2007年02月24日

私が海洋物理学を選んだ理由

昨日の午後は品川で開催された,黒潮続流域および日本周辺海域を含む北太平洋中高緯度域における大気海洋相互作用に関わる今後の研究計画立案についての打合せ会に参加した.参加者の専門分野は,強いて分ければ,海洋物理学,水産海洋学,海上気象学,気候変動学である.また,その主な研究手法は,船またはブイを用いた現場観測,人工衛星リモートセンシング,データ解析,数値モデルである.皆が各々の興味の対象と,その解明へのアプローチの夢を語り合う,楽しい会であった.

会を終えてから,有志で酒食を共にした.種々の専門分野の方々との話しの中で,私が海洋物理学を自分の専攻分野に選んだ経緯に触れる機会があった.以下は,その再掲と補足.


多くの人と同じく,私も小学生の頃から宇宙に興味を抱き,中学では天文クラブに所属して,天体写真を雑誌に投稿したりしていた(海洋学会会員には,YMさん,NYNAさん他,現役の天文ファンは多い).高校でも地学クラブに入り,その先輩の影響で同じ大学の理学部に入学した.

大学に入り,当時の宇宙物理学教室では大学院進学とその後の就職が極めて難しいという実情を高校の先輩から聞き(この情報が正しかったのか否かは今では不明だが,高校の先輩は宇宙物理を断念して化学を専攻),専門分野について再考した.それまでの授業から,どうも自分の興味は流体にあるらしいことに気付き,3回生の時には,海洋物理学,気象学,地球電磁気学,プラズマ物理学と流体に関わる実験,演習,あるいは授業に参加した.地球電磁気学とプラズマ物理学は電磁波という目に見えないものを対象とすることに違和感を感じて止めた.気象学のYR教授の講義は確立した理論の体系立った説明に興味を失った.他方,海洋物理学のKH教授およびTY助教授の講義では,海洋には未だに解明されていない現象が数多くあることが紹介され(当時は海洋物理学の教科書もなかった),紀伊白浜での現地観測の誘惑と研究室の居心地の良さもあって,海洋物理学に引き込まれてしまった.

水産学部に職を得て,初めて担当した講義では,学生を勧誘する下心から,自分の体験に基いて,海にはまだまだ未解決な課題が数多くあることを紹介した.しかし,学生からは「何を覚えたら良いのか分からなくなるので,授業では分かっていることだけを話してください」という要望に出会い,「科学を既存の知見の暗記の対象としか捉えていない学生」の存在に愕然としてしまった.現在では,この風潮が更に蔓延している.

「科学とは既存の知見・定説を疑い,更新することによって,経験の整合的理解を深める過程であること」を少しでも多くの人に理解してもらいたいと思っている.
posted by hiroichi at 03:37| Comment(2) | TrackBack(1) | 想い出 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。

同じラブログで自然科学に興味を持ち、扱っている素人です。

天文クラブに所属なされていたのですか?

私なんかは、理系に縁がなく、大人になって、図書館や本屋で広く浅く摘んでるだけなのですからお恥ずかしい限りです。


『科学報道』の内容も同感です。
私も新聞やラジオ&科学雑誌を真に受けて、赤っ恥かいた記事がいくつもあります。

今ではそれを戒めとして、ニュースな話題にはon Timeに飛び付かないようにしています。(笑)

これからも勉強がてら、拝見いたします。

長々と失礼しました。
Posted by XENA. at 2007年02月24日 11:29
XENA様
コメントをありがとうございました.

>私なんかは、理系に縁がなく、大人になって、図書館や本屋で広く浅く摘んでるだけなのですからお恥ずかしい限りです。

恥ずかしがることは全くないと思います.日常の忙しさを理由に,仕事以外の事柄について新たに学ぼうとしない私に比べれば,興味を感じることに積極的にアプローチするXENAさんはすばらしいと思います.理学部に進学したしたけれど,哲学に目覚めて,文学部に進学したり,お寺での修行の道を選んだ大学時代の級友が3名も居ます.私には,その勇気はありませんでした.

>今ではそれを戒めとして、ニュースな話題にはon Timeに飛び付かないようにしています。

このような学習能力を多くの人が持つようになれば,世の中はもっと住み易くなるのですが・・・

これからも宜しくお願いします.
Posted by hiroichi at 2007年02月24日 16:18
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