このブログの最近の一連のエントリーの内容の浅薄さを読むと,記者達も最近は猛烈に忙しいようである.このためか,ここ数日,海洋研究者として首をかしげる内容の記事が続いている.
1)オットセイ:しんちゃん、再び海へ 千葉・銚子沖の末尾に
同市沖北約17キロの大海原に向かった。海に放たれると、船の周囲を元気に泳ぎ回り、波間から何度も顔をのぞかせた。生きた魚を自力で捕らえられるように訓練され、野中さんらは「親潮に乗って北上すれば必ず仲間に会えるはず」と別れを惜しんだ。という記述がある.沖合い17キロが「大海原」というのも首を傾げるが,関係者の言葉として「親潮に乗って北上すれば」と紹介していることには,愕然とした.「銚子沖で親潮が北上することはほとんどありえない」ので思わず,海上保安庁海洋情報部の海流図を調べた.確かに銚子沖での流れはこのところ北へ向かっているが,これは岩手県東方までしか南下していない親潮ではなくて,福島県東方沖を中心とする時計回りの渦に伴う流れであった.仮に関係者の方の言であっても,その当否を確認すべきであろう.
2)エルニーニョ現象:2月で終息 今夏は高温多雨か 気象庁で,
ラニーニャ現象は、太平洋の赤道付近を吹く東風「貿易風」により、太平洋中東部の海面付近にあった暖かい水が西側に寄せられ、冷たい水が海面付近に上がることで発生する。に,頭が混乱.正しくは,
「太平洋中東部の海面付近にあった暖かい水が西側に寄せられ、冷たい水が東側の海面付近に上がることで発生する。」
でしょう.なお,この記事の元ネタはココ.記事の見出しと元ネタとは全くニュアンスが違う.
3)琵琶湖:暖冬で水の循環不全 湖底の酸素濃度低下にで,
例年冬から春にかけて起きる表面と深層の水の混合「全循環」が観測史上初めて、3月に入っても起きていないことが分かった。最大水深約104メートルと深い北湖では近年、深層で水中の酸素(溶存酸素)の濃度低下が指摘されている。湖底へ酸素を送り込む全循環は“琵琶湖の深呼吸”とも呼ばれるが、温暖化で琵琶湖が“呼吸不全”に陥った状態。と記述.この文章で,記者は,「表面と深層の水の混合「全循環」が観測史上初めて、3月に入っても起きていない」理由や「全循環が湖底へ酸素を送り込む」理由を理解しているつもりなのだろうか? これらの理由が分からない状況では,観測事実の丸呑みに留まってしまう.紙面の都合があるとは言え,以下のストーリーを示唆する文章にして欲しかった.
空気に触れる水面の水には酸素が多く含まれている.この水面の水は通常は十分に冷されて,湖底の水よりも重くなって湖底まで沈むこと(対流)によって湖底に酸素が運ばれる.極端な暖冬には,水面の水が十分に冷されないために,湖底まで沈まない.
ともかく,記事にする前に専門家に確認するなり,調べるなりして欲しい.