29日に配信されたScience最新号のeditorial「Academies Active in Education(学界の教育活動)」で、IAP(InterAcademy Panel on International Issues、国際問題に関するインターアカデミー パネル)の Science Education Program(理科教育プログラム)のコーディネーターであるJorge E. Allende氏が、IAPの主導の下で2000年から世界各国での普及が展開されているInquiry-based science educationに言及しているのを読んだ。なお、Inquiry-based science educationの日本語訳は、千葉大学の自然科学教育論(担当:藤田剛志さん)のシラバスによると、「探究を基盤とする理科教育」のようである。
IAPの日本における対応組織は日本学術会議である。しかし、Inquiry-based science educationに言及している日本語のサイトをGoogleで検索したが、AMAZONで関連英文図書がトップになっていて、その内容や日本における組織的な活動の情報はほとんどなかった。
ちょっと長いが、Allende氏の寄稿の冒頭を以下に引用する。
Sustainable socioeconomic and cultural development requires nations with a citizenry that understands science, shares its values, and uses scientific critical thinking. This can best be attained through science education that is based on inquiry, an approach that reproduces in the classroom the learning process of scientists: formulating questions, doing experiments, collecting and comparing data, reaching conclusions, and extrapolating these findings to more general situations.
ここでは、「探究を基盤とする理科教育」とは、疑問を定式化し、実験を行い、データを収集・比較し、結論を得て、それらの発見をより一般化するという、科学者の研究手法を教室で再現する教育法である説明している。なお、「科学リテラシーの普及が日本を変える」と考えている管理人にとって、特に「科学的な批判的思考方法を用いる」ことが市民に求められていることに強く同意する。
Allende氏は最後に、
The efforts of the world's science academies in promoting inquiry-based science education are relatively new. But these efforts are necessary if we want to instill in future generations a fascination with scientific discovery and a firm understanding and appreciation of scientific endeavors.と、科学的発見の楽しさと科学的営みについての確たる理解と認識を次世代に伝えるためには、「探究を基盤とする理科教育」を推進する必要があることを述べている。
日本学術会議はこのような「探究を基盤とする理科教育」の普及にどのように取り組んでいるのだろうか? ネット検索では、何も見えない。
日本学術会議は科学リテラシー普及活動として「科学技術の智」プロジェクトを実施した答えるのかもしれない。しかし、その総合報告の要約では、
科学技術の智プロジェクトは、これまで人類が蓄積してきた智を踏まえた上で、21世紀を心豊かに生きるにあたり、「持続可能な民主的社会」を構築するために万人が共有してほしい科学技術の智を検討し成文化することを目的として行われた。と述べられている。この要約からは、このプロジェクトには世界各国が進めている「探究を基盤とする理科教育」の普及という観点が全く抜けているように思う。
ここでの科学技術の智(または、科学技術リテラシー)とは、「すべての大人が身に付けてほしい科学・数学・技術に関係した知識・技能・物の見方」である。
「ゆとり」教育路線を修正した新学習指導要領でどこまで「探究を基盤とする理科教育」が取り入れられているのか不安である。このままでは、日本の理科教育は世界の趨勢から取り残されることを危惧する。
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