2007年07月18日

エチゼンクラゲの大発生と地球温暖化

水産総合研究センターが7月12日のプレスリリースで大型クラゲが「7月下旬頃には九州北部から山陰西部の沿岸に出現すると見込まれます。」との予測結果を発表している。この予測は「これまでに得られた出現情報に基づき、独立行政法人水産総合研究センターが独立行政法人海洋研究開発機構と共同開発した海況予測モデル(FRA-JCOPE)」を用いて予測した結果とのことである。このような予測ができることは、船での目視観測により出現情報を収集した多くの現場担当者の方々の貢献と、顔馴染みのKさんとMさんが開発した海況予測モデルの成果であり、同業者の一人として誇りに思う。

大型クラゲの大発生といえば、先月京都で開催された理学部同窓会で私が関係している地球環境問題との関わりから、このことが話題になったことを思い出した。いわゆる理系人の中でさえ、多くの人がエチゼンクラゲの大発生の原因が地球温暖化と思っていることに驚いた。


詳細は広島大学の上真一教授の解説に詳しいが、今のところ、エチゼンクラゲの大発生の主な原因は地球温暖化による海水温の上昇ではなくて、過剰な漁獲による生態系の破壊と考えられている。上さんは、
今世紀を境としてエチゼンクラゲの大量出現が頻繁化し、同時に大規模化した原因は、本種の故郷である中国沿岸域(すなわち、渤海、黄海、東シナ海)の最近の環境変化に由来していると見ていいだろう。下記のような変化が起こっている。
として、
1)魚類資源の乱獲。
2)温暖化。
3)自然海岸の喪失。
4)食物連鎖構造の変化。
を挙げている。その中で、上さんは、2)については、温暖化発生以前に、瀬戸内海でミズクラゲの大量発生がおきていることから主な原因とは見ていないようである。また、3)と4)は原因である可能性の指摘にとどめている。なお、2)に関して、黄海の年平均水温が1976- 2000年の25年間に1.7℃上昇していることを初めて知った。黄海は最大水深が100m程度であるため、温暖化に伴う冬季の海面冷却の減少の影響を強く受けて、水温が上昇したと考えられる。鹿児島湾の底層水温の年最低値の上昇も確認されている。

「魚類資源の乱獲」がクラゲの大発生を引き起こすストーリーは以下の通りである。
1)大発生以前には共に動物プランクトンを餌とする魚類とクラゲが共存していた(魚類が優勢)。
2)乱獲により動物プランクトンを餌とする魚類が減少したため、クラゲが増加。
3)クラゲは魚卵や仔魚をも捕食するので、一旦クラゲが増加すると魚類の資源回復は益々困難となる。

このような過程を上さんは「クラゲスパイラル仮設」と名付けている。

自然の営みの複雑さには本当に驚かされるとともに、その謎を解き明かしたい気持ちも高まりませんか?

追記
2009年7月13日付けのYAHOO!JAPANニュース(トピックス>サイエンス)の記事「エチゼンクラゲの大発生 温暖化と乱獲原因?」の関連情報として本記事へリンクが張られました。ありがとうございました。

リンク元のYAHOO!JAPANニュースの記事はそのうちに削除されるでしょうから、記念にウェブ魚拓を残しておきます(ここ)。
posted by hiroichi at 02:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 海のこと | 更新情報をチェックする
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