13時15分からの北原和夫さんの基調講演は「科学技術の智」プロジェクトの概要と「21世紀の科学技術リテラシー像」であった。ご自分の略歴の紹介を通して、このプロジェクト開始に至る個人的動機の説明の後、配布された総合報告書概要に沿った話が始まった。
ブログ「SciencePortal担当です。」の記事「【その他】根っこがほしい」のコメント欄で管理人のMiWさんが、
このブログを読んだ方から「科学技術の知」ではなく「科学技術の智」であるところがポイントなんだよーとメッセージをいただきました。と述べていることから、「科学技術の智」が「科学技術の基礎知識」とどのように異なるのか、明確な説明があることを期待した。
しかし、「文字で表された基礎知識に、文字では表わされない身に付いた考え方・直感を加えたもの」という説明や、「7つの領域は別々のものではなく、科学技術の智に至る扉である」という説明しかなかった。
帰宅後にプロジェクトのホームページをチェックしたが、総合報告書がアップされていなかった。配布された総合報告概要を読む限りでは、どこまで、基礎知識の羅列から脱却しているのか、管理人には理解できなかった。これは、多分、「科学技術の智」プロジェクトが「日本人が身に付けるべき科学技術の基礎的素養に関する調査研究」プロジェクトの略称であって、総合報告概要が時間が限られている中で数多くの関係者(大部分が各分野の研究者と思われる)の熱心な議論を経た最大公約数的な結論であることが原因であろう。
なお、「科学技術の智」プロジェクトでは日本の将来像を以下のようなものと考えていると、概要には述べられている。
(1)社会の構成員一人ひとりがかけがえのない存在として認められること。このような将来像を掲げることは重要であるとは思う。しかし、この将来像から遠く懸け離れた現在の日本の状況を推し進めている政府に、文部科学省から支援を受けていて、また出席していた遠山元文部科学大臣のコメントを有難く頂戴するような人たちが対抗できるのか、甚だ疑問に思った。
(2)社会の構成員のすべてが地球という環境を慈しみつつ持続可能な社会を実現するための叡智を共有して活動を起こせること。
(3)社会のあり方として、若者が将来への希望を抱きつつ文化を継承していけるシステムが有効に稼動していること。
14時からのパネルディスカッション第2部では、藤垣裕子さんの進行で、初めに6つの平成17年度採択研究開発プロジェクトの成果概要が各研究代表者によって各々、約10分間ずつ行われた。その後、15分の休憩を挟んで、科学技術リテラシーの目指すところや今後の展望について、7名のパネラー(6名の研究代表者と北原さん)の意見表明とフロアーとの質疑応答があった。
フロアーからコメントの中では「科学リテラシー普及に取り組んできた英国での経験からは、「科学技術の智」の普及よりも、研究者あるいは研究機関への信頼を市民から得ること、情報の信頼性を確保することの方が重要であるといえる」というコメントが特に強く印象に残った。しかし、このコメントを含めた種々の問題についてのさらなる議論はほとんど行われなかったように感じられた。これは、時間的制約から仕方がなかったのかもしれないが、あまりにも問題が山積していて、合意を形成する意欲もなかったことも原因だろう。
成果概要報告は、いずれも、科学技術リテラシーの向上普及の実践活動報告であり、基調報告に比べて個性溢れる内容であった。この中で、管理人は、特に、松井博和さんの「研究者の社会リテラシーと非専門家の科学リテラシーの向上」と題する、北海道における「遺伝子組換え作物」に関わる利害関係者間に横たわる相互理解の不足を埋めるための双方向対話の実践報告に強く感銘を受けた。
今回のシンポジウムに参加して、英国では、今や「科学リテラシーの普及」から「パブリックエンゲージメント」へと運動の重心が移っていることを知ったのは収穫であった。しかし、「科学リテラシーの普及が日本を変える」と考えている管理人にとって、「科学技術の智」プロジェクトへの参加者の中でも科学リテラシーについての共通認識が確立していないことを知り、愕然とした。科学リテラシーについて種々の考えがあるなかで、前へ進むためにとりあえず「基礎的素養」をまとめたというのが「科学技術の智」プロジェクトなのだろう。このままでは、「科学技術の智」プロジェクト参加者を含めた研究者(専門家)は市民(非専門家)の信頼を失うばかりである。
おそらく、独立系サイエンスカフェにおける双方向対話等によって、市民(非専門家)と研究者(専門家)が協働して「市民のための科学リテラシー」の概念を確立する必要があるのだろう。ともあれ、一人でも多くの人が、焦らず、できることから、地道に、行動・発言していくしかないと思う。
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