海面上昇も、IPCCの予測では2100年で30cm程度で、日本の干満の差(最大約2m)に比べても問題にならない。この認識には、以下に述べるように重大な誤りがある。
1.干満差
海洋潮汐(かいようちょうせき)とは、主に月と太陽が地球に及ぼす起潮力(引力と遠心力の合力)と地球自転により、海面が約半日周期で規則正しく上下する現象である(平衡潮汐論:この話はちょっと難しいので詳細は略)。ただし、実際の潮汐は海底地形や陸岸地形の影響を受けて単純ではない。実際の潮位は各検潮所に設置された潮位計(周期が短い風波やウネリ成分を除いた長周期変動成分のみを測定)で時々刻々と測定される海面の高さ(水位)の基準面からの偏差である。基準面は各検潮所別に定められている。この観測値を基に各地(港)の潮汐が予測されている。この予測潮位と実際の潮位の差が、低気圧や沖合の流れの影響を受けて大きい場合を異常潮位と呼ぶ。
潮位が極小になる時を干潮(かんちょう)、極大になる時を満潮(まんちょう)という。干潮時の潮位と満潮時の潮位の差を潮位差(干満差)と呼ぶ。干満差は、ほぼ15日周期で月と太陽の影響が強めあう満月時と新月時に最大となる。これを大潮(おおしお)と呼ぶ。また、干満差は、地球が太陽に最も近づく春の大潮と秋の大潮に年間で最大となる(この時期前後に潮干狩りが盛んに行われる)。
2.海面上昇の影響
地球温暖化の影響の一つとして述べられている海面上昇における海面とは、約半日周期で変動する潮位の干満差ではなく、約半日周期で変動する潮位成分を除いた平均水位である。したがって、干満差と海面上昇とを比較することは全く意味のないことであり、池田さんの記述は大きな間違いである。
30cmの海面上昇が生じた場合には、満潮時と干潮時の潮位も各々30cm上昇する。現在でも、異常潮位のために、冠水する地域がある。防潮堤が現状のままで海面上昇が生じると、冠水する地域は格段に増加するであろう。なお、干満差と海面上昇量の比較は誤りだとしても、「高々30cmの海面上昇を避けるために、あるいは、本当に30cm上昇するかどうか分からないのに、温暖化防止策を推進するのは意味がない」という主張もあると思う。このことは「地球温暖化の社会・経済問題」であり、「地球温暖化の科学的問題」とは明確に切り離して議論を進めるべきと思う。
3.未来の子供たちのために
地球温暖化に関わる自然科学者は、国民および政策担当者に選択の為の判断材料を、その不確実性や誤差を含めて提供することと、その不確実性をできるだけ小さくするように努力を続けることを通して、社会に貢献することが職務と思う。また、政策立案担当者は、科学的結論の多くはその時点でのベストではあっても真実であることは保障されていないことを念頭に、提供された判断材料を、その不確実性や誤差を含めて検討し、未来の子供たちのための現時点でのベストの政策を選択する必要がある。
地球温暖化に関わる自然科学者が社会・経済問題に関心を持ち、人類の一員として発言することは重要である。しかし、「科学は本質的に宗教であり、政治なのだ」ということは決してない。社会・経済問題について専門外である自分の信念を自然科学者の権威を盾に正当化したり、地位や名声を得るために大衆や権力に迎合することはあってはならない。また、社会・経済問題である政策決定の権威付けに自然科学者の権威が利用されてはならないと考える。
読書は好きな方なのですが、時間がなく、積読が増えています。海洋SF「深海のyrr」のご紹介をありがとうございました。久々の大型海洋関連SFの登場で、これを契機に海への関心が高まることを願っています。
佐藤秀 様
コメントをありがとうございました。
佐藤さんが推定される意図が池田さんにあったのか、否かについては、私からどうお答えしたら良いのか、分かりません。
私は、海面上昇と干満差を比較することの誤りを指摘しました。池田さんは「大潮の時にもプラス30センチになること」を否定はしていませんが、肯定もしていません。というか、「このことに頓着していない」と私は理解ました。これが私の誤解であったなら、池田さんからご指摘、修正要求があると思いますが・・・
まじめにお応えすることを求められているのか疑問ですが、まじめに答えてみます。
繰り返しますが、私は、海面上昇と干満差を比較することの誤りを指摘しただけで、30cmの海面上昇の予測値を支持している訳ではありません。海水温の上昇と氷床の融解で海面が上昇するのは確かですが、100年後の海面上昇が30cmになるというのは数値予測モデル計算の結果の一つに過ぎません。海面上昇量は二酸化炭素負荷のシナリオとモデルの予測精度に大きく依存します。専門家は、この予測精度の向上の努力を続けますが、非専門家の人はモデル結果を無批判に鵜呑みにして「はやく何とかしてください」と叫ぶのではなくて、温暖化に伴う危機から自分(と家族、社会)の生活を守るために何をどうするのが一番良いのかを考え、行動するしかないと思います。
メーカーに踊らされないために、冷蔵庫やクーラーを省エネタイプに換えることが本当に良いことなのかどうかを冷静に考えてください。月々の電気代を考えるとプラス面しか見えませんが、製造・販売・輸送・廃棄に関わる環境負荷や今後の技術開発を考えると答えは簡単ではありません(既に老朽化した機器は早く交換するのが当然ですが・・・)。
コメントをありがとうございました。
>海水を大きな入れ物に入れて沸騰させます。そうすれば、水蒸気から水滴が出て水が出来ます。なくなった海水は塩になるから一石二鳥だと思います。それを何回かすれば海面上昇は防げると思います。この方法、使えますか?
海面上昇を気にかけ、どうしたら止めることができるのかを日頃から考えることは大事なことと思います。しかし、ご提案の方法は使えません。
理由としては、以下のことが挙げられます。
1)一部の海域で海水を沸騰させてできた水蒸気は地上のどこかで降水となり、最終的に海に戻るとすると、一部の海域を沸騰させても地球全体の海面上昇を止めることにはなりません。
2)一部の海域で海水を沸騰させてできた水蒸気が全て大気中に留まるとすると、水蒸気は温室効果ガスの一つですので、温暖化が一段と進み、海面上昇以外(例えば農業)への影響が格段に強まります。
3)広い海域の多量の海水を沸騰させるのには、人類が調達するのが不可能なほどの膨大なエネルギーが必要です。
私は、海面上昇を止めるには、基本的には、その原因である海水温度の上昇と大陸氷床の融解の両方を止めるしかないと思っています。こう考えると、海面上昇を止めるには、地球温暖化を止めるしかないように思えます。しかし、地球温暖化を止めても、すぐに、それまでに上昇した海面の高さが元に戻ることはありません。
他の考え方としては、海面上昇の速さを遅くすることはできても、海面上昇を止めることをあきらめて、海面上昇の対策(防潮堤の嵩上げや生活地域の移動)を計画的に進めるという立場があります。そのためには、いつ、どこで、どの程度、海面が上昇するのかを予測する必要があります。しかし、その予測の精度が十分に高いとは言えないのが現状であり、その予測精度向上の努力が、多くの研究者によって続けられています(私もモデルの検証に必要な現場観測データ収集の面で参加しています)。
>また別の方法を独自で考えます。
人類が直面する地球環境問題を解決するために、自然を改造する方法を考え出そうとするアッシュさんの姿勢に敬意を表します。しかし、自然現象は種々の要因が複雑に関連し合っており、一つの方策が思いもよらぬ結果を招く恐れが多分にあります。思いもかけぬ結果を招くことを避けるためには、自然が変わるカラクリを深く理解しておく必要があります。現在では、まだ地球環境変動のカラクリには未解明な問題が数多くあります。したがって、対症療法的な自然改造計画を立案するのではなくて、地球環境変動の未解明なカラクリを一つずつ地道に解明していくのが先決と私は考えています。
コメント欄に
「海水温の上昇と氷床の融解で海面が上昇するのは確かですが・・・」
とありますが,
「海水温の上昇」については,海水温の上昇により海水が膨張し,結果として海面が上昇する,との解釈で間違いないでしょうか?
もう1点。
「氷床の融解」についてですが,なぜ氷床の融解により海面が上昇するのでしょうか?
アルキメデスの法則より,氷床の融解により海面上昇することはないと認識しています。
南極大陸上の氷床に限っての話なのでしょうか?
ご質問をありがとうございました。
>「海水温の上昇」については,海水温の上昇により海水が膨張し,結果として海面が上昇する,との解釈で間違いないでしょうか?
はい、MJさんの解釈で間違いはありません。
>アルキメデスの法則より,氷床の融解により海面上昇することはないと認識しています。
不親切な説明でした。
氷床とは陸を広範囲に覆っている氷です。現在は南極とグリーンランドにのみ存在しています。
氷床はその定義が陸上の氷なので、溶ければ、確実に海面上昇を招きます。
なお、ちょっと複雑ですが、厳密には、海面に浮いている氷(海氷)が溶ける場合にも、氷床ほどではありませんが海面は上昇します。
「真水を凍らせてできた氷」が溶けて水になった時の密度(1立法メートル当たりの質量)は元の真水の密度と同じです。この場合には、真水に浮いている氷が溶けても水面は上昇しません。
しかし、海水が凍る時には海水中の真水のみが凍り、塩類の多くが抽出されています。このため、海氷が溶けてできる水の塩分は、この海氷が浮いている海水の塩分より低くなります。塩分が低いほど海水密度も小さくなるので、海氷が溶けてできる水の密度は海氷が浮いていた海水の密度より小さくなります。この密度の違いのため、海氷が溶ける(できる)と海面は上昇(下降)します(真水の場合は、密度が同じなので水面は変化しません)。
言いかえると、氷が溶けてできた低塩分の水と海氷が浮いていた周囲の高塩分な海水が混ざることで元の海水の密度は下がります。これは熱膨張で海水密度が下がるのと結果として同じであり、海面上昇を招きます。
ただし、軽い海水は重い海水の上を速やかに広がるので、現実の海でこの影響がどのように現れるのかはまだ十分に分かっていないと思います。