「ゴンゴン」さんのバックグランドが分からないので、MANTAさんおよび「かがっきーず」の回答が適切なのか不明だが、30年前の学位論文で「風波の発達機構」を論じた者として、以下に補足します(以下の説明は、厳密ではありません。一見、あたりまえと思うことでも、突き詰めると複雑であることと、そのカラクリの面白さを感じていただければ幸いです)。
風が吹くと波が立つことは誰でも知っていると思います。このような、その直上を吹く風によって起こされる波は、風浪(ふうろう)または風波(かざなみ)、英語ではWind Waveと呼ばれています。海面の波は波高、波長、周期で特徴付けられています。複雑に上下に動いている海面の波は、各々が異なる波高と周期(波長と周期の間には一定の関係があります)を持つ多くの成分波が重ね合わさったもの(波長の長い波の上に、波長の短い波が重なっている状態)と捉えられています。
誰でも目にする海の波については、19世紀から多くの科学者(数学者を含む)の興味を引いてきました。その結果、波長と周期の間の関係など多くのことが分かってきて、数値波浪予報も実用化されています。第2次世界大戦でのノルマンディー上陸作戦成功には、当時としては画期的な波浪予測手法の開発が大きく寄与したとの話があります。しかし、その減衰過程を含めてまだ完全には解明されていません。
数多くの観測結果から、風が強いほど、定点では風が吹き続ける経過時間(吸送時間)が長いほど、ある瞬間では風が吹き続ける距離(吸送距離)が長いほど、風波の卓越成分波(多くの成分波のなかで波高が他より大きくて目立つ成分波)の波長が長くなる(周期が長くなる)という関係が明瞭にあることが知られています。
でも、風は海面にほぼ平行に吹いていますから、単純に考えると、このままでは海面の鉛直運動を引き起こしません。それにも関らず、なぜ、このように風速と卓越成分波の波高との間には明瞭な関係があるのでしょうか?
このような風波の発達機構として、現在、以下のように考えられています。
1)風波の発生
波のない平滑な海面上を吹く風によって、種々の周期の微小な大気圧(海面を下方に押す力)の変動が海面に加えられる。海面の一部が周囲より強く下方に押されると凹み、次にその凹みを解消しすぎて海面が盛り上がるという微小な海面の上下動(波)が始まります(ここは津波と同じです)。
2)大気圧変動と初期海面変動との共鳴
微小な大気圧変動は風とともに移動します。微小な海面変動は海面上をその変動の周期(波長)に制約される速さで移動します。この過程で海面が下がるところで大気圧が大きく、海面が上がるところで大気圧が小さいとき(微小な大気圧変動と海面変位が共鳴したとき)には、海面変位がさらに変化し、その結果として、波の波高はさらに大きくなります。
3)形状抵抗による発達
ある程度波高が大きい波の上を、波の移動速度より速い風が吹いているときには、波の後面での気圧が前面より大きくなります。すなわち、波は後から風の力を受け、その結果、波高はさらに大きくなります。
4)砕波
発達した各成分波はその波高が大きいほど風からの力を受けて発達します。しかし、ある限界を超えると砕波して、波の性質を失い(周期が無限大となり)、流れになります。
5)成分波間の相互作用
発達した各成分波は種々の方向に伝わります。その結果、ある特定の関係にある複数の成分波間で一方が他方を強める相互作用が働きます。その結果、現在の卓越成分波が受ける風の効果が、より周期の長い成分波の発達を引き起こします。
6)減衰
ある卓越成分波が存在する海面上の風が弱くなると、あるいは風のない海域へ伝わると、各成分波の波高は小さくなります。波高の減り方は周期が短い(波長が短い)ほど大きいので、減衰が進むと、長周期成分のみが残り、ウネリとなります。
以上に述べた説明は、詳細な観察に基く風波の発生発達理論の提案,その理論の不十分性を指摘する実験結果の提出,その実験結果を含めた新たな理論の提案という段階を経て発展してきた結果です。その後、この風波の発達機構の研究が基となって、人工衛星による海上風の測定技術が開発されています。ただし、現在も、砕波、減衰、流れとの関係の詳細は未解決であると私は思っています。
テラフォーミング、惑星科学という考え方もあるので、こういう地球の自然に関する仕組みには宇宙に関する私のブログでも無視しないようにしています。(背伸びし過ぎない程度ですが・・・)
とても参考になるページ、「こどものための科学のページ かがっきーず(So-net)」を紹介しているので、興味深く拝見しました。
一言で波といっても呼び方も違えば、発生の仕組みも複雑なんですね。
「こどものための科学のページ かがっきーず(So-net)」の海の波の説明は間違ってはいないのですが、「なぜ風が波を起こすのか」という疑問には十分に答えていないように思い、敢えて詳しい説明を試みました。
「なぜ? どうして?」という疑問をシツコク追及していって、「なるほど、そうなのか!」と分かる楽しさを伝えたいと思ってはいますが、説明が独りよがりに陥っているのではと危惧もしています。
今夜のフジTVの「熱血!平成教育学院」でも、波が海岸に近づいてくるにつれて海岸に平行になる理由を問う問題が出されていました。身近な海の波について、一歩踏み込んだ解説を当ブログで今後続けたいと思っています。
昨日の「海岸近くの波」はたまたま私も見ていました。CGだけじゃなく、実験映像も扱っていたことに好感を持ちました。
>昨日の「海岸近くの波」はたまたま私も見ていました。CGだけじゃなく、実験映像も扱っていたことに好感を持ちました。
時間がないので仕方がなかったとは思いますが、「なぜ、水深が深いところの波の速さは浅いところより速いのか」の説明があれば、もっと良かったと私は思いました。
遅まきながらMANTAさんのブログ「海の研究者」へのリンクを貼らせていただきました。今後とも、宜しくお願いします。