2009年03月01日

副振動は環境破壊とは関係ない

3月1日15時 新聞記事にウェブ魚拓をリンク。一部記述の追加、修正。
3月8日02時 一部修正


港や湾内などで海面の高さ(潮位)が急激に変化する現象「副振動」が、24日夜から25日にかけて九州沿岸や奄美大島で観測された(朝日新聞ウェブ魚拓)。26日も副振動が観測され、長崎海洋気象台は、27日も発生する恐れがあるとして、注意を呼びかけた(読売新聞ウェブ魚拓)。28日11時には注意報は解除されたが、発生は28日も続いた。

26日の報道ステーションでは、旧知のHTさんがインタビューを受けて、「副振動現象の原因が十分に解明されていない」という正確に説明をされていた。HTさんの説明の後に示された副振動の発生を説明する模式図(アニメ?)は、専門家の端くれである管理人が見ても理解不能であった(多分、アニメ制作者はHTさんの説明を十分に理解あるいは確認できなかったのだろう)。このことが理由なのか、あるいは原因不明という説明に不気味さを感じたのか、古舘メインキャスターは、「これも環境破壊のせいでしょうか」というコメントで締めくくった。これを聞いて、思わず「そうではない」と叫んでしまった。気になって、ネットで世間の対応を調べた。


1.インターネット界での反応
今回の災害を機に、ネットの世界でも「副振動」に注目する人が増えたことが、Yahoo!検索ランキング(2009年2月26日の急上昇ワードランキング)の第7位に「副振動」がランクインしていることからもうかがわれる。 また、weblio辞書の「辞書のアクセスランキング」では28日午後には第2位になっていた。何か分からないことに出会うと、とりあえずネットで検索するという行動がネット社会で大きく広がっていることは、好ましいことと思う。

長崎湾の副振動である「あびき」についての解説が長崎海洋気象台のHPに掲載されている。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の副振動の項は、今回の災害発生後の2月25日に最初の案がアップされている。長崎海洋気象台HPでの解説記事へのリンクも張られている。すばやい対応は称賛に値する。

これらの記事を読めば、副振動についての基本的な知識を得ることができ、今回の副振動を環境破壊と結び付けて考えることはあり得ないはずである。とはいえ、今回の副振動現象に言及している多くのブログ記事中には、少数ながら、海面上昇からの類推からか、地球温暖化や環境変動と結びつけて考えている人がいた。古舘メインキャスターもこの一人ということになる。マスコミ人としては、不勉強であると言わざるを得ない。これは最終的には当人の責任とはいえ、日本テレビ朝日のサポート体制あるいは報道に対する姿勢の問題だと思う。

2.新聞報道
冒頭に述べているように、マスコミ各紙が今回の副振動被害を報じている。多くの新聞が、被害の状況と共に、副振動の簡単な解説を紹介している。各紙の解説を以下に述べる。

朝日新聞(asahi.com、2月25日22時4分掲載ウェブ魚拓)は
気象庁によると、副振動は低気圧が中国大陸から日本へ向けて発達しながら進むときに発生しやすい。今回は日本から大陸にかけて延びた停滞前線付近での気圧変化が「引き金」になったと考えられるが、これほど大規模なものは珍しいという。
と、図を用いて、比較的詳細に解説している。しかし、図は、詳しい説明もないため分かりにくくなっている。また、この図は長崎海洋気象台HPに記載された図とほとんど同じで、元図と全く同じではなくて改変してある、あるいは本文で情報源を気象庁と明言している、のだから良いとの判断だとは思うが、長崎海洋気象台の元図を参考にしたことを明記していないのは疑問である。

読売新聞(YOMIURI ONLINE、最終更新:2月27日1時5分ウェブ魚拓)は、
気象庁によると、日々の潮位の変化を主振動、それ以外の潮位の変化を副振動と呼ぶ。副振動は、港湾や堤防に囲まれた海域で観測され、数分から数十分で海面が大きく昇降する。「あびき」とも呼ばれ、流れが早くて漁網が流される「網引き」に由来するとされる。

 今回の大規模な副振動について、津波や高潮に詳しい東京大地震研究所の都司嘉宣・准教授は「何らかの原因で中国大陸で発生した微弱な気圧の波が黄海の波と共鳴し、振動が増幅することがある。これが九州各地の湾内の波と共鳴し振動が大きくなって、潮位を昇降させた可能性が考えられる」と分析している。
と述べている。都司准教授のコメントは都司准教授の発言意図とは異なる形で紹介されている可能性が高い。長崎気象台HPの解説で引用されている研究論文(HIBIYA, T. and K. KAJIURA、(1982、日本海洋学会誌)の存在を紹介して説明しただけだと推定する。

毎日新聞(2009年2月26日 西部夕刊ウェブ魚拓)は、
副振動は、低気圧の接近による気圧の変動と風、水温などの要因が重なると発生するという。例年2~3月に多く、前線が九州南部を通過する際に、発生しやすいとされる。
と、朝日、読売に比べると貧弱な対応であり、副振動の発生要因の一つに水温を挙げるという、珍説を情報源抜きで紹介している。この西部版での対応に対し、毎日新聞(2009年2月26日 東京朝刊ウェブ魚拓)では副振動の詳しい説明もなく、鹿児島県での被害発生状況を報道している。また、毎日jpのサイエンス欄での記事(最終更新 2月25日 23時04分ウェブ魚拓)では、
副振動は、低気圧の接近による気圧の変動と風、水温などの要因が重なると、発生するという。例年2~3月に多く、前線が九州南部を通過する際に、発生しやすいとされるが、予測は困難という。
と、水温が削除されないまま、「予測は困難」という語句が加えられている。その後、2月27日の後追い記事(紙面での掲載は不明、検索からはたどり着くが、毎日jpのHP画面からは見えない、ウェブ魚拓)では、一変して、
長崎海洋気象台によると、副振動は「あびき」(網引き)とも呼ばれ、海面が短時間(30~40分)に昇降する現象。潮の干満や、高潮・津波と似ているが、発生原因が異なる。東シナ海の大陸棚付近で、気圧変化に伴って海面に振動が生じると、海底の地形の影響などから増幅されて大きな波となり、九州などの沿岸に到達する--とみられている。

 1月末から4月に多く観測され、特に長崎港、鹿児島・枕崎港などで多い。長崎港で157センチを観測した今回のように潮位の変動幅が大きいと、海岸や河口近くの低地などでの浸水被害などが起きることもある。

 同気象台は「副振動は予測不能で、いつ収まるのか、再び大きくなるのかも分からない。沿岸部ではしばらく注意が必要だ」と話している。
と詳細な記事を掲載している。

2月26日付け西日本新聞朝刊ウェブ魚拓)では、
・副振動
潮の干満や高潮、津波とは別に、東シナ海など遠洋の気圧変動で潮位が大きく上下する現象。「あびき」とも呼ばれ、3月によく起きる。特に海岸線が長い長崎港で知られ、長崎海洋気象台は今年も1月27日に注意を呼び掛けていた。同気象台はホームページで「長方形の容器に水を入れ、一方の端を持ち上げて少し傾けてから元に戻すと、しばらく水全体が左右に振動するのと同じ現象」と説明している。
と、地元紙として、全国紙に比べて、より的確な解説を行っている。ただし、長崎海洋気象台HPでの解説を十分に理解せず、そのまま引用しているように思える。

各社の新聞記事では、さすがに環境破壊や温暖化と結びつけるような論調はなかった。これは、一重に長崎海洋気象台他での「あびき」あるいは副振動についての基礎知識を発信していたことによると思う。とはいえ、記事では長崎海洋気象台他からの情報が不消化のままのように思う。記者は読者に理解できるように、自分で考え、自分なりに理解した記事を書かねばならない。分からなければ、専門家に自分で納得できるまで質問し、確認を得るべきである。知らないことは恥ではないと思うのだが・・・。やはり、自分が十分に理解していないということを認識できないのだろうか?

3.海洋の知識「あびき」
副振動の一般向けの解説としては、長崎海洋気象台HPの海洋の知識ページの「あびき」が最も適切であると思う。以下は、その補足。

海洋の知識「あびき」の冒頭で、
副振動とは数十分周期の港湾の振動で、長方形の容器に水を入れ、一方の端を持ち上げて少し傾けてから元に戻すとしばらく水全体が左右に振動するのと同じ現象です。
と、「あびき」の説明の概略が述べられている。しかし、副振動を「長方形の容器内の水の振動」に例えるのは、間違いではないにしても、言葉足らずのように思う(自分のことを棚に置いて、コメントを述べさせて頂くと)。管理人だったら、固有振動の説明を加えて、
太鼓をたたいた時に、直径・幅の大きな太鼓の音は直径・幅の小さな太鼓より低い音が聞こえます。これは太鼓の直径・幅によって持続しやすい音の周期が異なるためです。これと同じように、奥ゆき、幅、深さの異なる港湾に外から波が浸入した時、それぞれの港湾に固有の周期の波が持続します。
と副振動を説明する。

あびきの発生原因については、図を用いて、
あびきは東シナ海大陸棚上で発生した気象現象の擾乱(じょうらん)による気圧の急変が原因とされています。これによって発生した海洋長波が海底地形などの影響を受けて増幅していきます。湾内に入った海洋長波は共鳴現象などの影響を受けてさらに増幅し、湾奥では数メートルの上下振動になることがあります。
 Hibiya and Kajiura (1982) による数値シミュレーションから、1979年(昭和54年)3月31日に発生した過去最大のあびきは、東シナ海をほぼ東向きに約110km/hで進行した振幅約3hPaの気圧波によっておこされたことがわかっています。
と述べ、以下のような発達過程を示している。
東シナ海大陸棚上で発生した気圧波
⇒ 大陸棚上で気圧波との共鳴的カップリング [約3倍の増幅]
⇒ 長崎湾内での浅水増幅、反射干渉 [約5倍の増幅]
⇒ 長崎湾と五島灘の各振動系の共鳴 [約3倍の増幅]
この説明も分かりにくいと思う。発達過程の語句を用いると、以下のように副振動の発生を詳しく説明することができるが、理解を得るのは難しいかもしれない。

1)海面での熱交換や大気の不安定などの何らかの原因で、東シナ海大陸棚上に微小な気圧変化が発生。
2)1hPaの気圧の低下に対し、海面が1cm上昇して海面変位が発生(気圧変化3hPaで3cm)。
3a)東シナ海大陸棚上に発生した微小気圧変化は風によって風下へ、あるいは前線に沿って東へ移動。
3b)微小気圧変化によって発生した海面変位は、池に投げた小石によって生じた波が広がるのと同じように、東シナ海大陸棚上に広がる。広がる速さは水深が深いところほど速い(水深に比べて波長が長い海洋長波(浅海波)として伝播する)。
4)ブランコで背中を押すタイミングが合うとブランコの振れが大きくなる(共鳴的カップリング)のと同じように、海面変位の広がる速さと微小気圧変化の移動速度が等しいところで、海面が下がるところで気圧が上がり、海面が上がるところで気圧が下がると、海面変位は当初の約3倍に増幅される。
5a)湾内の水深は湾外の水深より浅いため、湾内での海面変位の伝播速度は、湾外よりも遅い。この結果、湾内では前へ進む海水の量が後ろから来る量より少ないため、海面が上昇する(浅海増幅)。
5b)湾内に侵入した海面変位は湾奥で反射し、湾口に戻る。湾口から湾奥での反射を経て再び湾口に戻るまでに要する時間(湾の固有振動の周期)と湾内に侵入する海面変位の周期が一致する場合に、海面変位は増加する(反射干渉)。
5c)浅海増幅と反射干渉により、長崎湾の場合には約5倍(当初の15倍)に増幅される。
6)長崎湾で発達した振動と五島灘で発達した振動が互いに影響しあって、約3倍(当初の45倍、気圧変化3hPaで135cm)に増幅される(振動系の共鳴)。

<参考>
ブログ「気象・歳時・防災 コラム!」の記事「器に応じた振動周期…“副振動”(3)」で、副振動について丁寧に説明されています。ご参照ください。


4.2004年3月1日の副振動
長崎海洋気象台HPの海洋の知識「あびき」ページに、2004年2月29日~3月1日の長崎、種子島、枕崎、油津の各検潮所におけるあびき(副振動)の時系列が示されている。このときにも漁船転覆などの被害があった。当時、鹿児島大学で勤務していた管理人は地元の鹿児島よみうりテレビから解説を依頼され、対応したことを思い出す。その後、副振動を説明するCGの作成を工学部の知人と話した記憶があるが、そのままになっていた。今回の副振動発生についてテレビ局もアニメで説明しようとしてしていたが、あまり良い出来ではなかったように思う。なお、当時から比べると「副振動」という言葉が普及している。「海面変動」は毎日新聞の記事ウェブ魚拓)でのみ用いられている。上のリンク先で紹介している平成16年度卒業研究で「枕崎湾内における副振動の統計的解析」を行った小林さんもきっと職場で、副振動の説明を卒業研究での辛い思い出と共に語っていることだろう。

5.おわりに
今回発生した副振動についての報道各社の対応を見ると、長崎海洋気象台他での情報発信があっても、記者の理解力不足あるいは時間不足が正確な報道を阻害する大きな足かせになっていること、また、情報発信する側には読者の理解度を考慮したきめ細かい配慮が必要であることを痛感した。双方の理解を深めるために、科学記者を対象としたサイエンスカフェが必要だと思う。
posted by hiroichi at 05:11| Comment(10) | TrackBack(3) | 海のこと | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
当ブログへのコメントと、貴記事でのご紹介、有難う御座います。
『気象・歳時・防災 コラム!』管理人のTwisterです。
私は(だいぶ昔ですが)地球科学を専攻した現:気象予報士&防災士です。
以後、宜しくお願い致します。
Posted by Twister at 2009年03月01日 18:14
はじめまして、

副振動について、報道関係の分析をはじめ、専門的に詳しく説明記事を書かれているので、これ幸いと私のブログで引用しました。

「あびき」は突発的な気圧変動による津波に似た現象であるとも言えそうですね。海底の地盤が上下に動く、あるいは海岸・海底斜面が崩れて起こるのが津波で、あびきは上空の揺らぎで発生した波が海水の器(地形)の共鳴で増幅されたもの、と考えればよさそうです。低気圧の急速な発達と大潮とが重なることも重要ではありませんか。

副振動、というのは唐突な名称ですね。私はセイシュと記憶していました。

私は海洋生物が専門ですが、海岸における貝殻などの打ち上げや砂の堆積現象を見ていると、海岸に向けての逆流が時々発生しているように見えます。台風など低気圧の嵐に隠れている場合が多くて、静かな逆流現象は目立たないため、認知度が低いのかな、と思っています。「なぜ砂浜海岸に(深いところから)貝殻が打ち上げられるのか」という問題について、これから自分のブログで勝手な想像をめぐらせるつもりです。
Posted by beachmollusc at 2009年03月07日 09:05
Twister 様

貴ブログへの管理人からのコメントへの以下のご返答をありがとうございました。貴ブログでお答えすべきとも思いましたが、拙ブログの記事への言及ですので、ここでお答えします。

>科学記者に関して…元より自然科学の領域は多岐に亘るので、記者其々に不勉強な分野が多々あると思います。一方で、報道は「時間との闘い」ですから、内容の吟味もそこそこに見切り発車するケースもあるでしょう。大事なのは、結果として誤った報道をしてしまった場合にキチンと「訂正を入れるかどうか?」です。その点において、最近のニュースステーションは間違ったことをアナウンスしても殆ど訂正しません。

「訂正をしない」のは、報道ステーションに限らず、記録が残らないテレビ番組全般で蔓延しているように思います(クイズ番組で正解とされる中にも多くの間違いがあります)。これはこれで寂しい現実ですが、それよりも管理人が危惧しているのは、科学記者のみならず、多くの人が、物事を深く考えず、表面的な解釈で事足れりとしている状況です。この結果、今の世の中では、「自分の不勉強ぶり」から生じた間違いの「訂正」をできるだけ避けることで自分(の権威)を守ろうとする幼児的な組織・人が跋扈しています。このような風潮を改めるためには、ブログのような場で、逐一、批判を続けて、「物事を深く考える」機会を出来るだけ提供するしかないと思っています。

beachmollusc 様

貴ブログでの言及をありがとうございました。

>低気圧の急速な発達と大潮とが重なることも重要ではありませんか。

防潮堤を超えた冠水による被害は大潮と重なることで増えると思いますが、副振動の振幅と大潮との関連は低いと思います。

>副振動、というのは唐突な名称ですね。私はセイシュと記憶していました。

セイシュ(静振)に言及するのを失念していました。海洋情報研究センターの「海の事典」ではセイシュは
港湾・陸棚や湖沼の起こす固有振動をセイシュと呼ぶ。語源はジュネーブ湖に起こる長周期の振動に対する方言からきている。静振あるいは副振動とも呼ばれる。
http://www.mirc.jha.jp/knowledge/encyclopedia/description.html#seiche
と説明されており、副振動=セイシュとしています。ただし、管理人の感覚では、セイシュは副振動を含む「港湾・陸棚や湖沼の起こす固有振動」であるのに対し、副振動は、主振動である潮汐がある「港湾・陸棚の起こす固有振動」のみであると思います。例えば、琵琶湖ではセイシュは観測されます(私の3回生の時の演習課題の対象でした)が主振動である潮汐はありませんから副振動ではないと個人的には考えます。

>「なぜ砂浜海岸に(深いところから)貝殻が打ち上げられるのか」という問題について、これから自分のブログで勝手な想像をめぐらせるつもりです。

貴ブログで言及されている現象は、海洋物理学では、内部波、内部潮汐(「二重潮」)、塩水クサビ、沿岸流、離岸流と関係して研究が進められています。これらの詳細については、別の記事で述べます。
Posted by hiroichi at 2009年03月08日 02:04
ご意見ありがとうございます。

分野が異なる者から見て、海洋物理の世界が不透明に見えることがあるのは、一般啓蒙だけでなく学術の世界で分野横断的な知識の普及伝達が不足しているからでしょう。管理人さんがここでやっていらっしゃることは、その不足を補っているように思います。

内部波について教科書的には知っていますが、現在どこまで理解が進んでいるのか、特に「沿岸の砂浜」で測定計器類を使って観測されているのかどうか、気にしています。規模が変動しながら突発的に起こっているような気もするので、物理的な観測で検出するのは難しいかもしれないかと想像しています。鹿島灘には専門の観測施設があるように思いますが、成果は出ていますか。

沿岸流と離岸流は砂浜の漂砂と密接に関係するので以前から気にしています。ついでの質問ですみませんが、離岸流は表層で強く狭く流れていることは自明ですが、その下で、底層・海底のごく近くではどのようになっているのでしょう。垂直のプロファイル観測データはあるのでしょうか。

離岸流が前浜の汀線付近から洗い出されたシルトを沖に運び出します。一方、海底で細砂が沖から岸に向けて運搬されていること、特にサンドバーが全体として岸に向けて移動する現象の物理はどうなっているのか、これに内部波は関係しているかどうか、ご見解をいただければありがたいと思います。
Posted by beachmollusc at 2009年03月08日 08:01
beachmollusc 様

早々にレスをありがとうございます。

内部波、沿岸流と離岸流については別記事で述べます(時間をください。宿題が溜まっています)。

>分野が異なる者から見て、海洋物理の世界が不透明に見えることがあるのは、分野横断的な知識の普及伝達が不足しているからでしょう。

物理、生物、化学、地質学が複雑に関連している海洋における種々の現象を理解するのには、特定の一分野の知識のみでは不可能です。しかし、現在の我が国の理科教育体系は各分野に分断されています。特に、裾野が広い物理学と他の分野との隔たりが大きい状況です。このような状況を打破して、総体としての海洋の基礎知識を含めた海洋リテラシーを普及するために、私もメンバーの一人である日本海洋学会教育問題研究部会では、サイエンスカフェの開催他、種々の活動をしています。ご助力を宜しくお願いします。
関連記事:
http://blogs.dion.ne.jp/hiroichiblg/archives/6827216.html
http://blogs.dion.ne.jp/hiroichiblg/archives/6883260.html
http://blogs.dion.ne.jp/hiroichiblg/archives/8127096.html

Posted by hiroichi at 2009年03月08日 14:18
管理人さん、

年度末でご多忙中でしょうが、お答えを楽しみに待っていますので、よろしく。

サイエンスカフェという行事を進めていらっしゃること、ご苦労様です。

海洋学科という、今では幻となった教育現場で、海洋学全般の基礎を学生に講義していたのが遠い夢のようです。

30年前の当時は、まだコンピュータ・プレゼンでインターネット情報、特に画像と動画を駆使することができませんでしたが、できるようになった時には海洋学でなく生物学の基礎を教えることになってしまいました。

釈迦に説法ですが、教えることは自分が勉強することです。特に学生から出てくる「素朴な」疑問をきっかけに、問題点を浮き彫りにして、認識・理解を深める作業が勉強になりました。

先日、地元の小学校でホタルについて出前授業をやったばかりですが、ものすごく活発に様々な質問が出てきて、高学年の生徒達の好奇心が生き生きとしていることに喜びを感じました。アカウミガメの話を別の学校でやったこともありますが、同様です。

中等教育で行われている「記憶・再生」の試験中心の教育が好奇心を削いでしまうのでしょうね。それを補うための刺激策としてサイエンスカフェが有効に働くことを祈りましょう。
Posted by beachmollusc at 2009年03月09日 08:47
beachmollusc 様

>中等教育で行われている「記憶・再生」の試験中心の教育が好奇心を削いでしまうのでしょうね。

強く同意します。多くの人が、この状況を変えるために大学入試改革が必要だと主張しています(私もそう思います)。「試験中心の教育」を勝ち抜いてきた勝者達が牛耳っている今の日本社会では、実現は難しいように思いますが、あきらめずに、草の根的に、自分ができることを続けるしかないと思っています。ブログの世界を徘徊し、同じ思いの人が少なからず居ることを知り、力付けられています。
Posted by hiroichi at 2009年03月14日 02:07
報道ステーションの古舘氏のコメントは、私もちょうどニュースを見ていて首をかしげました。
少なくとも科学部の記者がきちんと消化したうえでキャスターに生齧りで適当なコメントをさせないよう事前にチェックするべきですね。
自分がブログを書く際にももっと注意せねばと思いましたが・・。
ただ、副振動と環境破壊の関係ですが、副振動そのもののメカニズムとは無関係ですけれど、地球温暖化と完全に切り離すこともできないのではないかと。
一つは、平均海水面の上昇により、副振動が発生した場合、ニュースにあったような被害が大きくなることはあろうかと。また、熱帯低気圧の大型化や発生数・分布の変化により、あびきの発生頻度なども変化する可能性はあるのではないでしょうか。
Posted by kkneko at 2009年03月15日 20:32
kkneko 様

貴重なコメントをありがとうございました。

>副振動と環境破壊の関係ですが、副振動そのもののメカニズムとは無関係ですけれど、地球温暖化と完全に切り離すこともできないのではないかと。

本記事の題名が不適切であったため、疑問を招いてしまったようです。私の記事の趣旨は、お察しの通り、「副振動の発生メカニズムと環境破壊は関係ない」ということでした。

>平均海水面の上昇により、副振動が発生した場合、ニュースにあったような被害が大きくなることはあろうかと。

「副振動の被害は環境破壊と関係ある」という意味では、ご指摘の通りです。

>熱帯低気圧の大型化や発生数・分布の変化により、あびきの発生頻度なども変化する可能性はあるのではないでしょうか。

可能性は否定できないとは思います。ただし、「あびき」の発生には熱帯低気圧ではなくて、大陸付近で発生し、東シナ海上を発達しながら移動する低気圧が関係していると考えられています。したがって、温暖化の影響が「あびき」の発生頻度に現れるとすると、それは、1)温暖化で東シナ海の海面水温が上昇->2)東シナ海での大気への熱放出量が増加->3)東シナ海での低気圧の発生頻度が増加->4)「あびき」の発生頻度が増加、という間接的なプロセスを経ると考えられます。1)は現実に既に起きています。
関連記事:http://blogs.dion.ne.jp/hiroichiblg/archives/5930099.html
しかし、2)と3)のプロセスについての実証的な研究については私は知りません。東シナ海における海面熱交換の季節変動までは、この15年ほど?の間にようやく明らかになっていますが、その経年変動については知りません。大気循環再解析数値モデル計算結果を見れば分かるかもしれません。ただし、モデル計算結果も、空間分解能が粗くて、「あびき」の発生に関連する低気圧の発生・発達まで追跡できるのか不明であり、またモデルによって結果が異なる現状では、確たる答えを得るのは難しいようにも思います。

今後とも、宜しくお願いします。
Posted by hiroichi at 2009年03月16日 01:12
hiroichi様
詳細でわかりやすいご回答ありがとうございました。
ニュース報道でここまでやってくれればいいんですが、そこまで期待するのはやっぱり無理ですかね。。
でも、ここまで言い切らないと「環境破壊云々」と言っちゃいけませんよね・・
Posted by kkneko at 2009年03月24日 01:58
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