今回の航海では、以下の作業を行う予定です。
1.仙台沖北緯38度線上でのXCTD観測
2.JKEOでK-TRITONブイのメインテナンス(センサー他の交換)とブイ周辺でのラジオゾンデ・海上気象観測
3.黒潮続流横断XCTD、ラジオゾンデ観測
4.KEOブイの交換とブイ周辺でのラジオゾンデ・海上気象観測
5.野島崎沖黒潮横断XCTD観測
6.黒潮続流南側でのArgoフロートの投入
7.漂流式GPS波浪観測ブイの投入
8.海上気象観測装置の試験運用およびシースネーク観測(海面近傍の水温の計測)
9.航走ADCP観測
私のグループからは、KMさん、THさん、NKさんと私の4名が乗船して、人工衛星データから推定される海面乱流フラックスの検証および推定手法の改良に必要な情報を得ることを目的として、主として、1、2、3、4、5、9の観測を行います。
そのうち、最優先作業はK-TRITONブイのメインテナンスです。今年2月末に設置したブイからの観測信号が5月28日から途絶えています(非常用ARGOS通信でブイの位置は確認できています)。近くで観測航海中であった東北海区水産研究所の若鷹丸に6月10日に確認して頂いた結果、データ送信用のアンテナが欠落していることが分かりました。原因は不明ですが漁船による破損と思われます。このため、ブイのみを甲板に揚げてアンテナを補充するとともに、記録されているデータを取り出すためにデータロガーを交換します。ついでに、気象センサー、海面下20mまでの水中センサー、炭酸ガス濃度測定装置、電源電池、金具類、も交換します。炭酸ガス濃度測定装置の交換のため、JAMSTECむつ研究所からNYさんが乗船します。「かいよう」で初めて行うブイのみを甲板に揚げて行うセンサー等の交換作業の「みらい」での経験者であるYMさんが海洋工学センターから助言・協力のため乗船します。
回収・再設置を予定しているKEOブイは、黒潮続流の南側で2004年から米国大気海洋庁太平洋海洋環境研究所(PMEL/NOAA)によって運用されており、今航海での作業はPMEL/NOAAが経費の一部を負担しています。この作業のため乗船するPMEL/NOAAの顔なじみのRKさんとMSさんは27日からブイの組み立て作業をしていました。
10台のArgoフロートの投入は、ハワイ大学のBQさんの発案で、ワシントン大学のSRさんがフロートを提供して行います。ワシントン大学技術者のRRさんが27日からこのフロートの調整作業をしていました。1日午後の積み込み後の確認を終えて、彼は帰りました。BQさんからは、航海中、ハワイから黒潮続流の流路の最新情報が送られてくることになっています。
漂流式GPS波浪観測ブイとは、波とともに上下するブイに取り付けたGPSで波の上下動を測定する装置です。このブイの投入は東大のWTさんが代表となって進められている外洋巨大波浪研究および地球環境フロンティア研究システム(地フロ)のMYさんが進めている波浪予測数値モデル開発の一環として行う作業で、このために地フロからTHさんが乗船します。
海上気象・海面水温観測は観測センターのAKさんの依頼により、2月に予定している「かいよう」による熱帯域でのTRITONブイ回収・設置航海の準備の一環として行われます。
これらの観測作業を支援するために、合計8名の観測技術員が乗船します。この中には、私の大学教員時代の教え子であるUHさん、MHさん、ORさん、TTさんが含まれています。皆、学生時代の私の厳しい指導を思い出して、ちょっと緊張しているかもしれません。
乗船研究者9名、観測技術員8名が船長以下27名の乗組員とともに今日から17日間の観測航海で苦楽を共にすることになります。今のところ、天候は安定しており、上に述べた全ての観測と作業を実施できることを期待していますが、昨年の例もあり、安心はできません。
気をつけて行ってきてください。
ところで、このような観測や修理の費用はどこから出ているのでしょうか。増えているのでしょか。減っているのでしょうか。諸外国に比べて多いのでしょうか。お金の制約がなければ、hiroichiさんは何がしたいですか。それには幾ら位かかるのですか。
時間があるときに、ブログで説明してください。
何とか航海を終えました。さすがに今航海は、気の休まる時がなく、疲れました。
>このような観測や修理の費用はどこから出ているのでしょうか。
今回の観測を含めた独立行政法人海洋研究開発機構における研究開発に要する経費の多くは国からの運営交付金で賄われています。
>増えているのでしょか。減っているのでしょうか。
独立行政法人海洋研究開発機構全体への運営交付金は横ばいまたは微減ですが、私のグループが所属するプログラム(3グループ)への平成20年度当初実施予算額は平成17年度比15%減です。
>諸外国に比べて多いのでしょうか。
比較対象・分野によって異なると思いますが、海洋学分野の国全体の研究費は、昔から米国に比べて圧倒的に低額です。
>お金の制約がなければ、hiroichiさんは何がしたいですか。それには幾ら位かかるのですか。
私の夢は、現在の気象観測網と同じような海洋観測網を世界の海にに展開し、気象観測網、人工衛星でのデータと合わせて、数か月から半年先の大気・海洋における変動現象を高い精度で予測することです。私は、この夢の実現に向かって少しでも近づけたら良い思っています(このことを目的の一つとして、Global Earth Obssrvation System of Systems, GEOSS, の第1期10年計画が既に進行中で、種々の行動が世界各国でとられていますが、私の理想には程遠いと感じています)。
絶えず変動を繰り返している大気海洋変動システムについての理解を深め、数値予測モデルの検証と改良を進めるのに必要な観測システムを開発・維持・管理するためには、多くの人手と膨大な経費が必要です。たとえば、現在、ほぼ開発済のK-TRITONブイを北太平洋の3か所に5年間展開するだけでも、船舶運航経費を除いた経費の総額は約4億円に達します。