2007年08月04日

研究意欲

9月の航海に関する準備作業の合間を縫って、8月1日午後に国連大学で開催された開催独立行政法人海洋研究開発機構「地球環境シリーズ」講演会「海から知る地球温暖化~IPCC温暖化予測と海洋研究~」に16時頃から参加した。この講演会の最後の質疑応答で、司会のNHK解説主幹室山哲也さんから地球温暖化についての研究を行っている講演者に「地球温暖化研究を行う動機は何か」というような意味の質問があった。時間がなく十分に議論を深めることはできなかったが、研究者と一般参加者との間の「溝」を埋める試みとしては良い話題設定だったと思う。地球温暖化に限らず、各研究者が何を目指して研究しているのかを生の言葉で語ることが、社会と科学の結びつきをより確かなものにすると思う。

これに関連して、7月22日のブログ「柳田充弘の休憩時間」に、Nature誌が掲載した天皇陛下の英国におけるリンネ協会での講演要旨に関連しついて、以下の記述がある。

陛下は以下のように述べておられます。

I am glad that I have been able to make some contribution in this field.

ここで陛下がお書きになられていることが、まさに研究者のひとりひとりが願っていることでして、その願いが達成されたときに得る喜びこそがまさに研究者であることの喜びなのだとおもいます。
この「研究の喜び」は、私が以前に述べたこととほぼ同じである。

とは言え、柳田さんは7月25日のエントリーで、研究者の意欲と研究者のもつ倫理観、研究者のおかれた環境の間の関連について、
研究者の意欲というものをひと言で片付けるのは問題ですが、しかし話しを簡単にするためにいいますと、なんらかの自己のもっている願望を長期にわたる努力や苦労をものともせずに達成したい、そういうものだとおもいます。別なことばでさらに簡単に言いますと、自己実現のための意欲といっていい場合が多いのだと思います。
と述べ、
一部の研究者が
研究費があたりやすい研究プロジェクトを選ぶ
研究職が得られやすい研究分野を選ぶ
有名ジャーナルに論文が発表されやすい、研究環境を選ぶ
そして、これらが彼等の基本的な「研究倫理」になってしまったら、どうなるのでしょうか.
彼等を責めることは容易にはできません。
結果だけ見たら、成功した研究者の多くがこのような結果を生みだしているのです。

研究意欲というのはたしかに、研究者にとって金科玉条かもしれませんが、ほんとうは危ないもの、怪しいものという、側面があることをわれわれは認めなければいけないのだと思います。そうでないと、研究意欲の美名のままに無批判に行政や研究費機関が推奨する研究が横行する可能性があります。
という文で終わっている。

「研究意欲の負の側面」の存在を認識して行動することが必要であることに異論はない。しかし、それだけでは不十分と思う。

研究者に限らず、私たちの各人は自分の人生で最終的に目指すもの(願望)として、何を設定して生きていくのか、あるいは自己実現を内容、について問う必要があると思う。
そりゃさ、同じ分野の研究者とは競争して勝ちたいさ(← 当然)。
という大学教員いる。競争に勝って、最終的に何を得たいのだろうか? 
何にしても、安いものを買って来て高く売る、という行動が悪いはずがない。本来の価値に気がつかなかった人は能力(運を含む)がなかったのだし、本来の価値に気がついた人は能力が高かったに過ぎない。そして、能力が高い人が儲けるのは資本主義社会では非常に普通の話である。
というIT企業の社長がいる。大金を儲けて何をしたいのだろうか?

分野・職の境を越えて、他人の役に立ちたいと思う人が増えれば、世の中はもっと住みやすくなると思うのだが・・・
posted by hiroichi at 03:25| Comment(3) | TrackBack(0) | 雑感 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
少し誤解されている気がしますが・・・「そりゃさ、同じ分野の研究者とは競争して勝ちたいさ(← 当然)」という気持ちの真意としては、最終的に得たい物があるわけではないです。あえて言うなら、私の場合は、患者に役に立つ材料、でしょうか。自分が作った材料で医療に貢献したい、それだけです。貢献できるような材料を、誰よりも早く作りたいです。早ければ早いほど、助かる患者が増えるからです。その「早く」を、前述の「競争」という言葉で表現しました。「1番になりたくて研究している」という意味ではないですよ。早さで考えて2番でも3番でもいいです。性能で考えて2番でも3番でもいいです。「なるべく」早く、「なるべく」高性能な材料の開発・・それだけを目指しています。それが私にとっての(自分の中で、そして、研究分野での)競争であり、結果として、社会に貢献できるのだと考えています。そのIT企業の社長と同列で論じられると、残念です。
Posted by yoshi at 2007年08月14日 01:42
yoshi様
詳しい補足説明をありがとうございました。

私は、「競争に勝つ」ことにこだわる人が増えた結果として、今の世の中が住みにくくなっていると考えていますので、yoshiさんのエントリー<http://blog.goo.ne.jp/y-mrkm/e/cd52e6dd95e0037a73f3e6af1fdb9756>を拝見して、「競争に勝ちたいのは当然」という個所が気になりました。ただし、このことについてyoshiさんと深く議論するつもりはなかったので、リンクを貼らず、またTBをせずに引用しました。思いもよらず、yoshiさんから直接コメントをいただき、恐縮しております。

社会貢献を目指しているという補足説明を拝見して、私の読みの浅さを反省しています。yoshiさんの研究を通した社会貢献の心意気を学生に明確にお伝えください。そういう大学教員に身近に接することで、社会貢献を考えながら自分の人生目標を見直す学生が増えることを願っています。
Posted by hiroichi at 2007年08月14日 18:34
いえいえ、私の書き方が良くなかった(不充分だった)んだと思います。確かに、私の元のエントリーの書き方では、誤解が生じますね・・・今後は気を付けなきゃな、と感じています。

アカデミックサイドからのブログでの情報発信は、まだまだ少ないと思います。先生もぜひブログを続けて(立ち上げを迷われたようですが・・・)、海洋学の魅力を伝えてください。
Posted by yoshi at 2007年08月14日 23:08
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