地球表面の7割を占める海は、毎年約20億トンの二酸化炭素(CO2)を吸収している。これは、全世界の1年間の化石燃料燃焼によるCO2排出量の約3分の1。海のCO2吸収量が今後どう推移するのかを探ることは、気候変動予測や温暖化対策に役立つため、国内でも船舶による観測やブイを使った自動観測装置などの研究が進んでいる。と述べられており,本文では,観測活動の例として,国立環境研究所地球環境研究センターによって行われている日本と北米・豪州間の2航路での定期貨物船を用いた航走観測と,海洋研究開発機構むつ研究所によって行われているカムチャツカ半島南方沖水深5200m地点での係留ブイを用いた深度40mにおける1年間以上の自動採水観測が紹介されている.
センセーショナルな新発見ではなくて,実施中の観測がその意義とともに紹介されることは,気候変動に関わる観測研究に従事している者として歓迎すべきことである.ただし,その記事の一部に読者に誤解を与える記載があるので,以下に補足説明を加える.
(1)リード文の「毎年約20億トンの二酸化炭素(CO2)を吸収している」について
「約」という形容を付けているから良いと記者は考えているのかもしらないが,この量は確定してはいない.厳密には,「毎年約20億トンの二酸化炭素(CO2)を吸収しているとの報告(引用元)もあるが,確定はしていない。」とすべきである.引用元(情報源)を明示することは,一般の報道では不都合な場合もあるであろうが,科学解説記事で未確定な数値を例示する場合には不可欠である.
(2)本文中の大気・海洋間の二酸化炭素交換についての説明について
記事では,「大気中のCO2濃度(379ppm)より海洋の濃度が低くなると海洋はCO2を吸収、大気中より高くなると放出する」と述べている.しかし,大気と海洋のガス交換は海面過程であり,吸収・放出と大気中の平均濃度は直接には関係しない.したがって,厳密には,「ある場所の海洋表層のCO2濃度がその直上の海面付近の大気の濃度より低くなると,その場所の海洋はCO2を吸収、大気より高くなると放出する」とすべきである.
ある場所の海洋表層のCO2濃度は,海面を通した大気との交換量のみならず,海洋表層内での生物化学過程と海洋下層および周囲から流入出過程に支配されている.これらの過程は,海域・季節によって大きく変化する水温・風速・プランクトン・表層の密度成層,その他の状況に大きく依存するため,「船舶による観測やブイを使った自動観測装置などの研究」が進められているのである.元記事では,植物プランクトンの役割に言及しているが,このことが論理的に明確に述べられていない.このため,現場観測の必要性が分かりにくくなっており,記事全体に対する読者の理解も十分に得られてはいないように思う.限られた紙面で,読者の理解を得やすい説明を提示するのは至難の技とは思うが,記者の皆さんには慎重な対応と工夫をお願いしたい.
なお,私たちのグループは,2月に仙台東方沖合い約400kmの黒潮続流域北側に海面係留ブイを設置し,大気・海洋間の運動量・熱・淡水の交換量のリアルタイム連続観測を開始している.このブイ観測の詳細については,別に述べる.
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