。


<運動中の物体に働く力>

回転する円盤の中心から投げられた物体に実際に力が加わるのは、手から離れるまでであって、円盤の端に向かっている物体には、無視できるほど小さい空気の抵抗力以外には実際の力が働いていません。他方、回転する盤上に転がり出る球に加わる実際の力は回転する盤の端に固定された斜面を球が離れるところまでで、盤上をころがっている球には盤と球との間の転がり摩擦力と空気の抵抗力以外の力は働いていません。転がり摩擦力のため、球はころがりながら徐々に遅くなりますが、このことを無視すると、実際の力が働いていないと近似できます。すなわち、運動中の物体にも、ころがっている球にも実際の力は働いていないと見なせます。



<回転盤の中心から赤道に向かう物体に働く力>

反時計回りに回転する円盤の中心である北極から赤道へ向けて南または北向きに進む物体に働く見かけ力(コリオリ力)が進行方向に向かって右直角方向であることは以下のように説明できます。


自転(角速度Ω=2π/24時間)している地上の緯度Φの地点で移動速度の東向き成分がu、北向き成分がv、鉛直上向きにwである物体に働くコリオリ力について考えます。


北極(Φ=90度)から時刻t=0に水平速度Vで南向きに投げられた(t=0でu=0、v=-V、w=0)物体の、ある時刻Tにおける物体の北極から距離LはL=-VT(マイナスは南への移動であることを示す)です。時計回りの回転によって半径がLの円周上を24時間の間に1周する距離は2πLですから、時間Tの後に移動した点からt=0の時の点までの距離DはD=-2πL・(T/24時間)=-L・T・Ω(マイナスは西側であることを示す)となります。時間Tの間に一定なコリオリ力(-C、マイナスは西向きを示す)によって起こされるズレRは、t=0からTまでの時間についてのコリオリ力の積分を2回繰り返すことによりR=-C・T・T/2で表されます。DとRが等しいことから、Cは、

C=-R/(T・T/2)

 =-D/(T・T/2)

 =(L・T・Ω)/(T・T/2)

 =[(-V・T)・T・Ω]/(T・T/2)

 =-2・Ω・V、(マイナスは西向きであることを示す)

となります。


ここまでは、移動速度の北向き成分vをv=-Vとしていましたから、vを用いると、一般的には、コリオリ力Cの東向き成分Cxは

Cx=2・Ω・v

と表されます。すなわち、コリオリ力の東向き成分は物体の速度の北向き成分vに比例(比例係数は2Ω)し、vが正(北向き)のときには正(東向き)、vが負(南向き)のときには負(西向き)になります。


<地上の任意の場所でのコリオリ力>

以上の説明は、コリオリ力の「大きさは移動速度に比例し、北半球では、物体の運動する方向に向かって直角右手側(南半球では直角左手側)の向きに働く」という一般的性質の中で、北極から投げられた物体に限定してものです。


実は、回転する円盤の中心から投げられた物体の運動を使ったコリオリ力の説明では、北(南)半球で等緯度線に沿って移動する物体にも、その進行方向に向かって右(左)直角方向にコリオリ力が働くことを直感的に説明することは容易ではありません。また、北半球と南半球で向きが逆であることは容易に推定できますから、その境界である赤道でゼロと推定するのは簡単でしょうが、極と赤道の間でコリオリ係数がどのように変化するのかを説明することはできません。


天下り的に言うと、回転の影響は、回転軸ベクトル(軸の向きは右ねじが進む方向、大きさはΩ)の鉛直上向き成分のみに働きます。


一般に、北極の緯度を90度、南極の緯度をー90度として種々の問題を取り扱います。このとき、地球自転の回転軸と鉛直上向きの軸との間の角度は(90度-Φ)で表され、回転軸ベクトルの鉛直上向き成分はΩcos(90度-Φ)=Ωsin(Φ)で表されます。また、北半球では東向きに移動する物体には南向きにコリオリ力が働きます。したがって、地球上の任意の緯度のコリオリ力の東向き成分Cxと北向き成分Cyは、各々

Cx= 2・Ω・sin(Φ)・v

Cy=-2・Ω・sin(Φ)・u

で表されます。ビデオは、この一般的な場合に対応しています。回転台とともに回転するカメラからの映像では、斜面から転がり出た球が右にまがっていきますが、回転台から離れて設置されているカメラからの映像では、斜面から転がり出た球は直進しています。


なお、このようにコリオリ係数が緯度の関数であることが、海洋大循環で大きな意味を持っています。このことについては、別の記事でお話しします。


付記:

このビデオは海洋学会教育問題研究部会が監修した「海の教室(Web教材)」の一部でした。管理人もその制作の一部に関わっていたにもかかわらず、お知らせが遅くなりましたことをお詫びします。


本ブログ関連記事:

2007年03月05日 分かりやすさ


2009年6月8日02時15分 一部修正
ラベル:地学教育
posted by hiroichi at 01:41| Comment(4) | TrackBack(3) | 海のこと | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
地上の気体や液体も自転と共に回転しており、コリオリ力なるものは働きません。北半球の渦が左巻きなのは以下の理由からです。流体が中心に向かって流れ込んだ場合、真直ぐ中心に向かうか、左に(時計と逆回り)又は右に回って中心に向かうかの3種類があります。北半球では、左回りに中心に流れ込むことを説明します。北緯45度の位置に、半径1,000mの流体を置きます。中心に穴が開いており、流体は中心に向かって流れ込んでいます。この場合物質D(中心より最も赤道よりの円周上の位置)は、地球の地軸を中心とする円周上を、250m/秒の速度で左回り(地図では右方向に)に移動しています。半径1,000mから500mの位置にDが移動すると、半径が354m縮んだ円周上を回ることになります。速度は慣性により変わらないので、Dは右に動いていると観測されます。逆にEが中心より最も北極点よりの円周上であった場合は、500mの位置に来た時、元回っていた円より半径354m大きい円周上を回ることとなり、Eは左に動いていると観測されます。従って全体として左回りになります。またEは、中心に近づき大きい円周上を回りだすと、周囲の物に押されて加速して行きます。自転の力で、直接加速するのではありません。北緯45度に巨大な穴の開いた茶碗を想定します。この茶碗は地軸を中心とし自転と共に2万㎞の円周上を左回りに回っています。茶碗に水を入れて左回りに大きな円を描いて回して見てください。中の水も左回りに回ります。最初のわずかな左回りの動きが、どんどん加速して行きます。なぜなら、渦を巻いて中心に流れ込んだ方が速く流れ込むからです。南半球では逆の事が言え、右回りとなります。特に、コリオリ力を持ち出さなくても良いのです。
Posted by catbird at 2010年02月02日 22:43
catbird 様

コメントをありがとうございました。
ご返事が遅くなってしまいましたことをお詫び申し上げます。

ご自分の持っている知識から物事の仕組みを何とか理解しようとするcatbirdさんの態度は素晴らしいとは思います。しかし、コリオリ力は日常生活に基づく直感では理解するのが難しい概念です。コメントでお示しいただいた地球上の運動についてのコリオリ力の概念を用いない独自のお考えは私には受け入れかねます。

>地上の気体や液体も自転と共に回転しており、コリオリ力なるものは働きません。

この文は回転する地球の外における慣性座標系での見方としては正しいのですが、地球とともに回転している回転座標系での見方としては全くの誤りです。その後に続く展開では、慣性座標系での見方と回転座標系での見方が混在しているように思います。

日常生活の範囲では慣性系で物体に働く力には、圧力傾度力、遠心力、摩擦力があります(catbirdさんのご説明では、これらの力についての考慮が不十分のように見えます)。ご説明のご再考をお願いします。
Posted by hiroichi at 2010年02月12日 02:02
ご返事を下さりありがとうございます。ご感想を読ませていただくのが何よりの楽しみです。さて、確かに地球上に居て物を観測する際には、コリオリ力を考慮しなければなりません。しかし、具体的な力ではないので、観測上考慮するだけで良いのです。物が動く仕組みを考える際には、考慮してはなりません。コリオリ力とは例えば左回転(時計とは逆周り)している円盤上をビー球を転がした場合を想定しています。その時、円盤の中心から外に向かってビー球こ転がした時、円盤を上から見ている人には、ビー球は真直ぐに進んでいると見えます。しかし、円盤の円周上に居て円盤と共に左回転している人には、ビー球は左にそれていくと見えます。しかし、今度はビー球を円盤の円周上から中心に向かって転がして見てください。今度も円盤を上から見ている人にとっては、ビー球は真直ぐに進んでいると見えますが、円盤の円周上に立っている人にはやはり左にそれて行くと見えます。両方が左にそれたのでは、全く渦にならないのです。北極=円盤の中心から転がした場合左にそれて、赤道=円盤の円周上から転がした場合は、逆に右にそれないと、左回りの渦にはなりません。コリオリ力を説明する際、ビー球は静止している状態から転がしています。円盤と共に回転している人が、ビー球を転がすと、円盤と共に回転している人にとっては、真直ぐに転がると見えます。コリオリ力は全く働きません。実際に地球上の液体や気体は地球と共に回転しています。渦とは、気体や液体が中心に流れ込む際、真直ぐに流れ込まずに、左回りか右回りに回転しながら、中心に流れ込むことを言います。巨大な円盤想像して見てください。左回りに回転する巨大な円盤上を、静止した状態で円形に並んだ多数のビー球を、中心に向かって転がして見てください。円盤の上から見る人にとって、円形に並んだビー球は、真直ぐ中心に向かって転がると観測されます。渦にはならないでしょう。円盤上の人にとっても、全てのビー球は、同じ速度で左にそれながら中心に向かうと見えます。やはり渦にはならないでしょう。そもそも、円形に並んだビー球は静止した状態を想定しており、幾ら回転する円盤上を転がしても、その回転の影響は全く受けないので、渦になりようがありません。赤道側から中心に向かうビー球は右にそれ、北極側から中心に向かうビー球は左にそれなければならないのです(左右とは地図を見た時の表現です)。何故そうかるか。それば、ビー球が球体上にあり、球体と共に回転しているからです。球体上にビー球を円形に並べて見ましょう。赤道側のビー球の方が、大きな円周上を回っており、即ち速いスピードで回転しています。北極側のビー球は小さな円周上を回っており、遅いスピードで回転しています。この円形に並んだビー球を中心に向かって、転がして見ましょう。赤道側のビー球は中心に向かうにつれ、より小さな円周上を回転するようになります。慣性の法則により、ビー球はそのままの速いスピードで回転します。北極側のビー球は中心に向かうにつれ、より大きな円周上を回転するようになります。同じく慣性の法則により、ビー球はそのまま遅いスピードで回転します。赤道側のビー球と北極側のビー球が中心に来た時を想像してみてください。赤道側のビー球のスピードは速いので右により、北極側のビー球のスピードは遅いので左によります。これで左回転の渦が出来るのです。単なる慣性の力により北半球では左回転の渦が生じ、南半球では右回転の渦が生じるのです。その小さな左回転の力が、次第に大きな回転になるのです。何故なら、回転しながら中心に流れ込んだ方が、真直ぐに流れ込むより速く流れ込むことが出来るからです。ただし、台風等巨大な渦に限ります。洗面所の小さな渦などは、慣性の力よりも偶然に掛かる力の方が遥かに大きくどちら回りの渦になるかは、偶然によります。コリオリ力とは単に左にそれて見えると言うだけのことで、具体的になんらかの力がビー球に掛かっているのではないのです。コリオリ力は地球上でものを観測する場合に考慮しておかなければならないと言うだけのことで、コリオリ力で物が動く訳ではないのです。コリオリ力と慣性の力とは全く別ものです。ご指摘の圧力傾度力、遠心力、摩擦力によって、どの様にして左回りの渦が出来るのか私には理解出来ません。是非ご説明下さい。
Posted by catbird at 2010年02月12日 04:45
catbird 様

熱心に自説をお話しされていますが、私には理解しかねる部分が多く、どこをどのようにお話ししたら良いのか途方に暮れていますが、一つだけ指摘させていただきます。

>渦とは、気体や液体が中心に流れ込む際、真直ぐに流れ込まずに、左回りか右回りに回転しながら、中心に流れ込むことを言います。

この渦の定義は誤りです。渦の運動を考える場合には必ずしも、気体や液体が中心に流れ込むことを考える必要はありません(粘性を考えるときには、渦の半径方向の運動も考える必要はありますが)。

時間変化がなく、粘性が無視できて、遠心力が無視できるほど速度が小さいと近似した大気の高気圧の周りの運動は、北半球では時計回りの渦となり、低気圧の周りでは、北半球では反時計回りの渦となります。

高気圧の場合、中心が周囲より高圧ですから、圧力傾度力は中心から周辺に向かっています。大気の運動に時間変化がないためには、この圧力傾度力と向きが逆で大きさが同じコリオリ力が働く必要があります。コリオリ力は北半球では運動の向き(風下)に向かって右直角方向に働きます。このため、北半球の高気圧の周辺では、風下に向かって右手側が高気圧の中心となるように、渦は時計回りになります。
Posted by hiroichi at 2010年02月16日 01:49
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック

各大洋の西端に強い海流が流れる仕組み
Excerpt: 各大洋の亜熱帯循環の西側には西岸境界流と呼ばれる強い海流が流れています。例えば、北大西洋の西側には湾流、北太平洋の西側には黒潮、という強い北向きの海流が流れています。また、南大西洋の西側にはブラジル海..
Weblog: 海洋学研究者の日常
Tracked: 2009-08-02 23:07

NEWTON SPECIAL「よくわかる海と気象」
Excerpt: 管理人は、ここ5年ほど、主として黒潮続流域での海面係留ブイを用いた海面熱交換量の現場観測や黒潮が大気循環に及ぼす研究を通して、大気海洋相互作用についての研究を進めている。この研究分野と関連した記事が、..
Weblog: 海洋学研究者の日常
Tracked: 2010-07-13 01:57

コリオリ力を説明するビデオ(2)
Excerpt: 仕方がない状況ではあるが、4月に本ブログを移設してから、過去記事へのアクセスが非常に少なくなっている。その中で、最近、2009年06月08日付け記事「コリオリ力を説明するビデオ」へのアクセスがいくつか..
Weblog: 海洋学研究者の日常
Tracked: 2014-07-21 12:27