2007年03月11日

親潮は北へ流れる?

我が家では,ここ20年間以上,毎日新聞を購読している.経営基盤が弱いためか,時々,露骨な宣伝特集記事や某団体系列の広告が目に余ることもあるが,下宿時代に食堂や喫茶店で他の全国紙を読み比べていた時から毎日新聞の特集記事や種々のコラムが最も面白かったからである.一般記事にも記者名を明示したり,レイアウトも好ましい.特に,「理系白書」には,新聞連載当時から注目し,単行本化された時には迷わず購入したほどである.その担当記者が開設している理系白書ブログにも開設された当初から注目していた.

このブログの最近の一連のエントリーの内容の浅薄さを読むと,記者達も最近は猛烈に忙しいようである.このためか,ここ数日,海洋研究者として首をかしげる内容の記事が続いている.


1)オットセイ:しんちゃん、再び海へ 千葉・銚子沖の末尾に
同市沖北約17キロの大海原に向かった。海に放たれると、船の周囲を元気に泳ぎ回り、波間から何度も顔をのぞかせた。生きた魚を自力で捕らえられるように訓練され、野中さんらは「親潮に乗って北上すれば必ず仲間に会えるはず」と別れを惜しんだ。
という記述がある.沖合い17キロが「大海原」というのも首を傾げるが,関係者の言葉として「親潮に乗って北上すれば」と紹介していることには,愕然とした.「銚子沖で親潮が北上することはほとんどありえない」ので思わず,海上保安庁海洋情報部の海流図を調べた.確かに銚子沖での流れはこのところ北へ向かっているが,これは岩手県東方までしか南下していない親潮ではなくて,福島県東方沖を中心とする時計回りの渦に伴う流れであった.仮に関係者の方の言であっても,その当否を確認すべきであろう.

2)エルニーニョ現象:2月で終息 今夏は高温多雨か 気象庁で,
ラニーニャ現象は、太平洋の赤道付近を吹く東風「貿易風」により、太平洋中東部の海面付近にあった暖かい水が西側に寄せられ、冷たい水が海面付近に上がることで発生する。
に,頭が混乱.正しくは,

「太平洋中東部の海面付近にあった暖かい水が西側に寄せられ、冷たい水が東側の海面付近に上がることで発生する。」

でしょう.なお,この記事の元ネタはココ.記事の見出しと元ネタとは全くニュアンスが違う.

3)琵琶湖:暖冬で水の循環不全 湖底の酸素濃度低下にで,
例年冬から春にかけて起きる表面と深層の水の混合「全循環」が観測史上初めて、3月に入っても起きていないことが分かった。最大水深約104メートルと深い北湖では近年、深層で水中の酸素(溶存酸素)の濃度低下が指摘されている。湖底へ酸素を送り込む全循環は“琵琶湖の深呼吸”とも呼ばれるが、温暖化で琵琶湖が“呼吸不全”に陥った状態。
と記述.この文章で,記者は,「表面と深層の水の混合「全循環」が観測史上初めて、3月に入っても起きていない」理由や「全循環が湖底へ酸素を送り込む」理由を理解しているつもりなのだろうか? これらの理由が分からない状況では,観測事実の丸呑みに留まってしまう.紙面の都合があるとは言え,以下のストーリーを示唆する文章にして欲しかった.

空気に触れる水面の水には酸素が多く含まれている.この水面の水は通常は十分に冷されて,湖底の水よりも重くなって湖底まで沈むこと(対流)によって湖底に酸素が運ばれる.極端な暖冬には,水面の水が十分に冷されないために,湖底まで沈まない.

ともかく,記事にする前に専門家に確認するなり,調べるなりして欲しい.
posted by hiroichi at 03:20| Comment(0) | TrackBack(3) | 日記 | 更新情報をチェックする
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Excerpt: 環境問題に対する間違った理解は さらなる破壊をもたらします。 4,900万部の号外を刷るのに いったいどれだけの木が、 いったいどれだけのエネルギーが必要なの?
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