はじめに、先のエントリーでは、12月8日に開催された第12回教科「理科」関連学会協議会 [CSERS] シンポジウム「市民として身につけるべき科学リテラシー」で国立教育政策研究所の小倉康さんによって配布された資料には、「科学リテラシーの3つの構成要素である「科学的な能力」、「科学の知識」、「科学についての知識」の各々のカテゴリーの詳細が示されている」と述べたが、これは厳密性に欠けた表現であったことをお詫びして、以下のように訂正します。
配布資料の図1にはPISA2006における科学の評価の枠組みとして、科学的リテラシーを構成する「科学とテクノロジーが関係する生活場面(状況・文脈)」、「科学的能力」、「科学的知識(科学の知識と科学についての知識)」、「科学の諸問題への対応(態度)」の4つの要素とそれらの関係が示されている。さらに、図2には、個人的、社会的および地球的な「状況・文脈」の各々の詳細、図3には「科学的能力」の詳細、図4には「科学についての知識」のカテゴリー、図5には「科学の知識」のカテゴリー、図6には「態度」の評価のための「科学への興味」、「科学的探究を支持する」および「資源と環境に対する責任」の3つの領域の各々の詳細が示されている。
さて、図4に示されている「科学についての知識」のカテゴリーとその概略は以下の通りである(赤字は筆者が加筆)。
科学的探究上に示されたカテゴリー区分とその概略は科学自体の特徴を良く表現しているようには思う。ただし、筆者の記述(赤字部分)を加えても、一般の人が上の表のみから科学自体についての知識を身に付けるのは難しいようにも思う。
・発端(例:好奇心、科学的疑問)
・目的(例:科学的な疑問に答えるのに役立つ証拠を得ること、探求を方向付ける今日的な発想やモデルや理論を提案または検証すること)
・実験(例:異なる疑問が、異なる科学的調査を提案あるいは実験計画を立案・実施すること)
・データのタイプ(例:定量的[測定]、定性的[観察]の違い)
・測定(例:固有の不確実性(実験誤差)、複製(再現、追試)可能性、変動(変異)性、装置と手順の正確性(系統誤差)と精度(測定誤差))
・結果の特性(例:実験的、試験的、検証可能な、反証可能な、自己修正的(必ずしも正しいとは限らない。検証・修正・改良作業の継続が必要))
科学的説明
・タイプ(例:仮設、理論、モデル、法則、の違い)
・構成(例:データの表現(観測・実験データの解析結果の適切な提示)、既存の知識と新たな証拠の役割(矛盾しない、補完)、研究者の創造性と想像力、論理)
・ルール(例:論理的に一貫しなければならない、証拠に基づく、歴史的知識と今日的知識(矛盾しない、補完))
・成果(例:新しい知識の生成、新しい手法、新しいテクノロジー、新しい疑問と調査を導く(不完全な箇所の提示))
「科学についての知識」を理解する手助けとして、以下に、地球温暖化予測に即して、科学的探究の具体的な進め方の概略を述べてみる。
a.発端:なお、人為的二酸化炭素の地球温暖化原因説の肯定派と懐疑派の各々の科学者間の科学的論争は、主としてc2で述べられている多くの仮設の各々の妥当性をめぐって行われている。また、現在までに得られている温暖化予測モデルの計算結果についてはdに述べた「結果の特性」を有していることが広く認識されている必要がある(このことについては、拙ブログのエントリー「「地球温暖化のメカニズムの嘘」について」も参照)。
将来、地球の気温はどの程度上昇するのかを明らかにしたい。
b.目的:
数値予測モデルを開発して、地球温暖化の程度を予測する。
c.実施(実験、データのタイプ、測定):
1)過去の状況(気温の長期変動とそれに関連すると思われる各要素の変動)を,測定機器・観測点分布の変遷などによる誤差を含めて把握する。
2)過去の状況を整理して,過去の気温変動を説明する主な要因を取り入れた仮説(概念モデル)を研究者の創造性と想像力により構築する。
3)仮説に基いた数値予測モデルを作成する。
4)作成した数値予測モデルによって過去の気温変化が再現されることを確認する。
4a)過去の気温変化の再現ができない場合には,研究者の創造性と想像力により、新たな概念モデルの作成や新たな数値予測モデル計算方法の開発を行う。
5)現在までの数値モデル計算を将来まで延長して,将来を誤差を含めて予測する.
d.結果の特性:
1)今後の観測によって数値予測モデルの計算結果は検証される必要がある。
2)予測は、過去の気温変動メカニズムが将来も継続するとの前提で行われており、将来の気温変動には想定外の要因が大きく関係する可能性がある。
3)予測結果は数値予測モデルの基となった概念モデルのみならず、将来の炭酸ガス排出量その他の外的条件の設定に大きく依存する。
4)新たな要素の変動の資料や,新たな方法による資料解析により、新たな概念モデルを作成する必要が生じる可能性がある。
日本における昨今の「ニセ科学」の蔓延は、上の表の「測定」、「結果の特性」および「ルール」についての知識が特に普及していないために、見せかけの科学的「測定」で得られたデータから「ルール」を無視して示された結果が、「結果の特性」についての認識を持たない多くの人に安易に受け入れられてしまっていることが原因と思われる。
種々の「科学についての知識」のカテゴリーの中で、特に「結果の特性」が、その中でも科学的結果は必ずしも正しいとは限らない。検証・修正・改良作業の継続が必要であることが多くの人々に理解されることが重要であると思う。
優れた科学者は自分の説(理解)を常に謙虚に疑っている。異論・反論を唱える同業者と議論を繰り返すことで、真理の理解がさらに深まることを知っている。この知識が広く共有されて、「権威」を振りかざしたり、大衆に迎合するニセ専門家の発言を鵜呑みにすることなく、豊かな想像力を持って、科学のみならず社会を含めた種々の事柄を「自分の頭で考える」人が増えれば、世の中はもっと住み易くなると思うだが...