市民を対象とした瀬戸内海大型水理模型の一般公開があります。潮の満ち引きを再現しますので、是非ご覧になって下さい。。こちらの方は、「事前申し込み」の必要はありません。詳細は、以下のpdfを参照してください。
瀬戸内海水理模型記念シンポジウム-瀬戸内海を見据えて35 年、水理模型の今を考える-
以下は、その補足
1.エスチャリー
上に示したシンポジウムの開催案内は、
◎シンポジウムの開催に当たってという文章で始まっている。「エスチュアリー」という言葉は研究者にとってはなじみのある用語であるが、専門外の人には何のことか分からないと思う。どうも、このシンポジウムは一般向けではなさそうである。開催日も金曜日だし・・・とはいえ、エスチャリーは海洋学の中でも重要な研究対象である。
(独法)産業技術総合研究所中国センターが広島県呉市に所有する瀬戸内海水理模型は2009 年、建設後35 年を迎えました。当研究センターの東広島市(2010 年4 月サイエンスパーク内)移転に伴い、この巨大な模型が研究道具としての役割に一つの区切りをつけることになりました。
この35 年間、エスチュアリーモデリングの技術は大きく発展し、変貌を遂げています。35 年前、潮汐水理模型はエスチュアリーモデリングの主たる研究ツールの一つでありました。そして、数値模型はまだゆりかごから這い出した状況であり、エスチュアリーの現地資料も得られていたのは乏しいものでした。
エスチャリーについて述べた以下の資料をネット検索で見つけた。
汽水域の河川環境の捉え方に関する手引き書の第1章本手引書の目的と対象範囲 の1-3ページのコラム欄。そこでは、
陸水と海水が共存する水域で、何らかの閉鎖性を伴うもの。河口、湾等の形態をとるものが多いが、必ずしも同義語というわけではない。エスチャリーと汽水域はほぼ同義語と考えてよいが、汽水の塩分濃度は海水のそれより低いと定義されているため、この点でエスチャリーとは必ずしも一致しない。例えば、テキサス、南カリフォルニア、オーストラリア等の砂漠性気候が卓越している地域では、エスチャリー内の塩分濃度が外洋水のそれを上回ることは珍しくない。ただし、日本の場合にはこのようなケースはまずないので、エスチャリーと汽水域はほぼ同義と考えてよい。多くの河口域も、わが国の場合は、エスチャリーそのもの、またはエスチャリーの重要な一部を構成しているのが普通である。と述べられている。
エスチャリーとフィヨルド、ラグーン、リアス、海岸平野等の地形的特徴に基づいて分類する試みもあるが、わが国に多い河口-湾型のエスチャリーの場合、エスチャリー内の汽水構造に基礎をおく水文学的分類が有用である。これは淡水(一般には河川水)または淡水に近い陸水と海水とがどのように接し、どのように層化共存しているかをもとにした分類で、弱混合型、緩混合型、強混合型等3~4 種に分類される。(以下略) ―(土木用語大辞典)―
閉鎖的な瀬戸内海には種々の河川から河川水が流入しており、この意味でエスチャリーの一種である。東中国海をエスチャリーと捉える見方もある。
上の解説に付け加えるとすると、弱混合型、緩混合型、強混合型の説明であろう。これらは、河川水と海水との鉛直混合の強さの度合で、河口域を分類したもので、
1)弱混合型とは、急深になっている河口域に海水より軽い河川水が流入し、河川水および海水と河川水の今後雨水がごく表層のみを占め、河川域の底層の全域が海水で占められている、河川域全体が強く成層している状況、
2)緩混合型は全域で下層の塩分が上層の塩分より高く、また河口域の海側の塩分が河川水流入域より高い状況、
3)強混合型は全域で下層と上層の塩分が等しく、また河口域の海側の塩分が河川水流入域より高い状況
である。
第4の型としては「塩水クサビ」がある。これは、河川水の流入域では全層を河川水が占めているのに対し、海側では表層のみが河川水で占められていて、底層を海水が占めている状況である。つまり、河口近くでは水面下のほとんどが海水で占められてるのに対し、中流域では河の下層のみを海水が占め、上流では全層で河川水が占めている状況である。渇水時期には、塩水クサビは河の上流にまで達する。
これらの型は河川水の流入量、海水と河川水の密度差、潮汐流の強さ、などによって決まる。エスチャリーの物理を理解することは温排水や生活・産業排水の広がり方を推定する際やエスチャリーにおける生物の生理生態を理解する上で不可欠である。
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なお、九州大学 大学院工学府 海洋システム工学専攻矢野真一郎準教授による第43回水工学に関する夏期研修会(九州大学筑紫キャンパス、平成19年8月29日)での講義資料「エスチャリーの流れのモデリング」(pdf)でエスチャリーの定義の詳しい説明が述べられているので参照されたい。
2.瀬戸内海水理模型の行く末
シンポジウムの案内では、産業技術総合研究所中国センターの東広島市への移転後に瀬戸内海水理模型がどうなるのかについては何も触れていない。ネットで検索しても新聞報道などに何も記載されていないところを見ると、廃棄されてしまうのだろう?市民への公開の告知さえも、シンポジウムの開催案内の最後に簡単に触れているのみで、大規模には告知していない。
瀬戸内海水理模型はその学問的使命を終えたとはいえ、またその維持経費が高額になるとはいえ、市民と海とのかかわりを身近なものにする道具としては得難いものである。おそらく、6月27日が最後の姿になるのだろう。一人でも多くの人にその姿を見ていただき、記憶にとどめて頂きたいと思う。
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