2008年12月28日

私的なつながりの場

前回のエントリーから3週間が過ぎてしまった。理由は、本務が多忙であってブログを書く時間がなかったこともあるが、本務以外にも以下のような種々の私的な行事などが重なったためである。

8日に、独立行政法人港湾空港技術研究所を私的に訪問。
19日に、「NPO法人海ロマン21」分科会「海洋リテラシー研究会」に出席。
21日に、関東地区横串会説明会に出席。
26日に、出身研究室関東在住者忘年会に出席。

以下は、これらの詳細。



1.港湾空港技術研究所
8日午後に、勤務先を早退して、独立行政法人港湾空港技術研究所を私的に訪問した。私が大学教養部の2年間に所属していたライフル射撃部の2年先輩のKHさんが港湾空港技術研究所に勤務されていることを知り、今回、40年振りにお会いする機会を得たためであった。KHさんに手配して頂いて、研究の諸施設を見学した後、KHさんおよび関係者の方々と親交を深めた。KHさんは、膝の故障のため、射撃練習には参加されなかった。しかし、私にとっては、コンパの2次会、3次会で酒の飲み方を教示して頂くなどを通して、大変お世話になった先輩達のお一人である。お会いして、名前を聞くのも懐かしいライフル射撃部の先輩・同輩の動静を聞いたり、合宿、遠征試合、ダンスパーティーの前売券の売り捌きの思い出話に花を咲かせたり、一般にあまり知られていないライフル射撃競技について他の方々に解説したりして、楽しい一時を過ごした。

私が学部生、大学院修士課程学生だった頃には、港湾空港技術研究所の前身である港湾技術研究所の光易恒先生が風波の発達過程に関する精緻な風洞水槽実験結果を次々と発表されており、港湾技術研究所は当時の私のあこがれの研究所の一つであった。このような研究所に、40年後に先輩を訪ねることになり、その人の縁の不思議さに感慨もひとしおであった。

港湾空港技術研究所では、沿岸波浪や津波を監視するために沿岸ブイネットワークを展開していることを知り、私が行っている黒潮続流域海面係留ブイ観測を紹介した。同じ横須賀市内にある海洋関連研究機関として、今後、交流を深めることができると良いと語り合った。

2.海洋リテラシー研究会
19日午後には、勤務先を早退して、三田で開催された「NPO法人海ロマン21」分科会「海洋リテラシー研究会」に出席した。「海洋リテラシー研究会」は、日本海洋学会教育問題研究部会の元部会長である角皆さんが座長を務め、「海洋リテラシー」とは何か、どのように普及させるのか、等の検討を進めている組織である。

今回は、教育問題研究部会員の多くも参加している新技術渡辺記念会助成金「我が国における海洋リテラシーの普及を図るための調査研究」の来年春の報告書提出に向けて、本調査研究への参加者の一部から既に提出済みの「海洋リテラシーの普及を図る方策」に関わる、日頃の考え、経験、エピソード、提案、政策に対する批判等を記述したメモの一部について、約10名の出席者の間で意見交換を行った。皆、海洋への国民の関心を高める必要性を強く感じてはいるが、対策のタイムスケールを含め、種々の考えが交錯していた。私からは、拙ブログの2008年5月6日の記事「科学について知っていてほしい5つのこと」の抜粋を提出し、説明した。この中で述べている「科学は,人類が直面する種々の限界(生死の壁,時間の壁,空間の壁,物質の壁)へ挑戦したいという,全ての人が人類の一員として、個人的に持つ根源的、内的欲求を追及する営みである」ことについて、「挑戦だけではなくて、限界の存在についての認識も重要」というコメントを頂いた。また、「海洋の現象についての仮説の検証は難しいのでは」というご意見を頂いた。これらのコメントへの対応を含めた改訂版を1月9日までに提出することになっている。

ともかく、この私のメモを含め、「海洋リテラシーの普及」について種々の考えのあることを報告書の公刊を通して社会に広く伝えることは、大きな意義があり、今後、さらに意見交換を進めることになった。

3.サイエンスコミュニケーションネットワーク横串会
21日(日)の午後には五反田で開催された関東地区横串会説明会&オフ会に出席した。

横串会は「サイエンスコミュニケーションに関わる仲間と気楽な交流がしたい!」という思いから、今年6月に立ち上げられた組織で、私は11月のサイエンスアゴラ2008の際に、参加申込をした。

参加者は15名程であった。これまでブログを通してお付き合いのあった何人かの方とは初めてリアルでお話ができた。科学コミュニケーションに関心のある人々の集まりであり、本職は、大学院学生、会社員、広報担当者、研究業務従事者、など種々の業種であった。皆、迷いながら、出来ることから、少しずつ行動している方たちであることを再確認し、大いに力付けられた会合であった。

科学リテラシーの普及には、大学や研究機関などが進めている公的なサイエンスコミュニケーション活動も必要であるが、「草の根」的な個人レベルの活動が不可欠だと思っている。しかし、個人的にサイエンスコミュニケーションを進める際には、孤軍奮闘せざるを得ないのが現状である。私も、本ブログ活動の他に、個人的にサイエンスカフェを開きたいという希望を持ってはいるが、海洋学会教育問題研究部会の枠内での活動に止まっている。横串会は孤軍奮闘している仲間達の「ゆるい」共同体になることを目指して設立された組織であり、今後の発展を願っている。

関連ブログエントリー:
【イベントレポート】関東地区横串説明会+横串オフ会に行ってきた(Science and Communication)
横串会は焼き鳥ではなく鍋(若だんなの新宿通信)
サイエンスコミュニケータが井戸端コミュニケーション(B サイエンスコミュニケーション)

4.出身大学研究室関東在住者忘年会
26日には、勤務先を早退して、夕方から神田で開催された出身研究室関東在住者の忘年会に参加した。参加者11名の年齢は55歳から70歳で、私は若いほうから3番目であった。初めてお会いした先輩が3名であった。私が学部を卒業した36年前には、海洋物理学関係の大学講座の数が少なかったため、出席者の中で、大学のいわゆるアカポスに職を得ていた人は、私を含めて比較的若い4名のみで、多くの先輩は調査会社や官公庁へ就職されていた。中には、ご自分で調査会社を起業された方もいる。

この会で、4年先輩のHKさん、1年後輩のKKさんと約20年振りに再会した。お二人とも、雰囲気は昔と変わらず、強い個性を維持されていた。出席者、特に先輩達は、皆、とにかく元気であった。さすがに理学部地球物理学教室海洋物理学講座出身者だけあって、地球環境問題に対し、一家言ある方ばかりであり、現在の学校教育や社会の在り方、人類の未来について議論が沸騰していた。現役の端くれとして、もうひと踏ん張りする気力を頂いた。

5.おわりに
12月に入り、自分の考え方が他の多くの方々と大きく異なることを痛感することがあり、寂しさと無力感に苛まれていた。しかし、上に述べたような種々の「私的なつながりの場」に参加する機会を得て、大げさに言えば、人間の考え方の多様性を再確認し、気力を回復することができた。良き仲間と先輩達に恵まれていることに感謝している。

現在では、蔓延する成果主義の下で、研究開発活動が悪い意味でのビジネスになってしまっている。この現状を受け入れざるを得ないのかもしれないが、若い人がもっと夢を持って研究活動に専念できるように社会改革を進めなければ、研究開発活動を支え、その成果を享受する社会そのものが衰退してしまうと思う。このことは研究開発活動ばかりではなく、企業活動でも同様である。個人を大事にする社会が崩壊しつつあるように思う。そうならないためには、諦めず、できることから、少しずつ、「草の根」的に、行動し続けるしかないと、種々の私的な集会に参加して、改めて認識した。
posted by hiroichi at 23:57| Comment(2) | TrackBack(1) | 日記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント

元港湾技術研究所ならびに昔の私の仕事について記述を懐かしく拝見しました。

港湾技術研究所は、私にとっては研究者としての出発点、一方研究所自体は急速な発展期で活力にあふれており、非常に思いで深いところです。
Posted by 光易 at 2009年07月22日 14:13
光易 先生

しばらくお会いする機会に恵まれていなかった先生から直接コメントを頂き、感激しております。ご高齢にもかかわらず、お元気にインターネットに親しまれておられるご様子を察し、力付けられる思いです。これからも、宜しくお願い申し上げます。
Posted by hiroichi at 2009年07月22日 23:04
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