ある種の魚には、その発育段階別、生活年周期別に「最適水温」帯があることが知られている。したがって、南方系の魚が北の海に現れる今回の異変の一部の主な直接的は原因は海水温の上昇であると考えられる。ただし、その仕組みの詳細はまだ十分に解明されていないが、地球温暖化は、海水温のみならず、流れや餌の環境、その他の魚類の生理生態の支配要因にも影響を及ぼすと考えられており、放送された「海の異変」の全てが海水温の変化のみで説明できるとは限らない。
海上保安庁海洋情報部の海洋速報によると、6月25日頃から7月13日頃には黒潮源流域である台湾東方の北緯24度付近の海面水温は30℃を超えていた(補足参照)。海洋から大気への熱放出量は台風のエネルギー源となる。海面熱放出量(海洋による大気の加熱量=大気による海洋の冷却量)は、風速・湿度・気温が同じ場合には海面水温が高いほど大きい。台風4号が7月に日本に上陸した台風としては史上最強であった理由の一つとして、上に述べた日本南方の海面水温が高温であったことである可能性が一部で指摘されている。世界の海で水温が最も高い太平洋西部赤道域暖水プールの海面水温は従来は30℃を超えることがなかったが、近年では頻繁に30℃を超えている。サンゴの白化現象の有力な原因として、水温が30℃を超えることが挙げられている。
ある場所の表層水温上昇は、その場所に海流などによって高温水が運ばれること、およびその場所の海面における加熱(日射)によって引き起こされる。7月14日付け毎日新聞他で7月の台風発生数が例年より少ないため、台風による表層海水の鉛直混合による水温低下が例年より少ないことを原因とする説が紹介さている。しかし、海水の密度と熱容量が大気に比べて格段に大きいため、台風が海面水温低下に果たす役割は極めて小さい。6月下旬から台湾東方の北緯24度付近の海面水温が30℃を超えた主な原因としては、台風が少なかったことではなくて、雲が少なかったことが考えられる。すなわち、当海域を含めた広い範囲で通常よりも雲による日射の遮蔽効果が減少して加熱量が増加したことが考えられる。この雲の遮蔽効果の減少は地球温暖化の影響である可能性が高いが、詳細は不明である。
日本沿岸では、その表層水温がその沖合を流れる黒潮の影響を大きく受けているところが多い。南から高温水を運んでくる黒潮が岸に近づけば水温は上昇する。また、黒潮が運んでくる海水の温度が高くなれば、沿岸の水温も上昇する。放送された「海の異変」の発生時期などの状況の詳細が不明なため断言できないが、黒潮を含めた海洋循環の変動に伴う海洋環境の変化が、今回の「海の異変」に深く関係している可能性がある(補足参照)。
今年度から、生物生態,異常気象,その他に及ぼす地球温暖化の影響を定量的に評価する数値モデル研究が開始されている。
<補足:7月24日0時35分>
海面水温についての情報は気象庁にもあった筈と思い、探しまくった結果、「日本近海 日別海面水温」というサイトがあった。なお、このデータを含めた海洋関連データは気象庁の海洋のデータバンクで閲覧が可能である。
「日本近海 日別海面水温」図によると、釧路沖では6月半ばには、1971年から2000年の平年値に比べて4℃も高温であった。また、7月1日から13日まで、台湾東方の広い範囲の海面水温が30℃を超えていた。
平年値からの偏差の分布の短期変動を見た限りでは、黒潮を含めた海洋循環の変動に伴う海洋環境の変化と今回の「海の異変」との関連は薄いようである。