2007年05月22日

気象観測用気球と海面係留ブイ

21日の毎日新聞夕刊に「気象観測用気球:風に強い翼形開発 京大チーム」と題する記事が掲載されている。京都大学の酒井さんのグループが都市気象観測用に開発した係留気球の紹介であった。リードには
風に流されにくい翼型の気象観測用気球を酒井敏・京都大准教授(地球流体力学)らの研究チームが開発した。従来の球形の観測気球は風に流されやすく、建物にぶつかる危険があり都市部では使えなかった。向い風を上昇力に変える翼型なら都市上空でも使え、都市部が暑くなるヒートアイランド現象の解明や対策に役立つという。
と述べられている。酒井さんたちのグループは、この係留気球を使って、地上300mまでの気象観測を行うそうである。
アイデアマンの酒井さんらしい工夫に喝采を送ると同時に、同じ係留でも、大気と海洋では大違いであることを思い至った。大気係留観測で用いる気球内に充填するヘリウムガスと気球周辺の大気の密度差が海洋係留観測で用いる浮体と浮体周辺の海水の密度差に比べて格段に小さい(大気と海水の密度差は約1000分の1)ためである。


私たちのグループは、米国大気海洋庁太平洋海洋環境研究所と共同で、今年2月から、仙台東方約500kmの黒潮続流北側で、海面フラックス観測ブイを水深約5000mの海底から海面まで約7000mのロープを使って係留している。強い流れや大時化でも海面のブイが沈まないように、ブイの浮力は約2.5トンである。このブイからは、風向・風速、気温・湿度、雨量、日射などの海上気象要素と海面下500mまでの水温・塩分の値が人工衛星を通じてリアルタイムで地上に送られている。得られたデータは以下のWeb Siteで公開している(説明は英文のみ)。
http://www.jamstec.go.jp/iorgc/ocorp/ktsfg/data/jkeo/

海面係留ブイシステムではブイが強い流れに引きずり込まれないようにするのが大事である。従来は、ブイの浮力と海底の重りの重さをを大きくし、水深と同じ程度の長さの太いロープを使っていた。この場合には、設置・回収作業が大変であり、多大な経費を必要としていた。これに対し、最近、多くのブイで採用され始めたシステムでは、系全体の長さを水深よりも長く(多くの場合、1.4倍)にして「柳も風」のように流れの影響を低減化している。
私たちは、このブイ(JKEOブイ:JAMSTEC Kuroshio Extension Observatry Buoy)と黒潮続流南側で2004年6月から米国が行っているKEOブイで得た現場観測データと人工衛星データを組み合わせて、世界有数の海面熱放出域である黒潮続流域を含めた北太平洋での海面熱放出量の変動を調べることを目指している。

なぜ、現場観測データと人工衛星データを組み合わせる必要があるのかについては、また別の機会に・・・

posted by hiroichi at 02:32| Comment(0) | TrackBack(1) | 日記 | 更新情報をチェックする
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