昨年11月の原案作成時には多忙で協力できなかったので,研究部会会員として,せめてもの貢献として,原稿の記述と図の校閲・確認作業に取り組み,結果を原稿作成に寄与されてきた部会会員に伝えた.担当者の方々のこれまでの献身に敬意を表し,自分の役割を校閲担当に限定して,原稿の問題点の指摘のみに留めるつもりだったが,具体的な修正案の提案を依頼された.
始めてみると,限られた字数で,小学生にも理解できるような「分かりやすい」解説を記述することの難しさを痛感した.海洋学は地球流体力学と生物地球化学を基礎としている.その基礎知識を持たない小学生に,限られた字数で詳細に説明することはできない.このため,結局,多少は「複雑な海の不思議」の面白さを伝えることができたとしても,全体として,天下り的な記述,あるいは知識の切り売り的な記述になってしまった.幾多の観測事実に基く理論の展開の過程に言及して,複雑な海の自然の理解を深めていく面白さを伝えたかったが,とてもできることではなかった.
折りしも,毎日新聞3月1日付け朝刊の「理系白書’07:第1部 科学と非科学/5 過熱、脳ブーム」の中で「◇独り歩きする分かりやすさ--「うまい話」はない」として
「分かりやすさ」は誤解を生む余地となり、独り歩きから社会を揺るがす事態も起こす。実験的手法を取り入れて健康情報を紹介した「発掘!あるある大事典2」(関西テレビ)は、短い言葉で言い切る分かりやすさを追求するあまり、ねつ造により打ち切られた。・・・という記事を目にした.この中で,小波秀雄・京都女子大教授(計算機化学)の以下のコメントを紹介している.
「視聴者が簡単に答えだけを求めた結果、非科学的な内容にも簡単にだまされる。『世の中にはウソやごまかしがたくさんある』という社会的常識がないことも背景にある。分かりやすい答えに飛びつくのではなく、自ら考え行動することを心がけてほしい」小波教授の「分かりやすい答えに飛びつくのではなく、自ら考え行動することを心がけてほしい」という思いは私も同感である.とはいえ,今回作成に関わったHPのような「分かりやすい」情報を提供しなければならない立場でこのコメントを発すれば,責任逃れの謗りを免れない.
「分かりやすい答え」に飛びつくのは,対象を理解したいという欲求が非常に強いということである.この強い欲求を大切にしたい.次のステップは「分かるということは,そう簡単ではない」ということと「分かるために必要な手順」を科学の失敗の歴史の紹介を通して伝え,「自ら考え行動する」方法を明示することだと思う.いつかは,海洋学の発達史の紹介を通して,子供たちが科学的に物事を捉える方法を身に付ける手助けをしたいと思っている.