1件は米国ロードアイランド大学(URI)のM教授他と共同で2002年12月にJAMSTEC所属船「よこすか」で東シナ海中央部に設置し,2004年11月に鹿児島大学練習船「かごしま丸」で回収したCPIES(注1)他の観測資料を解析したURI博士課程のAさんが責任著者の論文原稿である.従来は,東シナ海中央部での黒潮の流速断面分布は,長崎海洋気象台「長風丸」他による年4回程度しか得られていなかった.今回の観測でそれらの日変化を,初めて得ることに成功しており,画期的な内容と思うが,原稿は十分に練れたものにはなっておらず,多くのコメントを付した.ちなみに,Aさんは地質関連の学科を卒業,民間企業に数年勤務後,大学院に入学した女性で,2004年の「かごしま丸」航海での回収航海では,彼女のポジティブな考え方・行動に軽い驚きを感じた記憶がある.
(注1)CPIESの説明は「かごしま丸」航海報告を参照(その内,解説記事をアップします)
他の2件は長崎海洋気象台との共同研究で行った黒潮と琉球海流系の合流域である九州南東海域での観測結果,あるいは九州南方海域での海底までのCTD,LADCP観測結果をポスドク研究員のNさんが責任著者として解析した結果である.前者はトカラ海峡を通過して東シナ海から流出してきた黒潮と奄美大島南東を北上してきた琉球海流系の各々の都井岬沖断面での合流を議論しているが,主として,論理展開の欠落箇所についてコメントした.後者は貴重な観測結果の紹介であるが,構成を含め更なる推敲が必要である旨をコメントした.
AさんとNさんの論文原稿は,私およびその他の共著者のコメントを参考にした改訂作業を経て,共著者全員の合意を得た後,学術雑誌に投稿され,更に査読者の厳しいコメントの壁を越えて,やっと受理・公刊される.この過程には,おおよそ半年から1年はかかると予想される.これからのシェイプアップが楽しみである.
海洋観測資料の解析は,種々の不必要な情報を含む資料から新たな現象を抽出という点で,原石を磨き上げて美しい宝石に仕立て上げる作業に似ている.原石に隠された価値を見出すのには,宝石デザイナーと同じく多くの知識に裏付けられた独創性と資料解析技術が必要である.また,その価値を人に伝えるのには,誰もが納得するような論理展開とその証拠の提示が必要である.まだだれもしたことの無い観測法あるいは観測海域での観測を立案・実施し,得られた資料を解析して,新たな海洋像を提案するというのが,海洋の観測研究の醍醐味の最たるものである.また,だれもが入手可能な資料の中に隠されている重要な事柄を抽出し,今までの解釈・理解を深化させること
<修正記録>
「今までの解釈・理解を深化させることも楽しいことの一つである.」の字句の一部を修正しました.