5日10時30分から12時頃まで品川で第3回「海のサイエンスカフェ」で開催した後、本郷に移動し、東京大学理学部1号館でシンポジウムに参加して話題提供を行い、さらに17時半から今年度の大気海洋相互作用観測航海の打ち合わせを行った。5日から8日までは、関連する研究発表を聴いた他、6日昼休みには昼食を摂りながら教育問題研究部会、夜は評議員会に出席。7日午後は総会と岡田賞・学会賞の受賞記念講演、夜は懇親会に参加した。以下は、それらの詳細。
1.海のサイエンスカフェ
10時過ぎに会場に着き、入口に案内ビラを張ったり、部会員へのメモ用紙配布や参加者への資料配布を行った後、菊池さんの進行でサイエンスカフェを10時30分に開始した。参加者は主催者側9名を含めて21名と昨年の27名に比べて6名減であった。事前の打ち合わせに従って、初めに菊池さんが参加者に「海のコンベアベルト」という言葉を聞いたことがあるのかを確認したところ、多くの人が聞いたことがないとの答えがあり、簡単な説明があった。引き続いて、中野さんが5枚の配布資料を用いながら約30分関、深層循環像と「海のコンベアベルト」の模式図の提案に至る観測結果、深層循環の成因・駆動力、気候変動との関係、について説明した。その後、12時まで約50分間、5つのテーブルで個別に質疑・解説・意見交換を行った。部会員の多くと参加した高校生が13時30分から本郷の東京大学理学部1号館で始まるシンポジウム「研究船で海を学ぼう―3年間の取り組みの成果と将来の可能性―」に参加するため、また参加者に発言・感想を強制するのを避けるため、全体での話し合いをせずに、12時過ぎにサイエンスカフェを終了した。
中野さんが映画「Day after tommorow」について観た経験の有無を確認した際に、多くの参加者が観たことがないとの答えであった。このことと、参加者の多くが「海のコンベアベルト」について聞いたことがなかったことを合わせて考えると、話題が「海のコンベアベルト」であれば、参加者が殺到するのではないかとの予想が大きく外れた原因が分かったように思った。よく考えれば、今まで、専門外の人に「海のコンベアベルト」の話をすると、強い関心を示した経験は、それだけ「海のコンベアベルト」の概念が知られていないことを示していることに気づくべきであった。
私は一つのテーブルで3名の一般参加者との質疑応答を担当した。主として2人からの深層循環の成因・駆動力について質問とその説明で予定時間が終了してしまった。「海のコンベアベルト」のことをほとんど知らない参加者にとって、今回の話題は、疑問点だらけだったのだろう。次の予定を控えていたため、各テーブルでの質疑応答の時間を、昨年の1時間20分に比べて短時間しか確保できなかったとはいえ、他の話題に触れることができなかったのが心残りであった。
第1回「海のサイエンスカフェ」の開催報告は、開催から1年以上経過してしまったが近日中に「海のサイエンスカフェ」のHPに掲載する予定である。今回の「海のサイエンスカフェ」の開催報告については、5月中を目途に掲載したいと考えている。
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2.シンポジウム・観測航海打ち合わせ
「海のサイエンスカフェ」を終え、話題提供者の中野さん、進行担当の菊池さん、HP担当の藤井さんとアンケート取りまとめや開催報告について今後の作業の進め方を相談した後、一緒にシンポジウム会場へ向かう。途中で昼食を摂り、14時過ぎに東京大学理学部1号館に到着。私が直接関係している(話題提供者となっている)シンポジウムは
シンポジウムC
「「みらい」による生態系と物質循環変動研究のための時系列定点観測」
である。「里海」や教育問題研究部会に関係する以下の3つのシンポジウムにも参加したかったが、時間的に無理であり、参加を断念した。
シンポジウムA
水産海洋シンポジウム「生態系アプローチと水産資源の持続的利用を考える」
シンポジウムB
「研究船で海を学ぼう―3年間の取り組みの成果と将来の可能性―」
シンポジウムF
「海洋環境問題における研究者の役割」
シンポジウムCの会場は、2010年冬に実施される「みらい」航海参加者の他に多くの人が参加して満席であった。今後5年間行われる「西部北太平洋における気候変動に対する生態系変動を介した物質循環の変動とフィードバックの研究のための時系列定点観測」への関心の高さが示されていた。私は、黒潮続流域における大気海洋相互作用の観測研究の必要性を、生態系の季節変動の重要な要因である海況の季節変動の年ごとの変化に関わる最新の資料解析結果を交えて紹介した。
隣のシンポジウムB会場も満席で、会場入口に置いた、私も共同研究者の1人として寄稿している「我が国における海洋リテラシーの普及を図るための調査研究」研究報告書も60冊以上が引き取られたとのことである。
シンポジウムFへの参加者に様子を聞いたところでは、参加者が多く、若手研究者のアウトリーチ活動参加についての障害などが話題になっていたとのことである。今学会中にも、何人かの会員からサイエンスカフェの様子を尋ねられ、会員がサイエンスカフェを含むアウトリーチ活動に対し高い関心を持っていることを感じた。出席できなかったのが実に残念であった。
シンポジウムCを17時に終えた後、17時30分より別室で、東海大学のKMさん他8名の大気海洋相互作用研究会のメンバーと、2009年度に予定されている黒潮続流域における観測航海における大気海洋相互作用観測に関わる方々と各観測航海の実施内容と準備状況についての打ち合わせを行った。グループとしては10月15日から26日に予定している「淡青丸」航海で総力を挙げて取り組むこととし、8月24日から9月11日の「かいよう」航海はJAMSTECグループのみで実施、11月4日から12月12日の「みらい」MR09-04航海および1月20日から2月24日の「みらい」MR10-01航海では科研費不採択により経費確保が困難になった場合にはラジオゾンデ観測を断念することとなった。
夜は、今回は欠席することになったAGU広報委員会(ワシントンDCで6日朝から開催)に提出するレポート(我が国における関連学会のアウトリーチ活動状況)、各予定議題へのコメントを作成した。配布されたアジェンダ(資料を含め31ページ)にfacebookでのAGU活動が紹介されており、PICメンバーも登録していたため、facebookに登録した。仕組みをまだ良く理解していないが、これから活用していきたいと思っている。
関連記事:
拙ブログ ワシントンDC(2008年11月)
facebookのAGU関連ページ
3.評議員会・総会・懇親会
6日の昼食時に開催された教育問題研究部会で、3日に私から事務局に提出した資料を基に2008年度活動と2009年度活動予定について議論した。今年度の主な部会活動を2011年3月までに大学1年生向けの教科書を刊行するための具体的な作業、海洋学会と社会(講演依頼、マスコミ取材)の接点として機能の充実(HP整備)、地学オリンピック国内実行委員会への対応、学会長宛の公式依頼書を受けた後の日本船舶海洋工学会海洋教育推進委員会への対応などとして、その主担当者を決めた。その概要を、6日夜に開催された評議会で報告した。
評議会では、環境科学賞の新設および関連規則の改訂が審議された。原案で用いられた「啓蒙」という用語は不適切であるとの意見がYTさんからあり、「啓発」に変更された。啓蒙という「上から目線」の用語の使用に敏感である状況になったことを喜ばしく感じた。今期の評議員選挙結果が報告されたが、世代交代が進み、これまで長年選出され続けていたWさん、Tさん、Sさん他が選出されなかったのには、感慨深いものがある。来年春の大会は3月26日(金)から30日(火)に東京海洋大学品川キャンパスで開催されることが報告された。サイエンスカフェを従来と同じく品川駅前の喫茶店でく土曜日または日曜日に開催とすると、学会の研究発表の初日または2日目にぶつかることになるが、大会会場に近いため、何とか土曜日または日曜日に参加者・日程を調整して開催したいと思っている。20時に評議員会が終了した後には、MTさんと上野公園で夜桜見物をした。
7日には、安田講堂で総会が開かれ、教育問題研究部会の会務報告を行った。その後、学会賞などの授与が行われた。今年度の受賞者の中で、植松さん(学会賞)、小橋さん(岡田賞)、今脇さん(宇田賞)、津田さん(日高論文賞)の4名の方が親しく研究や航海をご一緒した方であった。受賞記念講演の後の懇親会については、海洋学会の懇親会は昔から食欲旺盛な参加者が多く、料理が完全になくなる例が多かっただけに、最後まで料理が残っていたのが印象に残った。
4.研究発表
今学会の第1会場(安田講堂)と第2会場(小柴ホール)ではスクリーンが大きく、非常に見やすい環境であった。6日午前は第1会場、午後の前半は第2会場、後半は第1会場、7日午前は第2会場、8日午前は第2会場、午後の前半は第2会場、後半は第3会場と第1会場で口頭発表を聞いた。発表された研究成果では、現場観測データの解析結果が比較的少なく、数値モデル(再解析)データや既存のデータセットの解析結果が以前にも増して多いように感じた。また、データ解析結果の報告の中では緻密性に欠けるものが多いように感じた。大学教員・研究者の多くが研究以外に忙殺されていること、あるいは修士課程(博士課程前期)学生の教育が就職活動の前倒しで破壊されているのが大きな原因のように思える。
5.おわりに
今年は久々にフルで学会に参加することができた。7日にはMAさんと4年振りにお会いし、昼食を共にした。8日には古い友人の一人であるYHさんとお会いし、潮汐残差流の話を確認し、昼食を共にした。また、TKさんやTAさん、BNさんとも久し振りでお会いすることができた。このように多くの友人・知人と親しく近況を報告し合えたり、大会事務局のご尽力で従来になく多くの企業が参加した機器展示を通して最新の観測機材の情報を得ることができるのも学会参加の楽しみの一つである。とはいえ、お会いできなかった先輩、先生方の数も増えてしまった。これも時の流れなのだろう。
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拙ブログ 遠浅の砂浜海岸へ向かう恒常的な流れはあるのか?の追記
今回は、海洋学会の大会の様子を紹介した。多くの人は学会といえば、医学関連や産業に直結した豪華な学会を想像されるかもしれない。海洋学会のような比較的地味な学会の様子やそこでの学会員の振る舞いの一例を知って頂ければ幸いである。
コメントをありがとうございました。
ご返事が遅くなってしまいました。
>コンベアベルトの話題があまり盛り上がらなかったようで、
サイエンスカフェ参加者の間では、盛り上がっていたのですが、何も知らない人を引き付けるまでには至らなかったということです。皆が興味を持っているのだろうという思い込みから宣伝が不足していたと反省しています。