2008年11月04日

ワシントンDC(2008年11月)

2009年6月7日 訂正文を追記

1日から4日朝までの予定で、アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union, AGU)の広報委員会(Public Information Committee, PIC)に出席のため、ワシントンDCに滞在している。

AGUはアメリカの名前を冠しているが、地球、海洋、大気、宇宙、惑星に関わる科学(地球宇宙科学)に携わる研究者、教師、学生などが世界中から参加している会員5万人を要する組織であり、日本からも多くの関係者が参加している(現在、北米大陸外からの参加者が30%くらいらしい)。

3月半ばにAGUの各種委員会活動に協力するボランティアを求めるアンケート調査があった。メールで意見表明をする程度の活動だと思って、一般への普及活動や学校教育活動についての委員会活動に協力する意思があると回答した。ところが、8月1日にメールで2010年7月までの次期広報委員会の6名の委員の一人に指名されたことともに、AGUの本部があるワシントンDCで開催する第1回会合に招待するので、9月の予定を知らせろとの連絡を受け取った。何度かの日程調整の結果、大統領選挙の直前の週末である11月2日と3日に開催することが決まり、1日半の会議が昨日の昼過ぎにようやく終了した。以下にこの会議で得た、米国で進められているアウトリーチ活動等を紹介する。


1.PIC
PICの公式メンバーは委員長1名、幹事会担当委員1名、委員会委員6名、担当事務局員1名の合計9名である。会議には、公式メンバーの他に、事務局から2名の合計11名が常時参加した。初日には、担当理事である前会長のSpilhausさんが夜の夕食会を含めて終日参加した。また、約10名の関係者が、随時、報告を行ったり、電話で議論に参加した。

今期の公式メンバーの内、前期からの継続は4名であり、今期からAGUでの各委員会委員を、国、年齢、分野を考慮して構成するという方針のもとで、新たにドイツと日本から各1名が加えられ、6名の委員の分野も、気候学、気象学、海洋学、地質学が各1名、サービス部門2名、で性別も男性3名、女性3名であった。ちなみに、委員長(男性)と幹事会担当委員(女性)の専門分野は地質学である。

PICの任務は、主としてメディアとウェブサイトを通して、AGUが行う地球宇宙科学を社会に普及する事業を展開することである。2年間の事業費予算は約40万ドルである。前期の委員会からの報告に基づいて幹事会で承認された今期の目標(事業内容)についての進め方や担当が検討された。主な決定事項は以下の通り。

1)緊急の課題として、非常に分かりにくくなってしまっている現在のAGUのウェブサイトのHPを、他の学会のHPを参考にして会員サービス用と社会への発信用に分けるなどして、早急に進めることになった。

2)直接AGUに来る報道機関からの問い合わせに対し、速やかに答える仕組みをウェブサイトに構築する。

3)すぐれた報道記事への表彰については、従来は英語記事のみを対象としていたが、今後は英訳を付ければ、非英語でも対象とすることを進める。参考「AGU Journalism Awards」

4)AAAS(米国科学振興協会)が行っている大学院学生のメディアへの派遣事業を拡大し、参加経験者とAGUとの関係を強化する。また、米国外の若手研究者のメディアへ派遣する事業を行うことについて検討する。参考「Mass Media Fellowships」

5)AGU会員がメディアとの連携を深める方法を学ぶために、AGUの雑誌に掲載される論文の全てについて、一般向けの解説文の提出を義務付けることを検討する。資料「You and the Media」

注)上にリンクを張った資料の存在を管理人はPICの委員になって初めて知った。これほどに分かりにくい配置になっているサイトの構成を変えるのが、1)です!

2.AGUの社会貢献活動
AGUには、地球宇宙科学を社会に普及する事業を担当する委員会がPICの他に、社会活動委員会(Commitee on Public Affairs, COPA)と教育人材育成委員会(Committee on Education and Human Resources, CEHR)が設けられている。

COPAは主として政策立案者(議会)へ働き掛ける事業を担当し、CEHRはメディアと政治家を除く社会一般(教師、学生を含む)へ働き掛ける事業を担当している。COPAの活動で注目されるのは、学生を国会議員秘書に派遣する事業である。CEHRの活動は女性教師の団体との結び付きが強いようであった。

これらの3つの委員会の統合と連携については、相互に委員が参加する、合同で会議を開催する、などの方策について、今後、各委員会の事務局担当者間で調整することとなった。

3.メディア用映像資料
会議では以下のニューメディアの担当者の説明があった。映像によるアウトリーチへの取組の積極性に驚いた。

1)Descoveries and Breakthroughs inside Science (DBIS)
AGUもその一員であるアメリカ物理協会(American Institute of Physics, AIP)の事業の一つで、米国の地方TV局用の1編は90秒程度の科学報道映像。AGUが関与した映像の一覧

2)ResearchChannel
自分たちの研究成果を社会に発信するために大学・研究機関が立ち上げたウェブ放送コンソーシアム。

4.おわりに
上に紹介したようなアウトリーチについてのAGUの取り組みの詳細を初めて知り、刺激を受けた。しかし、上に紹介述べたように盛んな取り組みが行われているにもかかわらず、会議参加者の間では、日本と同様に、米国でも、子供のときには科学に興味を示しすのに、成長すると科学に興味を失っている現状を憂いていた。理科教育の在り方とか科学リテラシーの内容についての管理人の持論を述べると、皆、同意していた。サイエンスの記事で理科離れが欧米でも進んでいることが紹介されていたが、このことを実感した。なお、会議ではサイエンスカフェや研究者ブログは話題にならなかった(検討課題にブログは挙げられてはいたが、私が話題にしても、反応がなかった)。

AGUの会員は世界に広がっており、AGUは各国の関連組織(日本では日本地球惑星科学連合、ヨーロッパのEuropean Geosciences Union)と連携して研究集会を開催したりしている。しかし、アウトリーチについては、いままで米国外での活動を考慮していなかった。米国外の会員も多くなったため、米国外でも米国内と同じようなアウトリーチ事業を展開しようとして、米国外からの2名の委員の説明で、どうやら国によって事情が異なることが理解された。今後、日本およびヨーロッパでの状況を参考に、米国内での活動を進めることになった。管理人が、日本における関連学会のアウトリーチの現状を米国内のAGU会員に伝える任務を果たすのは当然であるが、同時に、AGUの米国内でのアウトリーチ活動内容を今後も国内の関係者に伝え、国内での活動の参考にして頂くことを願っている。

<付録>
初日の会議後、皆ともに、SpilhausさんにAGU本部の最上階の会議室(ビルの一角がガラス張りで船の舳先の形になっている)を案内して頂いた。また、その廊下に展示してあるBT(Bathythermograph、表層の水温鉛直分布を電子回路ではなくて、工夫を凝らした器械的動作で測定する装置)の説明を受け、私が大学3回生のときに琵琶湖での実習で初めて使用した観測機器の開発者がAGU前会長のSpilhausさんであることを初めて知った。

1940年頃から使用されていたBTの発案者は前会長Fred Spilhaus の父親のAthelstan Spilhausさんでした。訂正してお詫びします。
posted by hiroichi at 17:39| Comment(0) | TrackBack(2) | 日記 | 更新情報をチェックする
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