先週末に時間があったので本屋に立ち寄り、懸案の「谷川健一著 甦る海上の道・日本と琉球(文春新書)」を購入した。
毎日新聞14日東京版夕刊のコラム「早い話が」で引用されていた黄海の流れについての誤った記述は、この本の中で引用されている鳥居龍蔵著「有史以前の日本(大正14年刊)」の記述であった。こんな大昔の記述をそのまま引用する文春新書も酷いが、その大昔の記述の引用に何の注釈も加えずに引用した毎日新聞のコラムはもっと酷い。
ところで、その本の本文の第1ページに「玄海灘を通り抜ける黒潮が日本海に向かうとき」という記述があるのを見て心底驚いた。また、13ページには「黒潮にのれば、遠く山陰、北陸までたやすく進出することのできる」という記述もある。学習用地図帳で確かめれば黒潮が玄界灘を通り抜けていないことや、山陰、北陸の沿岸を流れているのは黒潮ではなくて対馬暖流であることはすぐにでも分かることである。
ここだけを見ると、この著者は、海の流れについては全く無知であるとしか思えない。ところが、この本の別の個所(第2章冒頭)では、台湾の東から東シナ海に入り、トカラ海峡から太平洋へ抜ける黒潮の流路を正しく説明している。これから判断すると、著者は対馬暖流と黒潮の区別がついていないようである。南方熊楠賞を受賞した程の民族学者の著書で日本周辺の海流についての誤った知識が広められることに強い危惧の念を抱かざるを得ない。
なお、本書51ページで、大正13年10月の西表島北方での海底火山の爆発で生じた大量の軽石が日本各地の海岸に漂着したという記録(与那国町史第1巻)が紹介されている。最近何かと話題になっている海岸漂着物の由来についての議論と関連する記録として興味深い。ただし、その中の「その当時、草創期であった日本海洋学会では」という記述は、日本海洋学会が創立されたのが1941年(昭和16年)であり、該当しない。現日本海洋学会の前身のことかもしれないが・・・